今まで私は「マジックの細いやつがサインペン」と思っておりましたが、それは間違いだったのですね。
先日、久しぶりに、キタハラヒロユキさんのブログをのぞきにいきました。
この方は写真家で文具に詳しい。
お忙しいため、月に一度程度の更新なのですが、時々、「あっ!それ、知らんかったわ」という文具にお目にかかるので、なかなか楽しい。
今回のお薦めはパイロットの「ゲルマーカー」。
「クレヨンのような質感」らしいのですが、マーカー……サインペンやマジックの類で、クレヨンみたい。
……なんじゃそりゃ?
そもそも、「マジック」や「マーカー」や「フェルトペン」や「サインペン」と呼ばれている、ペン先が繊維やプラスチック製の筆記具は、JIS規格で「マーキングペン」と規定されているもの。
『ウィキペディア』(2008.7.31 12:38)によると、マーキングペンは、ペン先に圧縮フェルトや合成繊維などを使用。
金属やプラスチックなどの軸の中の綿にインクが染み込ませてあり、毛細管現象でインクがペン先に染み出してくるので、線を描けるのです。
万年筆やボールペンなどとは違い、書く角度の影響を受けない。
重力の影響を受けない。
つるつるした表面のものにも書けるなどが特徴。
さて、国産のマーキングペンの歴史の始まりは、1953年(昭和28年)。
寺西化学工業と事務用品を扱う内田洋行が、共同開発した速乾性の油性マーキングペン「マジックインキ」。
『寺西化学工業株式会社』サイトによると、最初のマジックインキは油性染料インキでした。
現在、インキの種類は5つ。
ガラス・布・陶器・革用の速乾性の油性染料インキ。
不透明性や耐光性があり、プラスチック、金属、屋外の標識などに最適の油性顔料インキ。
油性インキに比べて鮮やかで、紙に書いても、にじみや裏映りが少ないのが特徴。
耐水性がないのが欠点。紙専用の水性染料インキ。
微細な顔料粒子を水溶液に分散したインキで、にじみや裏写りがなく、耐水性・耐光性に優れていますが、樹脂分を含まないため、紙以外の素材に書くことはできない紙専用の水性顔料インキ。
最近は、油性インキのように、プラスチック・ガラス・金属などの素材にも書けて、耐水性・耐光性もある、水性顔料インキに樹脂を加えた改良型インキも現われました。
ただ、乾燥速度は油性インキに比べると遅いのが弱点。
……なるほど、それぞれ一長一短があるのですね。
ちなみに、「マジック」「マジックインキ」は商品名をあらわす登録商標で、商標権を持っているのは内田洋行。
本当は、「パイロットのマジック」だとか「コクヨのマジックインキ」だとか、言ってはいけないらしいですが、いまや、油性マーキングペンの代名詞。
一方、水性マーキングペンの大御所、ぺんてるの「サインペン」の歴史は面白い。
『ペんてるライブラリー』サイトによると、1963年(昭和38年)、ペんてるが、世界初の水性マーキングペン「サインペン」を開発。
ペン先が細く、画数の多い漢字が書きやすい。
サラサラと軽いタッチで細い線が書け、紙に裏写りしない画期的な商品……のはずでした。
ところが、予想に反してサインペンは売り上げが低迷。
ペんてるは、サインペンの活路を、ペン文化の本家アメリカに求めました。
シカゴで行われた文具国際見本市へ出展。
サンプルとして来場者に配っていたサインペンの一本が、偶然にも第36代L.B.ジョンソン大統領の手に。
サインペンの書き味を気に入った大統領は、その場でサインペンを24ダース(288本)購入。
「大統領のペン」として、人気に火がついたサインペンは、アメリカ上陸1ヶ月で180万本の売り上げを記録。
毛細管現象を利用して中綿にインクを沁み込ませているサインペンは、無重力空間でもインク漏れせず、安定した書き味なので、NASAは公式スペースペンとして、宇宙飛行士の筆記具にサインペンを採用。
1965〜66年に飛んだ有人宇宙飛行船、ジェミニ6号・7号の中でも使われました。
……うーむ。すごいことになってるなあ。
日本の文具の歴史を調べていると、時々「世界初」というくだりに出くわして驚くことがあるのですが。
アメリカ大統領のお気に入りで、しかも、NASAの公式宇宙ペンなんだ。
恐るべし。ペんてるのサインペン。
ちなみに、「サインペン」も、ペんてるの登録商標で、本当は「トンボのサインペン」だとか「三菱のサインペン」だとか、言ってはいけないものらしいのですが、マジックと同様、いまや、水性マーキングペンの代名詞。
そして、さらに進化を続けるマーキングペン。
パイロットの「ゲルマーカー」。
クレヨンに似た質感、すべりがよくスムーズに線を描ける芯は、新開発の「固形ゲル」。
紙に描く瞬間だけ、筆記の圧力で、液体のようになめらかな状態に変化する???
……どういう仕掛けなんだか見当もつきません。
『パイロット』サイトには『ゲルマーカーならではの、とろけるような描き心地です』とあるけれど。
……うーむ。気になる。
しかも、発色が鮮やかで耐光性に優れていて、色あせにくい。
全30色で、別売りのレフィル(芯)もあるらしい。
……うーむ。気になってきた。
またまた「気になる病」再発。
どちらかと言えば、私は、筆記具よりは「革と紙」の文具ばかりが気になる性質ですが。
今、筆記具の世界では、ものすごい技術革新が行われているらしい。
ちょっと、筆記具も気になってきました。
こうして見ると、やっぱり日本は「文具大国」。
これは、もっと胸を張っていいことなんじゃないかと思いますよ。
ラベル:サインペン