そこで、よく見ると、弓道の方の道着や袴は、私たち合気道のものとは違う。
私たち合気道は、一言で説明すると、「空手着の上から袴を履く」いでたちなのに対して、弓道の皆さんは、まず着物の裾を短くしたような道着を着て帯を締め、足袋を履き、スカート状の袴を履かれているのです。
あの袴はなんだろう?
「敵を大らかに包み込んで平和的に制する武道」の合気道とは違い、「矢を射る作法を通して己の心を厳しく見つめ、自己研鑽を積む武道」の弓道をされている女性は、きりりとした「寄らば斬る!」の雰囲気をたたえた方が多く、質問しにくい雰囲気。
もし、ここで「すみませんが、その袴を見せてください」なんて言おうものなら……
「無礼者!」と一喝されて、「他武道の者に言いがかりをつけられた」となり、スポーツ教室の師範にまで、ご迷惑がかかってしまう……。
それは困るんだなあ。
合気道の袴は、時代劇の侍が着ているズボン風に足が二つに分かれた「馬乗袴」と呼ばれるもの。
腰の部分を保護する「腰板」には、ゴム板が入っています。
では、合気道の袴は他武道のものとは違うのでしょうか???
……うーむ。気になってきた。
「確かに、弓道の袴は腰板のないものが多いですよ」と、武道具屋さんでもある澤増ハジメさん(『観照(前・後編)』にコメントあり)。
弓道袴は、男子は黒の腰板つき馬乗袴。
女性は黒か紺の行灯袴(股のないスカート状の袴)が多いらしい。
『もっとうまくなる!弓道(松尾牧則著・ナツメ社)』に「弓道着の着付け」が写真入の図解で載っています。
それによると、腰板つきの弓道袴には腰板を固定するための「ヘラ」がついている。
ヘラ?!
「ヘラ? 剣道の袴にもあるで。そういえば合気道袴にはないわな。それに、剣道袴の腰板は、合気道袴みたいにゴム入ってないで。もっと硬いやつや」
剣道3段の夫は言いました。
「そんな硬い腰板やったら、突きよけるために後ろに飛んだ時、腰打って痛いやんか」
「あほ。なんのための防具やねん」
夫は大笑い。
そうでした。剣士の皆さんは、袴の上から胴を保護する「胴」、腰を保護する「垂れ」をつけておられるのでしたね。
ちなみに、「居合袴は合気道袴のような腰板ではありません」と英信流居合道もなさる幻之介さん(『心眼(前編)』などで活躍)。
……ということは、その武道の動きによって、袴の形が微妙に違う?
比較的運動量の少ない弓道の袴は、ズボン状になっていなくてもかまわない。
飛び受身(宙返りのような受身)のような動作をしない居合道の袴も、合気道のものとは違う。
走ったり飛んだりの激しい動きをする剣道の袴は、硬い腰板とヘラをつけていても、その上から防具をつけているので大丈夫。
防具なしで、投げ飛ばされて腰から地面に叩きつけられることがある合気道の袴は、ケガの元になりそうな硬いヘラや腰板ではなく、衝撃を防ぐゴム板入り腰板がついている……。
なるほど。
武道によって形状が異なる「袴」ですが、実は、この「袴の武道」をする人々には、ある共通の悩みがあるのです。
特に女子には深刻な悩みが。
……次回に続く……
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