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2008年08月19日

袴考(後編) 伝承と変化

その大問題は……「着崩れちゃう」こと。

 

これは、合気道に限らず、弓道、剣道、居合道、薙刀など「袴の武道」をする人にとって、初めて袴を履いた瞬間に生じる共通の悩み。
しかも、不思議なことに、男性の袴は、めったに着崩れしないのに、女性の袴は着崩れしやすい。なんで???

「下手やからとちがうか?」……その意見も否定できない面がありますが。

『佐々木合気道研究所』によると、

『合気道の稽古では、道衣を帯で締めその上から袴をはくので、常に帯や袴がゆるまないように腹を張るようにして、また、腰板に意識を集中するとよい。骨盤は倒しておくと動きやすい』

とあります。

胸式呼吸をすると、お腹や胸が激しく動くので、袴が着崩れてくる。
腹式呼吸が身についていれば、着崩れることはない。
……確かに、有段者や高段者は、どんなに激しい稽古をしても、袴がずれてきたり、道着が乱れたりすることがありません。

でも、女性ばかりに袴の着崩れが多いのは、それだけが理由ではないようです。

『読売オンライン』2007年8月3日付の『発言小町掲示板』では、袴の着崩れに悩む女性居合道家の質問に、「袴の武道」をたしなむ女性たちが熱心に回答しています。

「私はウエストで」という剣道の方。
「ウエストで結ぶと着崩れしないのですが、民族服か?と叱られます」と合気道の方。

……そうそう。
私も初めて自力で袴を履いた途端、師範から「その袴は腰高で、宝塚風でよくないね」と、お叱りを受けたので、かなり落ち込みました。
私はアイルランド系で、手足長く肩幅広く腰高で、典型的な西欧人体型。
日本女性より腰骨の位置が高いのですよ。
 
一方、きちんと着崩れ対策をしている方もおられます。

「下帯をしっかり締めていると、多少動いても着崩れることは少ないですよ」と弓道の方。

……袴の着付けを女性有段者に教わった時、「このぐらい帯を締めないと崩れるよ」と、口から腸が飛び出すかと思うぐらい、ぎりぎりと厳しく帯を締められました。
「基本は教えるけど、自分のやり方を早く見つけなさい」とも言われ、今は完全に我流です。

「みぞおちで締めます。道着の上から、サラシを巻くと着崩れにくいですよ」と薙刀の方。

……なるほど。サラシか。その手がありましたね。

実は、女性の腰はウエストがくびれ、骨盤が張り出しています。
例えるなら「円錐」。
男性はウエストと骨盤の太さほぼ同じ「円筒形」。
この二つに同じように帯を巻きつけた場合、円錐の方が不安定。
そこで、ウエストのくびれた部分にサラシを巻き、腰を円筒形にすれば、帯を安定して締めることができて、袴も着崩れしにくい。
いいアイデア。

道着や袴には男女差がありません。
私が道着袴のことでお世話になっているのは岩田商会(『道着と袴と(後編)』に登場)。
道着を買おうと電話したところ、電話に出た店員に身長と体重を尋ねられました。
身長と体重を答えると……。

「身長からいくと、3号になると思うのですが。手は長い方でしたら、縮み分含めて、3L号の方がいいでしょう。道着上下ワンセットですね。ご注文ありがとうございます」

……こらこら、そんな大雑把なことで、ええんかい? 
ちなみに袴は身長だけでした。

これは他の武道でも変わらないようで、剣道着の基準は身長と着丈と裄丈。
弓道着は身長。
剣道も弓道も袴は「前紐下から裾までの長さ」……これだけ。

バストもウエストもヒップも、肩幅も袖丈も首周りも、前股上もワタリ幅も股下も裾幅もありません。
帯の締め方で、ある程度サイズ調整できるため、こんな大雑把なサイズ設定なのでしょう。

ところで、『合氣道ねっと』掲示板に、杖道もされる合気道家の書き込みがありました。

『合気道は、袴の着け方について一貫した指導が全くなされていないと思います。受身も取る武道ですから、途中で着崩れが起きるのも体験上理解できます。ただ、稽古の初めと終わりくらいは、日本が誇る文化なのですから、着付けについても全国一環指導みたいなものが必要だと思います』

……「別に全国統一せんでも、ええやんけ」と、私は呟きました。

『初心者のための剣道講座(小川春喜著・スキージャーナル株式会社)』では剣道袴、『もっとうまくなる!弓道(松尾牧則著・ナツメ社)』では弓道袴の着付けが、写真入りで丁寧に解説してありますが。
どちらにも「これは基本型の一つにすぎない」という趣旨の但し書きがあります。 

合気道も同様で、所属道場でも「袴から帯端を出す」派と「帯を袴の下に入れる」派に分かれています。
高段者が、帯の端に刺繍した所属道場名を誇らしげに見せるのも、かっこいいし、女性有段者の袴の腰部分から、ちらりと黒帯が見えるのも粋。
「着崩れなければよろしい」ということで、袴の着付けが怪しい私も、お目こぼしいただいているわけです。

ところが、昨年晩秋に黒帯黒袴をいただいて、突如、袴の着崩れ再発。
何度も洗濯して柔らかくなった茶帯から、硬い黒帯になったせい? 
まさか黒帯に拒絶されてるとか……。 

不安になった私は夫に相談しました。
夫は合気道と同じ袴を使う武道、大東流合気柔術二段。
袴の着付けを見てくれることになりました。

袴を履く前の状態。
道着とステテコに黒帯を締めた、空手姿と同じ状態からスタート。

まず、袴を履き、袴の前の部分だけ手で持ち、帯にあてる。
袴の紐は前を一つ折り返し、帯の下に入れる。
紐を帯下で一周させ、さらにもう一周。

「帯を支点に袴の紐を巻きつける。それはええ。そやけど、袴の紐、長過ぎるんちゃうか」
「足が長いから、ワンサイズ大き目の袴なんで、それは、しょうがないねん」

どうやら、洗濯を繰り返して縮んだ茶帯と紺袴から、新しく、サイズの大きな黒帯黒袴に変わったので、今までと同じように着付けしても、うまくいかないらしい。

「紐、あんまり邪魔やったら切ってもええねんで。……そやけど、なんで黒帯に、自分の名前なんか刺繍しとんねん。目立ちたがりやのう」
「手違いやねん。道場で「袴に名前を入れますか」って訊かれて、「お願いします」って返事したら、帯の方にも名前刺繍してあってん。どうせやったら、「電光石火」とか、「疾風迅雷」とかが、かっこよかったのに」
「あほ、それは剣道や空手やないか」

夫は苦笑い。

帯を袴の下に隠すと、腰の部分から名前が一部だけ見えて見苦しいので、私は「帯端を出す」派。
(帯を袴に隠す着付けは『合氣道ねっと』に図解があります)

二周させた紐を前で結んで、袴の前部分の着付けは終了。
袴の後ろ部分の腰板は帯の上に乗せる感じで置き、紐は帯下にくぐらせ、帯の前まで回して結ぶ……。

「……読めた! 問題はそこやな」

夫は大きくうなずきました。
私は、袴の後ろ部分の紐の余りを、帯の前で片結びしていたのですが。
夫は紐の余りを、帯結びにして、余った紐を帯にからませるように、二周させ、最後に、もう一度、前で結び、余った紐の端を袴の下に隠すように提案。

「そうすると、袴がより強固に帯に固定できる。お前は日本の女性と違って、ウエストから骨盤までの長さが短いから、ヘソで帯結んだら、サラシなしでもいけるやろ」

とりあえず、これで稽古してみますが……。

武道具メーカーが、増え続ける女性武道家のために、女性の体型を考慮した女性用袴を、早く開発してくれることを望みます。
posted by ゆか at 14:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 武道系コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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