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2008年10月11日

先の先(前編) 懸の先・体々の先・待の先

最近の稽古で印象に残った師範のお言葉。

 
「大事なのは、技がきれいに決まる、効くといったことよりも、相手の「気」を読みながら、常に自分が主導権を握り、ゆるがないまま技をかけること」

……うーむ。難しいなあ。

「技が美しく決まる」は、取り(技をかける方)と受け(技をかけられる方)が、協力して初めてできるもの。
ですが、「技の美しさ」ばかりを追求していくと、思わぬ落とし穴があります。

「合気道は試合がなく、取りと受けが決まっているので、受けの方は最初に攻撃をしたら、後は受けだけ取っていればよいと思い、相手に隙があっても攻撃しようとは考えない。技をかける方は、受け側が途中で攻撃してくることなど考えない……これはよくない」

『佐々木合気道研究所』の佐々木貴所長は、こう警告されておられます。

『だが、武道であるからには、受けを取る方は最後の最後まで、相手に隙があればいつでも攻撃できるような心構えと態勢を整えていなければならない。受けを取りながら、気持ちを自分の体と相手の動きに集中し、「ここでは返せるな」とか「ここでは打てるな」などと隙を見つけていくのである。技を掛ける取りの方も、受けている相手に攻撃されないよう、隙を作らないようしなければならない。取りと受けの双方が緊張することによって、よい稽古ができ、そして上達し合うのである』

……なるほど。先輩の有段者に、やたらに返し技をかけられてしまう私は、「よい稽古」をさせていただいているのですね。
でも、自分が返し技をかけるチャンスは、めったにないところをみると、まだまだ修行が足りないのか。

常に自分が主導権を握り、技をかけて、相手を自らのうちにおさめてしまう……
そのコツとして、師範は「先の先(せんのせん)と」いう言葉を使われます。

「相手が攻撃してくる時、まず、戦う「気」が起こり、続いて、剣を構え直す、打つために拳を後ろに引くなどの攻撃の予兆が体に現われ、そして、攻撃してくるのです。そこで、こちらは、相手の「気」が起こった瞬間に動く」

師範は、正面突き小手返し(相手が拳で突いてくるのをよけて関節をきめる技)を例に、実際に見せてくださいました。

受けの有段者が、突きを出すために構える間も与えず、一瞬で有段者の懐に飛び込み、顔面に当て身を入れる師範。
……さすがです。

ちなみに、「先の先(せんのせん)」は、剣道の言葉で、「先の先」、「対の先」、「後の先」とともに「三つの先」と呼ばれているもの。

「先の先」は、相手の打ち込む気を読み、相手が仕掛けないうちに打ち込んでいくこと。
「対の先」は、相手の動きを読んで、それを防ぎつつ、一瞬早く打ち込んで勝つこと。
「後の先」は、相手が先に打ち込んできたが、その動きを読んで、相手の竹刀を押さえたり払ったりして、応じ技で勝つこと。

私の考えでは……「後の先」は力ずくで、なんとかなりそうな気がする。
「対の先」は、技術がいるので難しいかも。
「先の先」は感覚が鋭敏でありさえすれば、腕力や武道の技は、それほどいらないけれども、これは素質と感覚を磨く不断の努力が必要。

私は、我流の護身技術で、「先の先」を極めることを目指していました。
喘息持ちで持久力がなく非力な女性には、身を守るためには、それしか選択の余地がないので。

そして、その究極の形「立ち会った瞬間、すでに相手は絶体絶命の状態にある」を実戦でしたことがあります。(『最大の敵』参照)

興味深いことに、『武蔵と五輪書(津本陽著・講談社)』にも「三つの先」が出てきます。

こちらから打ちかける先……懸(けん)の先。
敵が仕掛けてくる先……待(たい)の先。
こちらも敵もかかってくる先……体々(対々)の先。

「懸の先」は、静かにしていて突然早くかかる先。
うわべで強く早くかかりながら、心中に余裕を残す先。
心を強く張りつめて敵を圧倒する先。
無心で敵をうちひしぐ思いで一貫して勝ってしまう先など。

「待の先」は、弱いように見せかけて相手が気をゆるめる機に強く斬り込んで勝つ先。
こちらが強く踏み出して、敵が仕掛ける拍子を変える機をとらえて勝つ先など。

「体々の先」は、早くかかってくる敵に、こちらは静かに強くかかり、敵近くで思い切り踏み込み、敵がひるむ瞬間を逃さず打ち勝つ先。
静かにかかってくる敵に、こちらは身を浮かせて少し早くかかり、敵に近づいた後は敵の動きに従って、強く打ち込んで勝つ先など。

武蔵自身は「懸の先」を理想としていたようですが、「先」には、たくさんの種類がありますね。

同じ「懸の先」でも、師範は「静かにしていて突然早くかかる先」。
私は、殺人鬼の形相で笑っていることが多いらしいので、「心を強く張りつめて敵を圧倒する先」でしょう。
もっと、色々な「先」が使い分けられるといいなあ。

『武蔵と五輪書』は、剣道三段居合道五段の作家・津本陽氏が宮本武蔵の『五輪書』を現代訳して注釈を加えたもので、『五輪書』は古文なので苦手……という方におすすめ。

それにしても、難しそうなのは「体々の先(対の先)」。
しかし、合気道には、これに相当する技術もあるのです。

……次回に続く……
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