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2008年10月14日

先の先(後編) 駆け引きの妙

「体々の先(対の先)」……自分も相手も仕掛けに動くこと。

 
これで、相手より優位になるのには……。

師範は、よく「誘う」ことを強調されます。
相手が腕をつかみに来る時、わざと手を上げて、相手が伸び上がるような不利な体勢で腕をつかませる。
わざと手を下げて、相手がかがむ不利な体勢でつかませる。

師範は水の流れのような、よどみのない動きの技。
相手は流れに巻き込まれる木の葉のように、すぅっと師範の術中にはまり、師範の思いのままに投げ飛ばされたり、固め技をきめられたり。

でも……難しいんだな。これが。
相手を自分の有利な位置に誘うのに集中し過ぎて、隙ができたり、相手が誘いにうまく乗ってこなかったり。
苦戦中です。 

ところで、他の武道では「誘いをかける」ということはあるのでしょうか?

「誘い? そんなん剣道や空手じゃ、しょっちゅうやんか」

空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段の夫は、得意そう。

「例えば、剣道で上段に打ち込むと見せかけて、中段突きを狙うとか」
「だけど、相手も、そのフェイントの「型」があることはわかってるんでしょう。簡単に乗ってくるかなあ?」

「そりゃ、出会いがしらは難しいけど、あと一本取られたら負け、というとこまで追い込んどいたら、あせっとるから、こっちの誘いに乗ってきやすいわな」

剣道の試合は3本のうち、先に2本とった方が勝ちです。

「空手には、上段回し蹴りと見せかけて、途中で弧を描いて下がる「三日月蹴り」がある。脇腹狙うもんやけど。こっちは、わざと脇空けて、三日月蹴りを誘い、よけて蹴り入れる」
「そんなに、簡単にひっかかるか? 相手も三日月蹴り誘ってるって、わかりそうやけど」

不審に思う私に、不敵に笑う夫。

「そこは演技力やんか。わざと顎出して、しんどそうに見せる。お前はどうやってたんや?」
「実戦では、殴る蹴るで忙しかったんで、よくわからん。演技する余裕はなかったな」
「ははは。まだまだ場数が足りんな」

夫は笑いますが、私は、常に色々なものと戦い続けているので、わざわざ、これ以上戦うものを増やすこともないと思います。

でも、よく考えると、私は「三本勝負」のような「ルールのある武道の試合」をしたことがないんだなあ……。
「ルール無用の殴る蹴る」と「試合のない合気道の演武」と両極端。
でも、この二つ、「試合」はないものの「駆け引き」はあります。

合気道には、相手に悟らせず、不利になる位置で自分の腕をとらせる「誘い」がありますし。
我流の実戦技術でも工夫していました。

基本的に、「殴る蹴る」という動作は「攻撃の動き」と「防御の動き」が一対になっています。
「攻・防・攻・防」のリズム。

これに対して、自分から仕掛けることにない私は、「よける・意表を突く・ダメージを与える」の3つの動作を一組にしていました。

まず、スタートして「攻撃・よける」「防御・意表を突く」……ここまで相手と私の動きはかみ合っています。

「意表を突く」は、あくまで相手の気をそらすための動きで、相手に防がれてもかまわない。
本命は3番目の「ダメージを与える」。

相手は「意表を突く」でペースを崩す。
それに失敗したとしても、「攻撃を防げた」と錯覚し、私が「次に防御に入る」先入観もあって、一瞬隙ができる。
そこを突く。

実戦の殴り合いは、長引かせてはいけない。
私の体の意思(自己防御本能)に、「とにかく相手の隙を撃て」とだけ言っておきます。
自己防御本能が全開になった時、私の意識はありませんから。
もう任せるほかはないのです。

後で、自己防御本能のやったことを知って、「そんなことするか!」と驚くことも多い。
殺人鬼のような形相で笑うらしいし。

凶器攻撃や「急所を狙う」「喰う」などの、武道や格闘技で「禁じ手」とされていることまで、ためらいなくやっている。
毎回「もっとマシなことができなかったのか」と反省するのですが……。

自己防御本能は、危険や相手の敵意に敏感に反応し、危険が大きいほど、とんでもない対応をします。
そして、危険が去ったり相手が戦意を失ったりすると、ぴたりと動かなくなる。
「闘争本能」とは別物で……本当は戦いが嫌いなのかもしれない。

なるべく「戦うはめになること」を避けるのが私の役目だと、最近は思います。

それから「殴る蹴る」は「攻防で一対が基本」と言いましたが、例外もあります。
「攻・攻・攻」のパターン、例えば回し蹴りの連続技を使うような高度な実戦技術者など。
でも、このレベルの人は、修行を積んでいるので分別があります。

何度か、そのレベルの人と出会いましたが、お互いに一瞬で相手の技量を感じ取れるので、争ったことはありませんね。
むしろ「武闘派同士」で意気投合することが多いです。

さて、合気道をしていて興味深いのは、合気道の動きは「攻撃の動き」と「防御の動き」の境目がない分、こういった駆け引きがやりにくいこと。
誘いの動きも、どこから攻撃の動きになっているかが、わかりにくい。

だから、もし、合気道の「誘い」ができるようなったら、より敵を傷つけずに制することができるかもしれない。
前途多難ではありますが。
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