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2008年11月04日

消せるボールペンの怪

『極細ペンの世界』のコメントで、tobirisuさんが、さりげなくリクエストした「消せるボールペン」。

 
 
確かに、十数年前、「消しゴムで消せるボールペン」というのが、文具メーカー各社から売り出されたのですが……。

私も買ってみたのですが、どうしても、完璧に消せない。
かすかにボールペンの色と跡が残ってしまうんですね。

この「消しゴムで消せるボールペン」は、いつのまにか姿を消した……と思われていたのですが。
ひそかに文具メーカーは研究を進めていたようです。

『三菱鉛筆株式会社』サイトによると、紙とは無数の繊維と繊維が絡まってできているもの。
ボールペンのインクは、繊維と繊維の隙間に顔料が入り込んで着色するしくみ。

鉛筆で書いた字が消しゴムで消えるのは、鉛筆の顔料の粒子が大きく、繊維の隙間に入り込まない「紙に乗った状態」になっているからです。

ここで紹介されている「ユニボール シグノ イレイサブル細字」は、紙の繊維の隙間に入りにくい大きな粒子の顔料と、顔料よりも小さな透明の微粒子を配合。
この粒子が、筆記時に紙の繊維の隙間に入り込むことにより、顔料が繊維の隙間に入ることを防ぎます。

まあ、大雑把に言うと「紙の上にインクが乗った状態にしておく」というわけですな。

現在出回っている、消しゴムで消すタイプのボールペン「パイロット e−gel」でも、若干ボールペンの色と跡が残ってしまいますから、改良が進んでいるとはいえ、この分野、まだまだかなあ……と思っていたところに。

2007年彗星のごとく登場したのが、「パイロット フリクションボール」。

文具店、百貨店の文具売場はおろか、ごく普通のスーパーの文具売場にさえ「消せるボールペン・フリクションボール」のコーナーがあるほどの人気。

このボールペンは、一定以上の温度になると色が消える、「フリクションインキ」を使用。
筆跡をボディ後部の専用ラバーでこすって、摩擦熱でインキの色が無色透明に。

……うーむ。怪しい技術だ。

従来の消せるボールペンのような、「インクが紙に吸収されない状態にしておいて、消しゴムで吸着して取り去る」じゃなくて、「インクの色が見えなくなるだけ」なのかあ。

『かがくナビ』サイトによると、「フリクションインキ」は、極小のマイクロカプセルに、「発色剤」「発色させる成分」「変色温度調節剤」の成分を封じ込めたもの。

常温では、「発色剤」と「発色させる成分」が結合して発色。
ラバーでこすられた摩擦熱で、65℃以上の温度になると、「変色温度調節剤」が「発色剤」と「発色させる成分」の結合を阻害して、色が消えてしまう。

……ということは、お湯を入れると色が変わるマグカップのように、温度が下がると色が復活する???

そもそも、パイロットが温度変化で色が変わるインキを開発したのは、今から30年ほど前。
当時のインキは、一定の温度以上で色が消えても、少し温度が下がると、すぐ元に戻ってしまい、マイクロカプセルが大きくて、ペン先からインキが出にくく、なめらかに書くこともできないものでした。

その後、「変色温度調節剤」を新たな素材に変えることで、色が出る温度範囲を−20〜65℃と広げ、そして、マイクロカプセルを約5分の1に小さくした結果、筆記具として使用可能な「フリクションインキ」が誕生。

……なんだかわからんけど、すごい技術らしい。

『パイロット』サイトには、「フリクションボール」の使用上の注意が載っています。

「証書類、宛名書きには使用できません」。
「直射日光の当たる場所や高温下に放置しないでください」。
「60℃以上になるとインキが無色になります」。
「感熱紙など紙の種類によっては、消去に不向きな場合があります」。
「強くこすりすぎると、裏面の筆跡まで消えてしまう場合がありますのでご注意ください」。

……うーむ。細心の注意が必要な文具らしいな。
でも、手帳や地図の書き込み、クロスワードパズルなどには便利かもしれない。

こうなると、持病の「気になる病」は重症。
近所のスーパーで「フリクションボール」のブルーを買ってきました。

消すと紙の表面に、どんな影響が出るのか知りたいので、白ではなくて、薄いクリーム色、方眼罫入りのシステム手帳リフィルを使って実験。

クリーム色の紙にライトブルーのインク。
「システム手帳」の文字。
書き味は、水性ペンなので、ゴリゴリした感じがしますが、これは私の筆圧が高いせいでしょう。

で、ペンのお尻のところについているグレーのラバーで、書いた字の上から、こすってみましょう。

これは普通の消しゴム(今はプラスチック製が主流。『消しゴムいろいろ』参照)より、かなり硬めのエラストマー樹脂。


ラバーは消しゴムと違って「消しカス」が出ないので、そこはメリットかもしれませんが、かなり力を入れて執拗にこすらないと消えない、じゃなかった。
インクが無色になりません。

普通、このリフィルに消しゴムをかけると、消しゴムをかけたところだけ、色が白っぽくなり、罫線も薄くなるのですが、フリクションボールを使った場合、紙はクリーム色、罫線もくっきり。

インクが無色になった後、しばらく冷やして様子をみましたが、温度が下がっても、字が再び現われたりはしないし、消した字の上から再び字が書ける……。

やっぱりすごいわ。

ただ、難点は、キャップ式ペンなので、字を消す時に、キャップをペンのお尻にはめるわけにいかなくて、キャップの置き所に苦労することと、筆圧が高い人の場合、インクが透明になっても、はっきりと筆跡が紙に残ること。

『かがくナビ』で、フリクションインキの開発担当者は「今後もノック式ボールペンや、ペン先が細いペンなど、フリクションインキを利用した、より便利な筆記具を作っていきたい」と語っていますから、今後改良されていくのでしょう。

「消せるボールペン」の一番大きなメリットは、「消せる」ことそのものよりも、「間違っても消せる安心感」なのかもしれませんね。
posted by ゆか at 13:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 日常コラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 丁寧なレポート、ありがとうございます。
「消せるボールペン」も進化しているんですね。
 いったいどういう仕掛けなのか想像すらできませんorz。
 
 話のはしばしに伺えますが、どんだけ筆圧が強いんですか(笑)。
 もしかするとグーで握ってません?(←子供か!?)
 あるいは逆立ちしながら書いてるとか。(←雑技団か!?)

 試しに「ケルボ」でググってみました。
 ↓サイトはかなり文房具分が濃い(なんて言うんでしょ。鉄道マニアの場合は「鉄分が濃い」と言いますが)ようです。
【ケルボの評判】(けふこの本棚と文具の引き出し)
http://book-stationery.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_35db.html

 ↓は昔のケルボの写真がのってて、異様に懐かしかった。
 そうそうこんなフォルムで書き味はイマイチでした(泣)。
【昭和の雑誌広告・懐かしモノ】
http://blogs.yahoo.co.jp/thatseurobeat/24513003.html

 えーと、こういうサイトのリンクを勝手に張るのはNGですかね。
 もしダメだったらご連絡ください。
 リンク抜きでコメントし直します。≦(._.)≧

PS
考えるとこがあって、こっそりとブログを始めることにしました。
いろいろと教えていただきたいことがあります。
ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。
Posted by tobirisu at 2008年11月04日 17:19
初めまして
トラックバックありがとうございました。
先日、こちらのコメント欄のリンクから私のブログにお見えになった方がいてうれしく思っていました。
今回のトラックバックもありがとうございました。
消せるボールペンもいろいろな仕組みがあって興味深いですね。

フリクションボールは、冷凍庫で冷やすとまた字が現れます。
ゴムでこすった場合はこすれた感じになりますが、ドライヤーなどで一気に熱して消すと、冷やした時きれいに線画が復活します。
(え、復活のさせ方ではないですか^^;)

たぶん、キャップにゴムがつかない理由は、キャップをしてこすると力が入りにくいのと、キャップがなくなったり付け替えられたりしても消せるボールペンであることをアピールするためではないかなと思いますが、キャップを軸の後ろにはめずなくさない方法があるといいなと思います。
Posted by けふこ at 2008年11月11日 19:18
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