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2008年12月16日

演武会(前編) 平常心?

毎年秋に、関西の合気道の道場の門下生が集結して、合気道道主、植芝守央先生をお招きしての研鑽会が行われます。

 
合気道国際大会が終わった後、道場の掲示板に『関西合同演武大会開催』の告示と、参加希望者が自分の名前を書くリストが貼り出されました。

今年は国際大会があるから、合同研鑽会はないと聞いていたけれど。
まあ、会場は近いし。
毎回、会場の設営や道主の接待は、私の所属道場の役目だから、ちょっとでも、お手伝いに……と、まあ、軽い気持ちで自分の名前をリストに書き込みました。

ところが……。

「親分、演武会、参加されるんですか。これは楽しみですね」

英信流居合道の使い手で、2段の若者(『抜刀術』などで活躍)は、にやにやしました。

「毎年やってる研鑽会でしょう。準備係の人の数が足らんそうやし」

私の言葉に、若者は呆れ顔。

「親分、今回のは演武会……いつもの研鑽会とは違うイベントですやんか」
「えっ? そうなの?」
「研鑽会と演武会の区別もつかんと、参加しはったんですか? さすが親分。器が違う」

若者は大笑い。
研鑽会は、道場外から偉い先生をお招きして稽古の指導をしていただくことで、演武会は道場の威信をかけた発表会……。
しまった! えらいことになった。

演武大会一週間前。
道場の掲示板に貼られた『演武会参加者リスト』をながめて、北海道出身の2段の若者は難しい顔をしました。

「……今回の演武会、技のレベル高そうだな」
「そうなんですか?」
「この人数で、このメンツだったら、大抵の技は当然できると思われるだろうし、多人数掛け(『一対多数』参照)もありだろうね」

参加者は15人。
顔ぶれをよく見ると、初段は、この秋昇段した幻之介さん(『心眼』などで活躍)と私ぐらい。
あとは6段の●●師範を筆頭に、ほとんどが2段以上なのです。

確かに、師範一人に十数人がかかっていく多人数掛けは、演武としては、見栄えがいいかもしれないけれど……きれいに受け身を取れるかな。私。

さらに心配なのは、「道場演武の技は、●●師範が、当日その場で決める」という噂。
つまり、その場になってみないと技がわからない。
……これは昇級昇段審査の形式です。

他の道場……例えば、所属道場とは縁の深い正勝会・西大和会道場では、演武会当日の技を一生懸命稽古しているそうですが。
出場者のほとんどが2段以上だから、演武会では「我が道場の門下生は、いついかなる時でも、平常心で演武できる」自信を他道場に示す?
……うわぁ。どうしよう。

そこへ、僧侶の有段者(『投げと受身』などで活躍)から『演武会では、我が道場を背負ってがんばってください』という、脳天に漬物石を乗せられたような励ましのメール。

しかも、前日の「予行練習」では……。

全員、あらかじめ対になる相手を決めておき、会場では2列に並んで入場。
まず、畳1枚ほどの等間隔で並び、座る。

座礼は合掌方式。正面(武道館の掛け軸がある方向)、来賓席、そしてお互いに礼の順。
技は正面から向かって右側が取り(技をかける人)。

●●師範が見本の技を演武、その後「はじめ!」の合図で同じ技をする。
「やめ!」の合図で、その場で座り、次の技を見る。
そして、その技をする。

持ち時間が終わると合図の太鼓が鳴るので技を止める。
お互いに礼、正面に礼、来賓席に礼。
2列のまま退場、来賓席に一礼して、元いた場所に戻る……。

で、技の練習は?

「技は当日、その場で私がする技を演武する。技を間違っても、そのまま続けなさい」と●●師範。
……これは難儀な。
他道場に向けての発表会じゃなくて、「平常心検定」だ。

私と一緒に演武するのは2段の女性有段者。
いきなり「取りの方お願いします」と言われてしまいました。
実は、取りの方が緊張するのです。
だんだん不安になってきました。

「演武会に出る? お前が? なんでまた?」

夫の失礼な質問。
「毎年やってる研鑽会と間違えて申し込んだ」と答えると、夫は苦笑い。

「そういう大舞台は、慣れの問題やからな。まあ、ここは経験やと思うて失敗してこい」
「失敗って、決めつけることないやんか!」
「そやけど、大舞台で演武するのには、お前の苦手な「平常心」がいるやんか」

夫の鋭い一言。
私が得意なのは「異常事態を尋常ならざる冷静さと破天荒な手段で制する」。
「異常事態に普段通りの冷静さでルールに従った手段で処理する」……平常心は苦手。

「今回は、道主のご子息、植芝充央先生が来られるから、ぜひ演武を見たかったし」
「そうか。合気会も4代目になるんか。参加せんでも、見学したらよかったんに」
「また、それを言う。だから、間違ったんだってば!」
「……そんで、お前は、一番何が不安なんや?」 

突然、夫は真顔で言いました。
図星です。

「……座礼が苦手で……前に、座礼の最中、手刀で頭狙われたから。異常に緊張するねん」

「演武会で座礼する時、相手との間合いは?」
「ざっと2メートル」
「それやったら、相手は3歩踏み出さんと、お前の頭まで手刀届かん。迎撃できるやろが」
「頭ではわかってるんだけど。体は警戒してるね。いつも」

道場長師範は「挨拶は心を開いて相手に迫ること」とおっしゃいますが、私の挨拶は「衣の下に鎧が見え隠れしている」状態。
いけないことはわかっているのですが。

「ちょっと座礼、やってみ」

リビングで、いつもの座礼……。
「なんや! その頭から突っ込む座礼は」と厳しい叱責。

「合掌形式やったら、まず合掌、両手を静かに床について礼をする。その時、頭を下げながらも目線は相手に向ける。こめかみで相手見るな。頭下げるのは三つ数えるぐらいの間。そして、姿勢よく、ゆっくりと身を起こし、手は静かに両膝に。左手が先、次に右手や」

「相手に目なんか向けて大丈夫かな……。私の目は、あんまり見えてないんやけど」

生まれつき強度のアレルギーだった私は、ハウスダストやダニ、カビなどの「見えざる危険」に対応するために、こめかみや眉間で危険物を察知する技術を身につけたのですが。
その代わり、観察力や動体視力などの「目を使って物を見る能力」がゼロに近いのです。

「お前は心眼に頼り過ぎる。基本的に、人間は両の目しか見えとらん。たとえお前の目が見えへんでも、相手は見られてると思うだけで、下手に仕掛けられなくなるんや」
「そういうものなのかなあ」

私は夫に言われた通りの座礼を、何度か練習してみました……。
目ではなく、眉間で相手を見るように心がけると、相手には「自分を見ている」ように思わせることができる。

「コツつかんだようやな。間違っても道主が怒るわけでもないんやから、気楽にいけ」

そう言って、夫は笑顔を見せました。

……次回に続く……
posted by ゆか at 14:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
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