演武大会当日。
道場の有段者たちが、会場設営のために、朝早くから市の武道館に集合。
「がんばりましょうね」と、にこやかな幻之介さん。
彼は柳生新陰流、英信流居合の使い手。
演武会には慣れておられるから、うらやましいな。
「親分、リラックスですよ」と笑うのは2段の若者。
手刀で私の頭を狙った張本人です。
受付の机や椅子の設置、植芝充央先生の接待のお茶菓子も準備。
例年同じ場所で、合気道関西地区合同研鑽会が催されているので、設営は手慣れたもの。
設営が終わり、更衣室で、一緒に演武する2段の女性と袴の着付け。
「演武会、失敗しそうで心配です」
「座礼が気になりますか? 私は△△君と違って、頭狙ったりしませんよ」
「……いや、他にも心配が……。私には、●●師範の技は、わかりにくいのです。稽古の演武見てて、「次の技は天地投げか」と思ってたら、「では、呼吸投げ。始め!」とか言われて。時々全然違う技だったりするんで」
「●●先生の動きは早いし、流れ(相手の状況に応じて変わる技)をされますからね」
「見取り稽古が下手なせいです。もし、演武の最中、全然違う技やったら、すみません」
「……まあ、なんとかなるんじゃないですか」
なぜか、若い女性有段者は、にこにこしていました。
会場で、正勝会・西大和会の植田さん(『遠方の友』にコメントあり)とも、ご挨拶した後、いよいよ開会。
緊張してきたか……というと、そうでもありません。
今回は、色々な点で不利なので、「平常心」ではなく「尋常ならざる冷静さ」でいくことに。
緊張のあまり演武の最中に転んで、道場に恥をかかせるわけにはいかないので。
大会実行委員長の説明によると、今回の『大阪府合気道交流演武大会』は、初めての催しらしい。
大阪府内の名だたる道場の師範と、200名を越す演武者。
関西各地や愛知などの他県の道場長の賛助演武。
植芝充央先生の総合演武もあるとのことで、武道館の観覧席は、カメラの三脚が林立し、立ち見の観覧者であふれかえっています。
最初の道場演武が始まりました。
ほほえましい子供たちの受身の演武、若者の力強い演武。
年配者の洗練された演武。
私たちのところのように少数精鋭(?)の道場もあれば、力を誇示するように、大人数の演武をする道場も。
でも、他の道場は、演武の技を練習してきています。
「その場で演武の技を決める」道場は、私たちぐらいかもしれない。
そして、私たちの演武の番です。
入場、整列、礼……ここまでは順調。
●●師範の見本演武を正座して見学。
最初の技は入り身投げのようだけれども、あまりにも早い動きで、それが片手取り(こちらの右手を相手が左手で取りにくる状態)なのか、交差取り(こちらの右手を相手が右手で取りにくる状態)なのか、はっきりわからない。
……まずい。
「では、始め!」
しまった!
技の名前を言ってくれないのか。
せめて技の名前がわかれば、なんとかなるものを……。
動揺しながらも、とりあえず立ち上がって、相手に近づきました。
「今のは、片手取り入身投げです」
受けの女性有段者が、私に近づきながら、小声で技の名前を教えてくれました。
●●師範の「やめ!」の声がかかると、演武を中止。
次の技の見本演武。
そして次の技。
はっきりと技は分からないのですが、彼女が、技の名前を教えてくれたので、なんとか無事に演武を終えることができました。
全ての道場演武が終わると、今度は師範演武。
柔道整復師の若者(『黒帯』などで活躍)から、事前に師範演武の見どころを、メールで教えてもらっていたので、本当に助かります。
合気剣の組太刀や、二刀流対杖、短刀などの、初めて見る武器技の演武が、たくさん出てきたので、思わず真剣に見入ってしまいました。
師範演武の最後が、私の所属道場の師範。
師範が入場したとたん、会場は水を打ったように静かに。
快い緊張の中、師範の流水のような淀みのない動きは、いつも以上に鮮やかで、見ごたえがありました。
他県から招かれた賛助師範演武も終わり、演武会のフィナーレは合気会本部道場・道場長補佐、植芝充央先生の総合演武。
まだ若い方ですが、将来の4代目道主。
「今日は、精一杯演武させていただきます」の挨拶の後、観覧者が固唾を飲む中、演武がはじまりました。
合気道の演武は、人によって、まったく形が違います。
「流れる水(『守破離の宿命』)」。
「空をゆく雲(『研鑽会』)」。
「弾む火の玉(『帰還』)」。
「揺るがぬ大樹(『遠方の友』)」。
……それぞれに魅力的。
そして、植芝充央先生は、相手を巻き込む力強い演武。
「白き旋風」といったところ。
お父上の現道主・植芝守央先生の演武、どこから見ても端正な「折紙細工の鶴」とは違いますが、技が決まった時の立ち姿は、道主先生そっくりなのが興味深かったです。
最後に、植芝充央先生に花束が贈呈され、記念撮影。
演武大会も盛況のうちに終了。
私たちは撤収作業にかかりました。
「よお、大将。お疲れさん」
声をかけてきたのは、初段の柔道整復師の若者。
今回は観覧席で見学していました。
「いやあ。見苦しいものをお見せして、申し訳なかったね」
「大丈夫や。誰も道場演武なんか見てやせんわ。ほとんどが師範演武目当てやねんから」
苦笑する若者。
「そう言ってもらえると、こっちも気が楽になるわ」
「前に言ってた道場の師範演武は、ちゃんと見た?」
「うん。知らせてもらってたから、かなり注意して見てたけど。師範も、すごいけど。他の道場の師範演武も、なかなか面白かった」
「まあ、DVDとかで見るのと、生で見るのは、全然違うからな。これからは、よその道場の演武も見た方がいいで。勉強になるわ」
彼の言う通りです。
動体視力がゼロに近い私は、「動いているものを凝視する」のが苦手で、他人の演武を見ることを敬遠してきたのですが。
そろそろ考え直さなければいけないでしょう。
勘違いで参加してしまった演武会ですが、得たものは多かったようです。
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2008年12月20日
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