ハンズの文具売場の特設コーナーに飾られた「あるもの」に、私の目はくぎづけに。
サイズは単行本ぐらい。
1センチほど厚みのクリーム色の紙束。
その一部分だけ目の粗い布(寒冷紗・本の補強のために背に貼る布)が貼られたもの……本?
私は、手作り製本を十年ほどしていました。
紙を糸で綴じて、背に寒冷紗を貼っただけで表紙がない「本の中身」。
でも、なめらかで上質な紙は魅力的。
買って帰って、ボール紙と革で表紙と背表紙を装丁しようかな……。
よく見ると、その隣に、オレンジの帯がついた商品や、透明な表紙やシール付しおりがついた商品も並んでいる。
……ということは、これは見本ですね。
売っているのは、本の中身に半透明なパラフィン紙のカバーがついた状態。
装丁をする者として「もうちょっと、なんとかならんか?」とも思いましたが。
一見「本としては未完成状態」で、この商品は完成品らしい。
確かに、この状態でも、昔の岩波文庫のような「知性と気品」は感じられます。
紙の質、糸で綴じる製本技術に、よほどの自信がないと、これほどシンプルなデザインで売り出すことができないでしょう。
……うーむ。とんでもない代物だ。
商品タグは『MDノートダイアリー』。
なるほど。あの「ミドリ」の商品なのか。
「ミドリカンパニー」は、『手帳用紙対決!』でご紹介した「ノックス」と同じ、「デザインフィル」のブランド。
製紙メーカーから出発したノート、手帳、レターセット、シールなどの「紙もの」を得意とする会社です。
『頑張る日本の文房具(シリーズ知・静・遊・具編集部 ロコモーションパブリッシング)』で、『信頼文具舗』の和田哲哉氏が『静かな製品』と評した、主張しすぎない上品さを持った製品が多く、私も昔、ここのシステム手帳リフィルに、大変お世話になりました。
1960年、ダイアリーのために作られた紙が、MD用紙(ミドリダイアリー用紙)。
日本国内の自社工場で抄造。
紙の厚さ、重さ、色の検査。インクのにじみ具合、乾きやすさ、裏抜け、すべり具合、ひっかかり具合といった書き味や風合いなどの質感まで、いろいろな筆記具を使って検査、合格してはじめて「MD用紙」として出荷する念の入れようです。
『ミドリカンパニー』サイトによると、ミドリは2008年1月、このMD用紙のよさを最大限に引き出した「書くことを楽しむためのノート」……「MDノート」を発売。
無地と横罫の2種類。
横罫ノートは、中央の罫線だけが太く、1ページの中で上下に内容を書き分けることができます。
両方ともフラットに開く糸かがり製本。
付属品はパラフィンの表紙と、インデックスシール、しおり。
別売りでペンホルダーつきのPVCカバーも発売。
A5と新書サイズ、文庫サイズがあります。
MD用紙の質を生かすために、装丁さえ……極限まで不要なものを削ぎ落としたデザインは、「白木の神棚」にも通じるところがある。
……と思っていたら、このMDノート、ちゃんと、2008年のグッドデザイン賞を受賞しているのでした。
もちろん、表紙に絵を描いたり、本体とカバーの間に好きな写真をはさんだりすることもできますし、革製品を得意とする「ナガサワ文具センター」は、オリジナルMDノート革カバーも売り出しています。
『ミドリカンパニー』サイトには、『使い終わった後は、あなただけの愛読書に』とあるから、私のように、自分で装丁してしまう人もいるでしょう。
好評なMDノートに続き、ミドリは、2008年8月に「MDノートダイアリー」、9月に「MD日記」を発売。
そして、この「MDノートダイアリー・A5」ですが、年間カレンダー、月間スケジュール、7ミリ罫の8分割メモ、無地メモ。
インデックスシート1枚、しおり紐つき。
パッケージはパラフィン紙。
開いてみると、驚くほど余白の多いシンプルなレイアウト。
細々としたレイアウトのシステム手帳リフィルを見慣れた私は、一瞬、「もうちょっと、なんとかならんか?」と思ってしまいましたが。
「製品にユーザーの手が加わって、はじめて完成する」……それがミドリの考え方なので、他社の製品と違って、ユーザーが自由にできる部分を多くしているのですね。
しかし、それは「完成度が低い・低品質」ではありません。
それにしても……『今年1年の物語を記してください』って……プレッシャーかけないでくださいよ。
なお、『ミドリカンパニー』のサイトには「ダウンロードしおり」コーナーも。
PDFをダウンロードして、葉書サイズの紙に印刷し、カッターで切り取って、ノートにはさむことができます。
5ミリ方眼罫+紙定規、買物リスト、2009年カレンダー、一週間スケジュール、スケジュールメモはいいとして……「俳句用短冊」、「4コマ漫画用枠」というのは、なんでしょうかね。
「この4コマ漫画枠を印刷し、ご自分で漫画を書いて、しおりにしてお楽しみください」ということかな?
「書くこと」が好きなユーザーには、とても楽しい商品だと思います。
ちなみに、これまで無地と横罫だけだったMDノート。
2009年1月13日には、5ミリ方眼罫のMDノートが発売される予定。
使ってみたいけど……私のような悪筆の人間が使うのは、なんだか申し訳ないような気がします。
ラベル:ダイアリー