『動く禅』『武にして舞なり』……
合気道の特徴を表わすものとして、しばしば使われる言葉。
『武にして舞なり』は、合気道の動き、華麗な技、宙を舞う飛び受身などで、素人目にもわかるものですが、わからないのは『動く禅』。
実は、道場の新年会で会った5段の有段者から、「女ならではの特徴を生かした女の合気道を目指してみ(『逡巡』参照)」とは別に、もう一つの宿題が出ていたのです。
「技が「うまい」とか「下手」やとか、「効く」とか「効かない」とか、「勝つ」とか「負ける」とか、そういうことは、合気道の初歩の話や。合気道は自己表現でもあるんや。君は合気道を通して何を表現したいんや?」
「表現ですか?」
「……あのなあ。君は、そういうことも考えんと、合気道やっとるんか? ……もうちょっと、考えなあかんで」
呆れられましたが……。
合気道をはじめて7年目。
「喘息に効く丹田呼吸法習得」で、いつも頭が一杯で。
「合気道を通して何かを表現する」なんて、考えたことがなかった。
実戦では「勝つか負けるか」どころか「死ぬか殺すか」の気構えで戦ってましたし。
こうして私は、「女の合気道」とともに「何を合気道で表現するか」、二つの宿題を抱え込んでしまったのでした。
「女の合気道」……自分なりの合気道の形。
これは、「最少の動きで相手を制する陽炎のような静かな合気道」に決まりました。
呼吸量が通常の7割しかなく、自己防御本能で相手との間合いを瞬間的に正確に計ることができる、私の特徴を生かしたものです。
しかし……「合気道を通して自分が表現したいこと」
……これも難題。
確かに、自分の感情や価値観は、そのまま動作や表情に表れます。
だから、合気道の演武の最中、「自分の生きざま」は、意識するしないを別として、はっきり出てしまうことは間違いありません。
自分が何を理想とし、合気道の演武を通して、どう見る人に伝えるか……難しいなあ。
ところが、ある時、思いもかけない方向から、その答えはやってきました。
録画していた正月のNHK番組『茶の湯大百科』。
これは茶道の世界をAからZ、26のキーワードで読み解くもの。
美しい茶道具、茶室、庭園、掛け軸や生け花。
茶聖・千利休の生きざまから、茶道の伝統を守ろうとする若い人々の姿。
茶の湯の世界に魅せられた外国人たち。
……大変見ごたえのある番組。
『茶の湯大百科』の最後の項目、アルファベットの「Z」……「ZEN」。
日本独自の文化として、海外で高い評価を受け、広がりつつある茶道の姿を紹介したものでした。
武道とも大変に縁の深い「禅」ですが、茶道と共に発展してきたものでもあります。
元々、茶道の起こりは、鎌倉時代に、日本に禅宗を伝えた栄西や道元によって、薬として持ち込まれた抹茶が、精神修養的な要素を強めて広がっていったもの。
室町時代の茶人、村田珠光は、大徳寺の一休宗純に参禅して、茶禅一味の境地(「仏法は茶の湯の中にあり」、仏の教えは日常の生活の中にある)に至ります。
この時から、茶の湯を行なう者の心のあり方を重視する「わび茶」がはじまりました。
そして、安土桃山時代。
心の安寧を求めた多くの戦国武将に愛された「わび茶」は、千利休によって「茶道」として確立されます。
「一期一会、とらわれを離れた自由な境地で、客人を誠心誠意もてなす」……
番組の中の、茶道の人の所作。
その洗練されたムダのない動き。
「舞」とは異なる美しさ。
……昔から憧れていたもの。
そこで、ひらめきました。「武にして舞なり」はできなくても「動く禅」なら、呼吸量が少なくても、腰に欠陥があっても、できるかもしれない。
茶の湯の「禅」の思想、「一期一会。自分と天地自然が一体になり、とらわれのない自由な境地で、相手を大きく包み込む」
……合気道の理想に通じるところがあります。
よし、とりあえず、目標「動く禅」。
これで、5段の有段者からの二つの宿題。
「自分なりの合気道の形」「合気道を通じて、周りの人に何を伝えるか」の答えが出ました。
「陽炎のような静かな合気道」
「茶道のような無駄のない美しい所作で、大らかに相手を包み込む」
……これです。
ところで、『佐々木合気道研究所』の所長、佐々木貴7段によると、開祖は「50〜60歳はまだまだ鼻たれ小僧だ」と言われていたそうです。
稽古や演武を通して自分の内面と向き合う合気道の世界は、禅の世界のように広く深く、人によって、そのめざす道、得る答えが違うらしい。
……そのため、合気道の異名の一つが「動く禅」なのかもしれません。
『若いときの稽古は、自分の得意な技を見つけ、徹底的にそれを磨く、そして得意技をどんどん増やしていけばいいのだ。若いときは、不得意な部分が無意識のうちに得意なもののレベルに近づこうとするものだ』
『高齢になったら自分の不得意なもの、弱いところを補うやり方がいいと思う。技の稽古でも上手くできない技や動き、弱い部分を鍛えるために、丁寧に稽古をすべきだ』
……とても参考になることが書かれています。私は不惑を過ぎたばかりで「高齢」とは言えないですが。
喘息で人より呼吸量が少ないので、若者型の稽古よりは、高齢者型の稽古をする方が、より長く合気道を続けられるかもしれない。
『人は誰でもいつかは死ななければならない。合気道の稽古もいつか出来なくなる。どの時点で稽古ができなくなるのかは、その人その人で違うものだ。それは、その人の合気道観による。人を投げることを目的とすれば、その力が尽きたときがその人の合気道寿命であるし、身体を鍛えるためにやっていれば、受け身も出来ず、正座ができなくなれば止めるだろう。しかし、もし合気道が自分の人生の一部であり、生きること即合気道であれば、自分の生が終わるまでできるはずである。つまり、合気道を止めたときが死ぬときなのである』
……重い言葉。これからは、心して、一つ一つの稽古を大事にしていかなければ。
さて、すでに、取り(技をかける方)の時は、最少の動きで相手を制していますが。
問題は受け(技をかけられる方)の時。
体へのダメージを最小限にできる、効果的な受身の方法はないのかしらん。
……次回に続く……
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2009年02月14日
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私も最近そんなことを考えておりました。
私は剣の道を歩く者ですが、剣の道も無駄のない動きから、丹田に力を込め、一気に力を爆発させることが必要。
この動きを修行するために茶の湯の道も覗いてみたいと思っていたのです。
全く無駄な動きのない芸術的な所作。
客人をもてなす大きな心。
剣の道にも無駄のない所作と大きな心が必要です。
合気の道もやはり同じことが言えるのでしょう。
武道は武士の時代から、先人達が脈々と続けてきた修行の賜物。
自分が選んだ道を歩き続けるため、あらゆる修行に励もうではありませんか。