なぜか修正テープがアップで映っている。
何かしらん?
「この修正テープを世界で最初に発明したのが、シードなのです」
シード?
青いパッケージの「Radar」を作っている消しゴムメーカーのシード?
子供の頃から、シードの消しゴムを愛用している私は、思わず番組に見入ってしまいました。
実は、この番組はNHKの『ビジネス新伝説 ルソンの壷』。
ルソンの壷とは……。
安土桃山時代、堺の商人、呂宋助左衛門(るそん・すけざえもん)が、フィリピン・ルソン島の日用品の壷を大量に輸入。時の権力者・豊臣秀吉や千利休が、ルソン壺を茶壷として高く評価したため、助左衛門は巨万の富を築いたという話。
「現代のルソン壺」……独創的な技術で成功している関西の中小企業を紹介するのが、この番組。
シードが出てくるとは、ちょっと意外。
シードは大阪が本拠地。
消しゴムの安全性と品質を追求する、日本字消工業会事務局が置かれている、日本の消しゴムのトップメーカー。
『株式会社シード』によると、この会社は、現在「消しゴム」の主流になっている塩化ビニール樹脂製の「プラスチック字消し(『消しゴムいろいろ』参照)」を、世界で初めて開発。
「レーダー(Radar)」は、強い力をかけなくてもスッと字が消える「軽い消し味」を追求して、1968年に発売された高性能・高品質の消しゴム……じゃなくて、プラスチック字消し。
文房具屋やスーパーで売っている1個50円程度のもの。
子供の頃から惜しげもなく使っていた消しゴム……じゃなかった。プラスチック字消しは、そんな大層な代物だったのか。
……ちょっと反省。
「レーダー」と人気を二分する消しゴム界の雄、トンボ鉛筆の「MONO」。
これも、買って使っていますが、「レーダー」に比べると、わずかに消す時に力がいるようです。
というわけで、やっぱり、消しゴム……じゃなくて、プラスチック字消しは「レーダー」が一番好きですね。
一方、シードが発売した世界初の修正テープ。
修正液の類がご法度の職場で仕事をしている私には、なじみのない文具ですが。
ひょっとして、このメーカーは「字を消すこと」に、ものすごく執着してるんじゃないかなあ。
……そんなことを思っているうちに番組は進行。
「これが、今、開発中の究極の字消しマシン。初公開です」と、
レポーターが紹介したのは……一対の大型の黒い箱。
ガラスの窓がついたドラム式洗濯機状のものと、コピー機状のもの。
2つはチューブのようなものでつながっています。
使い方は、字を書いた紙や印刷した紙を洗濯機状の箱に入れる。
轟音とともに洗濯機の中に水が放出され、ガラス窓越しに、紙と一緒に猛烈な速度で回っているのが見えます。
しばらくすると、コピー機状の箱が、音を立てて白い紙を吐き出してくる。
「このリサイクルマシンは、紙と水を一緒に溶かし、インクを抜いて字を消して、再び白い紙にして取り出す機械です」
シードの西岡靖博社長の言葉。
そこまでして、字を消したいのか!
このメーカーはっ!
うーむ。字を消したい情熱も、ここまでくると立派なもの。
シードは、他の文具メーカーと同じく、エコロジーにも熱心です。
再生樹脂と廃棄されるホタテ貝の殻を原料にした消しゴムや、再生樹脂容器で、テープだけを交換できる修正テープも発売。
エコマークを取得しています。
しかし、「字を消すために、紙そのものを再生」……そうくるとは。
今、個人情報保護などの機密保持のために、書類はシュレッダーで断裁することが一般的ですが、その紙から再生紙を作るのは難しい。
紙の総合商社『株式会社アクアス』によると、シュレッダーされた紙も、強度は落ちるものの再生できるそうですが。
焼却ゴミとして廃棄されるのが一般的。
その原因は……。
シュレッダーされた紙は体積が数倍に膨れるため、運搬保存が割高。
細かく裁断された紙は、パルパー(古紙を粥状に溶解する釜)に投入する風で飛散、水に浮くなどして溶解しにくいこと。
コピー用紙やコンピューター用紙の他に、伝票などに使われているカーボン紙やノーカーボン紙(感圧紙)、FAX用の感熱紙など、再生工程で発色する禁忌品が混じり、それを取り除けないこと。
紙はゴミ収集用ビニール袋に入っていて、それを別に処分しなければいけないことなど。
ずいぶん、もったいない話です。
「オフィスで使った紙を、その場で再生」……この「究極の字消し」、目のつけどころはいいですね。
リサイクルマシンは、1枚の紙を10回以上再生できるので、環境問題も、オフィスでの機密保持も経費節減も、同時に解決してしまうかもしれません。
それにしても、このリサイクルマシン。
リコーやゼロックスなどのオフィス事務機メーカーが開発しそうなものなのに。
なぜか消しゴムメーカーのシードが、先に開発してしまったが興味深い。
「Gマークの回し者(グッドデザイン・モニター)」の私としては、ぜひとも、このリサイクルマシンに、2009年度のグッドデザイン賞を受賞してほしいですね。
『今後は、修正テープのような劇的な字消しの開発をすすめると共に、消しゴムがあるかぎり、さらに良いものを作るため研究開発を続けていきます』
シードのサイトの言葉通り、確かにリサイクルマシンは「劇的な字消し」、究極の消しゴムかもしれない。
でも、定番の「レーダー」も、しっかり守っていってほしいですね。
ラベル:消しゴム