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2009年03月17日

武道必修化(後編) 素質

では、現在の指導要領と、新指導要領を比べてみましょう。
 

新指導要領は、「武道」を、「柔道・剣道・相撲」に限定。

『次の運動について、技ができる楽しさや喜びを味わい、基本動作や基本となる技ができるようにする』ということで、柔道・剣道・相撲について、「相手の動きに応じた基本動作から、基本となる技を使って、攻防を展開する」ように指導する。

……「基本動作や基本となる技ができるようにする」、簡単に言うてくれとるけど。
有段者になっても、基本技稽古せんとあかんのやで。
一通りできたらOKとちがうんや。
ついでに言うたら、「勝つ武道」より、「楽しめる武道」の方が、教えんのが難しいで。

『武道に積極的に取り組むとともに、相手を尊重し、伝統的な行動の仕方を守ろうとすること、分担した役割を果たそうとすることなどや、禁じ技を用いないなど健康・安全に気を配ることができるようにする』

……「分担した役割」って何?
基本的に武道は個人種目ですけど。
まさか、生徒に生徒を指導させる……なんていうことじゃないですよね?

『武道の特性や成り立ち、伝統的な考え方、技の名称や行い方、関連して高まる体力などを理解し、課題に応じた運動の取組方を工夫できるようにする』

……武道の歴史・思想を、体系的に、初心者にわかりやすく教えるのは、武道家でも難しいことなんですが。
武道講習を受けただけの教師にできるのでしょうか?

さて、現在の指導要領。
武道は必修ではありません。
科目は「柔道・剣道・相撲」。

『自己の能力に適した課題をもって次の運動を行い、その技能を身に付け、相手の動きに対応した攻防を展開して練習や試合ができるようにする』

……現在の方が、生徒の自主性を大事にしている?

『伝統的な行動の仕方に留意して、互いに相手を尊重し、練習や試合ができるようにするとともに、勝敗に対して公正な態度がとれるようにする。また、禁じ技を用いないなど安全に留意して練習や試合ができるようにする』

……「勝敗に対して公正な態度がとれるようにする」、いかにもスポーツ的ですね。

『自己の能力に適した技を習得するための練習の仕方や試合の仕方を工夫することができるようにする』

……「その武道に興味がある」子供だけを集めて、武道を教える現在の状態なら、できなくはないかもしれません。

なんだか、現在の指導要領の方が「マシ」なような気がしますが。

ところで、私が時々稽古に出かける支部道場、「スポーツ教室・合気道」は、市の武道館が稽古場です。
普段は、広い畳フロア全面を使って稽古していますが。
夏休みだけ、中学生の柔道講習会と時間が重なり、フロアを分割。
左半分が合気道、右半分が柔道の稽古。

稽古していても、どうしても隣の柔道が気になって、私は横目で講習会を観察しました。

私たち合気道は、二人一組での技を稽古しますが、それぞれがバラバラに動いています。

柔道の方は、講師の号令で、整列した30人ほどの中学生が、一斉に同じ動きで投げ技の型稽古をしていますが。
白帯の中学生たちの中には、どうしても動きについていけず、遅れる子がいます。

講師の指導を見ていると……。

一通り技が終わった後、講師は「今の技が遅れた者、手を上げろ!」と叫ぶ。
5、6人の中学生が、バツが悪そうに右手を上げました。
しかし、講師は、できなかった子供を教えるわけでもなく、別の技の稽古の指導をはじめました。

……なんだったんだ? あれは?

私が中学生だったら、手を上げさせられた時点で、柔道が大嫌いになると思います。
動作が遅れただけで、内心傷ついているのですから。
その上、みんなの前で、「私は遅れました」と手を上げさせられるなんて。
これは「指導」というより「懲罰」です。

家に帰って、夫に、その話をしてみました。
夫は空手4段剣道3段少林寺拳法3段大東流合気柔術2段柔道初段。
空手と剣道の指導員の経験もあります。

「俺は、剣道教えとったのは、警察やったから、初心者相手やなかったけど。空手では、大人の初心者教えとったな」
「例えば、数十人集めて、正拳突きを一斉にさせたりしたら、やっぱり、遅れる人がいるでしょう。そんな時、叱るの?」

「なんでやねん。身体能力は個人差あるねんから、遅れる人間がいて当たり前や。そこで叱ったら、できてる人間まで萎縮してまうやろ。俺は、いっぺんに10人以上は1人で見れんから、3、4人ずつで正拳突き100回させて、遅れる人間だけ呼んで、隅の方で個人指導したな。できる方も、できん方も、やる気なくさんように。そこは気つけとったわ」

……なるほど。
道場の場合、「やる気を失くす=道場をやめる」ですから、学校の授業より、細かな配慮が必要になるわけですね。
しかも、武道家は「その武道が好き」ですから、「その武道のよさを伝えたい」情熱も、講習を受けただけの体育教師よりも強いでしょう。

一方、子供たちに剣道の指導をする4段の現役剣士、のっぽ剣人さんは、「確かに、竹刀の素振りで遅れる子がいますが、「頑張れ」とだけ励まし、稽古の後に、その子だけを残して、コツを教えます。遅れた時点で叱れば、その子はやる気をなくしてしまうからです」とおっしゃっています。

……ということは、私が見た光景は、何かおかしいわけですね。
これが、中学の柔道の一般的な指導方法でないことを、祈るばかりです。

ちなみに合気道の場合。
4段の審査の課題の中に「初心者指導実技」があるそうです。

まったく受身をできない初心者を1人選んで、4段受験者に、基本技「正面打ち入身投げ」を指導させるもの。

受験者は、数十人の門下生の前に呼び出されて緊張している初心者を、まずリラックスさせる。
初心者の運動能力や性格を見切り、適切な言葉をかけながら、心を開かせ、楽しく稽古させる。
そして審査員は、その様子を審査……恐ろしい話です。

「高段者たるもの、技が巧みなだけでなく、人としての器も大きくなければ」
……それが、合気道の考え方。

「技がうまいことと、技を教えるのがうまいのとは、別問題や」という夫の言葉は、すべての武道に共通することかもしれません。

なお、新指導要領では、武道は中学1、2年が必修、3年は選択制になります。

『第3学年では、少なくとも一つの生涯を通じて継続できる運動やスポーツに出会うことができるようにすることを目指していることから、ある程度のまとまった時間を確保して、その運動のもつ特性や魅力により深く触れることができるようにすることを想定しています』

……嫌だなあ。中学3年で生涯のスポーツや武道を決めるなんて。
私が合気道をはじめたのは35歳。
「生涯をかけられるもの」に出会うのは、学生時代とは限りませんよ。

以上、武道を必修科目とする新教育指導要領をご紹介しましたが。
もうすこし、「地域の実情に合わせて指導する」裁量権を、地方自治体にいただけないでしょうか。

そうすれば、地方財政を逼迫させず、数少ない熟練した武道指導者でも、子供たちに武道のすばらしさを伝えられる教育、それができるかもしれません。
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