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2009年05月09日

理合(前編) 杖と剣と体術

「そうそう、こないだ納戸を掃除してたら、こんなもの出てきたのよ」

  
合気道歴30年以上。
4段の女性有段者は、にこにこしながら紙包みを差し出しました。

「何ですか? これ」
「岩間の斉藤師範の武器技の本」
「えっ!」

岩間の斉藤師範……合気会茨木道場長の故斉藤守弘9段。
合気道開祖植芝盛平翁の合気剣と合気杖を継承した達人。
この方が編み出した杖(じょう)の型「13の杖(十三型)」「31の杖(三十一型)」は、合気道の杖の基本形とされています……が。 

「今時杖を持って襲ってくる相手がいるわけでもないから」と、最近では、杖の稽古をしない道場もあり、すでに「杖を知らない有段者」がいるようです。
杖取り技(杖で打ちかかってきた相手を素手で制する技)は3段の昇段審査の技。
稽古する機会がないと、杖の持ち方さえわからないまま、2段まで昇段してしまうのでしょう。

所属道場でも、めったに杖の稽古はしませんが、「我が道場から杖を知らん黒帯を出すわけにはいかん」と、各支部道場の師範の皆様が、後稽古などで杖の指導をされています。

「今は、孫の世話でなかなか稽古に来れないけど。昔は、ここに通いつめて、よく杖の稽古してたものよ。今は人が多いし、当たると危ないから、あんまりしないみたいだけど。……私は、あんまり杖が面白かったから、杖道2段も取ったのよ」
「すごいですね」

驚く私に、彼女は微笑みました。

「大昔の本で悪いんだけど。前に、あなた「三十一型がわからない」って、言ってたでしょう。この本に、その写真載ってるわよ」
「ありがとうございます。三十一を途中まで覚えかけたら、今度は十三の方を忘れてしまって。とりあえず、十三の方をやりなおしました。やっぱり動画ではわかりにくいです」

頭をかく私。

「大丈夫。今のあなたの動き見てると、十三型は、ほぼできてるじゃない。三十一型だって、じっくりやれば大丈夫。三十一ができれば、また体の動きも変わってくるわよ」

実は、斎藤師範が大成した十三型と三十一型は、その動きが合気道の体術と同じ。
つまり、杖がうまくなれば、合気道の技もうまくなる効果があります。

私が初心者の頃、稽古中に突然「では杖の十三型をやってみましょう」と言われて、突然棒のような武器(杖)を持たされました。
もちろん、まともに振り回すこともできず、何がなんだかわからないうちに稽古が終わってしまい、とても悔しかったのです。

そこで、杖について調べていくうちに、「杖は、合気道の原型を知る上での貴重な技術で、合気道の技の上達のためには、やっておいた方がいい」と思うようになりました。

最近では、初心者クラスの稽古の後、道場に残った茶帯(上級者)や黒帯(有段者)の若者たちが、杖の自主研究をしているのを、初心者が興味深げに見ています。
いずれ「杖を教えてください」と言われることもあるでしょう。
その時、有段者として「できません」では、かっこ悪いですから。

「今は、私、使わない本だから、しばらく貸してあげるわ」と、手渡されたのは……。

『合気道 剣・杖・体術の理合』の第一巻と第二巻。
合気道本部道場師範茨城道場長8段斉藤守弘著・港リサーチ株式会社出版。
昭和48年と49年に発行された本。
当時の値段で1600円。

表紙は黄ばみ、斉藤師範の写真も色あせていますが。
今は絶版になっている貴重な資料。

第一巻の最初のページには、合気神社と開祖植芝盛平翁の写真。
本文の随所にちりばめられた開祖の稽古風景の写真。
合気道2代目道主の植芝吉祥丸先生、合気道本部道場師範西尾昭二8段、合気道養神会養神館道場館長塩田剛三先生、秋田県支部道場長朝倉長太郎師範から寄せられた発刊のお祝いの言葉。

どうやら、当時の日本中の合気道家が本気で待ち望んでいた本らしい。

この本は、斉藤師範の剣・杖・体術(素手の技)を、分解写真と斉藤師範の言葉で解説。
外国人のために英語の解説も併記されています。

斉藤師範の剣と杖のDVDも発売されていますが。
動体視力がゼロに近く「動くものをじっと見る」ことが苦手な私には、静止画像の写真と、言葉の解説の方がありがたい。

例えば「剣対剣」の稽古は、数字をふった鮮明な分解写真。
打ち太刀(剣を打ち込む側)と受け太刀(打ち込まれた剣を受け止める側)、それぞれの動作に対して、写真ごとに短い説明がついていて、親切です。

ちなみに、所属道場で「杖合わせ」として稽古されているのは、8つの合わせ杖型の中の6番らしい。
この杖合わせや組太刀、組杖は、「鍛錬」が目的ではなく、「相手と「気」を合わせるための稽古」。

『基本形が身につけば、咄嗟の場合にも自然に応用技が出てくるものと考えられています。これを試す目的で試合を行うことは非常に危険です。何となれば合気道において試合と云う場合には、真剣勝負を意味するからであります』

……なんだか恐ろしげなことが書かれています。

さらに、太刀取り(素手で剣を持った相手を制する技)の心構えについて。

『相手の攻撃を意識すると飛び込むのは難かしくなる。むしろ打たせるような気持ちで相手の気を思い通りに導くのである』

……恐れ入りました。

……いやあ。いい本だなあ。
全部コピーしようかと、今、真剣に思っているところです。

ただ、一つわからないのが、この本の表題でもあり、本の中で頻繁に使われる、耳慣れない言葉「理合」。

最初に『理合について』という項目があるのですが。

『剣の理と体術の理は合気道においては渾然一体となるわけです。つまり双方の理合は一致すると云うことが出来ます』

……これじゃ、なんだかわからん。
「理合」を広辞苑でひくと「分け合い・筋道」になっていますが。
そのニュアンスとは違うような気がする。

……しまった!
ひょっとして、この本、「理合」が何か、わかっている人対象の本だったのかもしれない。
えらいことになった。

……次回に続く……
この記事へのコメント
科戸の風さん

> 『剣の理と体術の理は合気道においては渾然一体

大変興味深いです。
私は合気道はやらないし、全然わかりませんが、剣道と合気道は共通する部分が多く、合気道もやってみたいと思いました。

剣の理合を理解するのは難しいかもしれません。

ものすごく簡単に言えば、
「こうすれば、こうなる」ということ。

これを体得するのは難しいんですよね〜。

Posted by 桃太郎 at 2009年05月10日 14:15
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