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2009年05月12日

理合(後編) 理合と間合い

ああ、困った。
 

「理合」を知っている人を対象に書かれている『合気道 剣・杖・体術の理合』を、理合が何かわからん私が、うっかり読んでしまった。

とりあえず、同門の合気道初段で柳生新陰流剣術の使い手、幻之介さんに質問してみました。

『理合とは、技の働きや動きの理、端的には何故に勝つのかの理のことかと。形には必ず理合があります。合気道では一つの技の中に複数の理合があるように思います』

……うーむ。『何故に勝つのかの理』が鍵みたいですね。
「理=法則」のようなニュアンスかなあ?

ここは、空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段の夫に訊いてみましょう。

「間合いと理合はどう違うの? 「突きの間合い」とは言うけど、「突きの理合」とは言わないし、「剣の理合」とは言うけど、「剣の間合い」って、聞いたことがないけど」
「間合いは、単なる距離やんか。理合と全然違うで」

夫は呆れたように答えた後、突然真顔になりました。

「お前、実戦の時、勝負は何で決まると思う?」
「……私の経験では、物理的な力学が8割、戦術的な心理学が2割ぐらいと思う」

実戦では、基本的に力の強い者、動きの早い者ほど有利。
でも、人間は不安定な「心」を持っているので、動揺させると、相手は持っている力を100%発揮できない。
そのあたりが、「実戦は力の強い者、動きの早い者が絶対に勝つ」とは言い切れないところ。

「まあ、だいたいそんなもんやが……。その「力学」こそが「理合」や」

夫はソファから立ち上がりました。

「ちょっと、そこへ、肩幅に足開いて立ってみ」

リビングで、夫に言われた通りに、私は足を肩幅と同じ幅で開いて立ちました。

「今、お前の重心は、両足を開いた真ん中にある。背骨は地面に対して垂直になってるわけやが……」

夫は押し入れを開けると、居合刀を取り出しました。

「その状態で、この刀を持つと、どう変わる?」
「……えーっと。刀の重さ分、今より重心が前に移動する?」
「……そう思うか?」

夫は、にやりと笑って、居合刀を私に手渡しました。

ずっしりと重い居合刀。
構えてみると……わずかですが、背筋がそり返ります。

「わかったか。人間の体は、四本足で立っとる動物と違って、二本足で立っとる不安定な状態やから、刀みたいな重たいもん持つと、無意識に、体をそらしてバランスをとろうとするわけや。刀貸してみ」

夫に刀を渡すと、夫は刀をソファの上に置いて、足を肩幅に開いて、肩の力を抜いた柔道の自然体を作りました。

「まず、この状態。背骨は地面に対して垂直や」

そして、今度は刀を持ちます。背筋が微妙にそり返りました。

「今、俺の体は、すこし背筋が後ろにそってるはずや。……お前がやっても、俺がやっても、まったく同じ状態になる。これが理合の一例や。人間の体には「こうしたら必ずこう動く」みたいな法則があるねん」

……なるほど。

「そやけど、武道には、たくさんの理合がある。それは、頭で覚えようとしても、できるもんやない。散々稽古してから、ある時突然「あっ、これが理合というものか!」とわかるもんやねん。とりあえずは、稽古やな」
「そうなんや」

「たぶん、お前の師範は「理合」いう言葉を使わんと、理合を説明してはるんやろう」
「師範は「人の体は、こう動くようにできています」って、技の解説しはる時があるねん。それが理合なわけやね」

夫は大きくうなずいた後、意地の悪い笑みを浮かべました。

「ところで、お前、剣の稽古、ほったらかしにしてたら、あかんで」
「なんでわかる?」
「今のお前の構えや。その刀の持ち方は、杖の持ち方と同じや」

図星。この半年ほど杖の型が気になって、全然木剣の素振りをしていなかったのでした。

「杖は剣より長い分だけ、いろいろ動くから、杖気になるんは、わからんでもないけどな。武道の基本は、あくまで剣やねんからな」

……申し訳ありません。

『どうぞ、皆さんご自身で研究練磨を積まれることを切望いたします。合気道において剣・杖を持つことは、以上述べてきた理合を知る事の外に、“剣を持って剣に頼らず、杖を持って杖を意識しない”武器に頼らざる心・技・体を造り上げることになると信じます。一日の稽古と云えどもおろそかにせず、気を練り、体を練り、心を練り、合気道精神を涵養していきたいと念願する次第です』

……『合気道 剣・杖・体術の理合』第一巻、『理合について』の斉藤師範の結びの言葉。

……ああ、この境地は、はるか彼方です。
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