「折りたたみ式の杖なんか、どこかに売ってないかなあ?」「そんな折り紙みたいな杖なんかあるかいな。またあほなこと言うわ」
ホームセンターの通路を歩きながら、夫は大笑いしました。
「3分割ぐらいにできる、組み立て式の杖とかがあればなあ」
「中に刃をつけて仕込み杖にするとか、鎖つないでヌンチャクみたいに改造するとかか? 物騒なやつやな」
「違う違う。道場の杖重たいし。自分に合った杖買って稽古した方がいいかと思って」
杖は白樫という堅く重い木でできていて、長さ四尺二寸一分(128センチ)、600グラムが標準。
体力のある男性と、非力な女性の私とが、まったく同じ杖で稽古するのは、結構しんどいことなのです。
「道場で組み立てて、稽古の後、また分解して持って帰れる杖があると、稽古しやすいかと思って。だって、杖は長くて持ち歩きにくいし」
「あほ! 弓道や薙刀の人見てみ。あれなんか、もっと持ち歩きにくいぞ」
「すみません」
「そやけど、自前の杖買って、家で稽古するのはいいことや。上達早くなるからな」
「「構えが怪しい」って、よく有段者に言われるし。もっと稽古しないとダメみたい」
「型の稽古するだけやったら、軽い木でもかまへん。重くて稽古が嫌になるよりマシや」
その時、私たちは偶然木材売り場にいました。
「そこの棒取って、ちょっと構えてみ」
夫にうながされて、私は棚から杖と同じ長さの杉の丸棒を取り、構えてみせました。
「うーん。確かに、なんか怪しげやな」
夫は首を傾げて、自分も棒を持って構えました。
「前に突いてみ」
夫に言われるままに、私は棒でまっすぐ前を突いてみました。
「ははあ。読めた」
夫は、にやりと笑いました。
「お前、たぶん、鉛筆と箸だけ右になおされた左利きやろ。左利きやのに、杖右で構えんならんから、変なことになってるねん」
日本人の97%は右利きなので、木剣も杖も右で構える決まりになっています。
夫の言う通り、元々私は左利きで、箸と鉛筆以外は、物を取るのも、ボールを投げるのもみんな左。
そういえば、木剣を最初に習った頃、無意識に左手で木剣を持って構えてしまうので、よく有段者に叱られました。
「右利きの人より時間かかるけど、稽古積んだら、ちゃんとできるようになるからな。お前を教えてる合気会の有段者、かなり苦労してるやろから、よくお礼言うとくんやで」
図星です。
「それと、お前の杖の切っ先はブレとる。突きはまっすぐに。こうや」
夫は棒を突いて見せました。
腰の安定、重心の低さ、突きの速さと鋭さ……空手4段剣道3段少林寺拳法3段合気道2段柔道初段は、だてではありません。
合気道といっても、夫は大東流合気柔術、私は合気会で、流派が違い技が違うので、夫から直接技を教わることができないのです。
気がつくと、私たちを遠巻きに取り囲んで、人垣ができていました。
「なんやねん」
夫が周りを見回すと、人だかりは一瞬で散り散りになりました。
どうやら怖がらせてしまったようです。
棚の向こうに半分身を隠すようにして、私たちを見ていた店員に、「すみませんでした」と声をかけると、店員は走って逃げました。困ったなあ。
もし、ここで大声をあげたり、棒を振り回したりしていたら「威力業務妨害罪」になり、逮捕されるところでした。
くれぐれも皆さんは真似をしないように。(普通しないか)
結局、杉の棒は買いませんでしたが、まだ杖も買っていません。
杖を買っても、ちゃんと家で稽古できるのか、自宅で稽古しているうちに、変に我流になってしまわないか、なんだか心配なのです。
たぶん、本格的な杖ではなく、自宅練習専用に、自分の体力に合った棒を買うことになるとは思いますが、杖よりも合気道の教本を買うことの方が先のようで、今、よい資料を探しているところです。
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2006年01月21日
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