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2009年08月29日

手帳の盲点

先日、ある役所に出向きました。

 
 
重要な法律上の手続きのためです。

灰色のコンクリートの、古びた陰気な建物は、意外に混み合っていました。
どの申請窓口にも大勢の人々が並んでいます。

私は、なんとなく、ロビー中央の申請総合窓口に並ぼうとしましたが。

制服を着た受付の若い女性に、「何の書類が必要か、まず相談コーナーで相談して、はっきりさせてから、並んでください」と、無愛想に制止され、相談コーナーに追いやられました。

相談コーナーでは、年配の相談員が3人。
それぞれ机の前で、手持ち無沙汰にしていました。
私は一番隅の相談員に声をかけ、相談に乗ってもらいました。

まず、手続きの大まかな流れの説明からはじまり、それぞれの役所で集めるべき証明書の数と種類。
そして、それぞれの書類の提出先と期限などを聞きながら、愛用のシステム手帳に、次々に書いていきます。

……それにしても、あまりにも煩雑な申請手続き。

人生で、それほどする機会がない手続きなので、できれば丸ごと専門家にお任せしたい。
でも、それぞれの役所から書類を集めないと、任せることさえ、できないようです。

「……はっきり言って、今回の申請は、最も難しいケースになります。かなり難航するでしょうが、何か困ったことがありましたら、また、いつでもおいでください」

他に相談者もなかったので、一緒に話を聞いていた他の相談員たちも口々に言いました。

「がんばってくださいね」 

うわあ。相談員全員に励まされるほど、大変なことなのか。
でも、なんとかしなきゃ。

弱気になる自分を「できることからやらないと」と励ましつつ、申請総合窓口へ。

とりあえず、ここで集めるべき3種類の証明書。
全部別の窓口で手続きしなけりゃいけない。

半ば途方に暮れながら、私は、申込書を書き、手数料を払い、持ってきた資料を添えて、それぞれの窓口に提出。
「やれやれ」と思っていると……。

あちらこちらの窓口で、「地番が変わってる」だの「もっと新しい証明書類がないのか」だの、いろいろと呼び立てられるので、椅子に座って待つ余裕もありません。

それでも、なんとか全部の証明書を集め終わり、書類を入れた封筒を鞄の中に入れようとすると……手帳がない!

足元から血の気が引いていくような感覚。
手帳には一年分のスケジュール、その日の出来事を書いた日記、さまざまな覚書など……今回の申請手続きのメモもあります。

私は建物のいたるところを探しました。
床、申込書を書く机、待合席の椅子……。
自分の顔がひきつっているのが、自分でもわかります。

それぞれの申請窓口で、「青い手帳を忘れてませんでしたか?」と尋ねても「ありませんよ」と、そっけない返事。

半分パニックになりながらも、相談コーナーに戻ってみました。

「あ、来られましたか。手帳、忘れてはりますよ」と、先ほどの相談員が、にこにこしながら、机の上にコバルトブルーの手帳を出しました。
やっぱり、ここだったのか。

……その場にへたへたと座り込みそうになりましたが。
相談員に丁寧にお礼を言って、手帳を受け取りました。

帰り道、ふと、思ったこと。

……もしかして、手帳の中身を見られた???

「中は見ましたか」と追及するわけにもいかないけど。
普通、落し物を見つけたら、誰でも、名前が書いていないか確かめるから、当然見たんだろうなあ。

別に、人の悪口が山ほど書いているわけでもないから、「見られたら困る」という内容でもないけれど。
字が汚いし、スケジュール欄には、「○○時□□氏にTEL」と電話番号……個人情報を書いてたりもするし。
日記の部分なんか見られたら、ものすごくはずかしい。

手帳と同じぐらい、身近で手放せないもの……携帯電話の場合、持ち主以外に操作できない「ロック機能」がついているものが多いですが。
「鍵つき手帳」は見たことがない。
そういう意味では、手帳は「セキュリティが甘い」文具かもしれません。

ところで、昔、ある作家のエッセイで、電車の中に置き忘れた手帳が、手元に戻ってきた話を読みました。
手帳の最後のページに連絡先、『この手帳を届けた方に10万差し上げます』と書いていたそうです。

……ということは、当然、手帳を拾った人は、中を見たわけだ。ああ、はずかしい。
「手帳を落す」「中を見られる」状況というのは、全然考えもしていませんでしたね。
せめて、もうすこし字をきれいにしないと。

よく考えると、仕事のスケジュールや連絡先のメモや経費の覚書……手帳がなければ即生活に支障をきたします。
私にとって自分の手帳、どのぐらいの価値があるかなあ?

2004年に、「文藝春秋ベストエッセイ掲載記念」に買った、ファイロファックスのシステム手帳。
コバルトの「リオ」。
今は廃盤になっているし、角も磨り切れて、ところどころ補修しているけれども。
私にとってはかけがえのない手帳。

作家がつけた自分の手帳の値段「10万」。
意外に妥当な値段かもしれません。

私も、手帳の巻末に、『この手帳を見つけられた方はご連絡ください。10万円差し上げます』と書いておきましょう。

本当は落さないのがベストですが。
「手帳の安全」。
今後の課題ですね。 
ラベル:手帳
posted by ゆか at 10:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 文具コラム | 更新情報をチェックする
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