地域企業支援事業の一環で、地元のビジネス関連イベントや資格講座のチラシを置くスペースが、最近できたのです。
そのチラシは、商工会議所主催の『すぐに使える!プレスリリース塾』。
プレスリリースは、企業が自社商品を紹介してもらうために、マスコミに送るファックスやメールのこと。
武道系コラム、文具系コラムが本になった時、必要になる技術だし。
それよりも、「プレスリリースの技法を使って企画書を書く」ことはできないかな?
それに、商工会議所は地元の中小企業をサポートするらしい。
私みたいな個人事業者にも使えるかな?
この講座の受講資格は「市内で営業する事業所または事業者」で……。
しかし、事業所名欄が「島村由花(コラムニスト)」ってのは、どうなんでしょう?
「わしとこは、このリリースに命かけとんのや!」と必死の形相の参加者たちに、にらまれそうな気がする。
でも、私にとって、どうしても必要な技術。
ここは一つ、いつものイベントのように、さりげなく「潜入」して隅の方で聞いていよう。
それにしても参加費が高い。
朝から夕方まで丸一日かけて、ゼロからプレスリリースを完成させるので、しょうがないか。
「急な葬式に出た」と思って経費で落としましょう。
事業所名「島村由花(コラムニスト)」で送った申し込みメール。
2時間後に担当者から「歓迎します。当日は名刺交換会もありますから、30枚程度名刺をお持ちください」の返信メール。
さらに、前日には、セミナー当日の説明や、昼食にお勧めのカレーの話まで載った丁寧な案内メール。
……この担当者、何者だろう。
さて、当日。朝から商工会議所へ。
目的は、「プレスリリース作成を通して、企画書をまとめるための「考え方」を学ぶ」「商工会議所の個人事業者サポート能力の調査」。
この二つ。
欲張ってはいけません。
私は生まれつきの半病人で、病気の家族を抱えているので。
「体力気力に任せて突っ走り、チャンスのかけらを、手当たりしだいかき集める」目標達成法は無理。
「入念な調査、的確な布石、時を図り、得るべきものを選び、勝つべき時に確実に勝つ」のが私のスタイル。
「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」よりは「一撃必殺」が好み。
会場の受付には、名札をつけた30代の男性が立っていました。
「ようこそ。島村さんですね。あなたのことは、色々と調べさせてもらいました。この商工会議所は、会員企業を紹介する雑誌も発行していますが、取材なんかはできますか?」
いきなり仕事の話。
驚きながらも「なんなりとお申し付けください」と答えました。
交換した名刺を見ると「中小企業相談所経営指導員」。
こわいなあ。この人。
同封資料によると、商工会議所会員になると、融資や経営アドバイス、取引先の紹介や事務代行、安い共済や健康診断など、色々な特典があるらしい。
大儲けしたら入ろう。
講座がはじまりました。
講師はがっしりした体格の男性。
電通出身で企業の広報コンサルタント、劇団も主宰……マイクなしで、地声で講演するパワフルな方。
自己紹介の後、最初に今日一日の取り決め。
「出てくる意見は全部肯定すること」。
ここで突然、名刺交換会。
制限時間内に、できるだけ多くの人と名刺交換する。
その時に「この24時間内でうれしかったことを一つ相手に伝える」……こりゃ、大変だ。
全員が大急ぎで名刺交換。
私は「商工会議所担当者の丁寧な案内メール。昼食のカレーが楽しみ」の話をします。
これは参加者全員の「共通の話題」だから。
基本的に、私は自分からは名刺を出しません。
昔、市の環境情報紙に関わっていた時に出かけた環境団体のイベント。
主催者に名刺を渡したら、相手は傲慢な笑みを浮かべて自分の名刺を出さず、私の名刺を机に放り出したのです。
この時以来、「縁なき衆生は度し難し」「一撃必殺」の心構えで、イベントや会合に出ることにしていますが。
今日は例外。
実際に名刺交換してみると、整体院院長、熊本県大阪事務所、造園業者社長、オートバイ店。
高校中退の子供を大学受験まで導く学校の校長。
農家と消費者を結ぶコーディネーター、印刷会社社長、野菜ソムリエ……色々な参加者がいます。
しかし、最初に正体を知られたのはまずかったな。
相手は「どっかで書かれるかもしれんから」といいところを見せようとするので。
取材する側としては、つまらん。
講師とも名刺交換。
「コラムニストの方ですか。僕は劇団やってますので、素敵な関係に発展するといいですね」と、にこやかな挨拶。
ついでに「そのメノウのネックレス似合ってますね」とさりげなく、母のプレゼントのネックレスをほめる。
うーむ。プロだなあ。
席に戻ると、なぜか机の上に、シンガーソングライターのライブ宣伝チラシ。
参加者の長髪の若者が名刺交換の間に配ったもの。
なるほど。こういう講座の使い方もあるわけだ。
さて、講座に戻ります。
まず、講師がアドバイスしたプレスリリースで、新製品がテレビや新聞に紹介され、増益増収を続ける市内の企業の話。
その企業の広報担当者が出席していたので、プレスリリースの重要さと劇的な効果を、直接聞くことができました。
そして講座は進みます。
プレスリリース独特の文章構造。
マスコミに接触するための資料。
売り込むための5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、どのように)と「社会貢献」「新規性」。
経済関連メディアには必ず「経済効果」を入れること……ためになるなあ。
昼食にカレーを食べ、午後は実際にプレスリリースを作ります。
今回は実験として、一番難しい『ventusそのもの』のプレスリリースに挑戦。
テキストの、売り込むものの自己分析シートや、売り込み先分析シートに箇条書きで条件を書き込んでいくと、自動的にプレスリリースができる……はずですが。
武道系コラムや文具系コラムと違って『ventus』本体は、「作成動機」と「対象読者像」が曖昧。
「ネットで知り合った人たちと一緒に何かを作る」じゃダメですな。
しかも「経済効果」、『ventus』が普及すると、何か市場シェアが拡大するか?
講師は「400もコラムがあるって、すごいですよ」とほめてくださいましたが。
散々な出来でした。
最後に、講師は、「全世界の人口のうち、この商工会議所で受講者20人が出会う確率は、3億の宝くじが何十回あたる確率よりも低い「奇跡」です。こんな奇跡が実現できる皆さんのプレスリリースは、絶対に成功します!がんばって!」と全員を励まし、講座をポジティブと感動と共感でしめくくりました。
……うーむ。何か「計算された出来のいいアトラクション」みたいな気もするけど。
目的は達成したから、まあいいや。
この後は懇親会でしたが、ここで私は撤退。
これから胆石の母の様子を見に行かなければ。
「夢だけを追う」には、すこし私は年をとりすぎているのですよ。
とりあえず、自分のプロフィールを商工会議所の担当者に渡したし、後日の広報個人相談にも申し込んだから、またチャンスはあるかもしれません。
でも、個人相談は希望の日がとれるかどうかわからないから、そこでダメなら、しょせん「縁なき衆生」でしょう。
受講後、名刺交換したけど、お話できなかった人たち……
海外のヘルパーと日本の介護現場をつなぐ派遣業者の方のお礼メールをいただいたり、大阪市内の工業用ミシンメーカーの社長さんから、『ventus』の感想メールをいただいたり。
……うーん。「縁」とはわからんもんですね。
担当者からは「今後ともよろしく」とダメ押しメールが来るし。
ハードでしたが目的は達成。
後で「おまけ」もついてきそうな楽しいイベントでした。
ラベル:商工会議所