大阪府立渋谷高校同窓会組織「緑友会」から、11年前の「最新名簿」のコピーをお借りした私たちは、途方に暮れました。
名簿の4分の1は、「掲載不要」希望者が多かったため、連絡先が空欄。
残り4分の3の連絡先のうち、半分以上が旧住所のまま。
「これ、全部、手分けして電話する? でも、個人情報保護法にひっかるかもしれん」
緑友会で出会った同級生5人に友達3人が加わった、総勢8人の幹事は頭を抱えました。
昔の同窓会は、名簿片手に同級生に電話をかけまくれば、人を集められたわけですが。
今は個人情報保護法の時代。
普段つきあいのない人に、突然電話するのもためらわれる。
「まあ、手はないことはない」と幹事長が出したのは、幹事代行会社のパンフレット。
「僕は転勤あるし、みんな仕事やら介護やら子育てやらで、そうそう集まることがでけへんし。業者の任せるのも一つの方法やで」
そこで私たちは、今年の春の幹事会に、幹事代行業者の担当者を幹事会に呼び、説明を聞きました。
独自のサポートで「同窓会成功率100%」を誇る有名な会社。
「出欠問い合わせ、名簿管理、ホテルの手配、当日サポートまで、すべてお任せください。総勢500名様だと、当社の過去データでは、150名ぐらいの出席者が見込まれますが、万が一、出席者が30名様を割り込んだ場合、キャンセルとなり、違約金をいただきます。しかし、今、ここに8人の方がおられるんですから、30人は集まるでしょう」
「30人」なら集められるかも。
……私たちは、代行業者と契約することにしました。
「そうか。12クラス500人、会費1万円で、最初で最後の同窓会か。そやけど、ええとこ30人から50人ぐらいやろな。そんなけ数おったら、横のつながり弱いからな」
幹事歴25年、大阪府立東淀川高校同窓会副幹事の母は言いました。
「そやけど、なんでまた、そんな無謀なこと、はじめたんや?」
「私も、漫画研究部とか地学部とか、短大の同窓会とかやってたんやけど。……年々人が減っていくんよ。みんな、最初は懐かしくて盛り上がってたんやけど。だんだん今の生活が大事になって、盛り上がらんし。女同士って、結婚してるか独身かとか、子供がいるかいないかとかで「ふれたらあかん」話題が増えていくねん。……なんか集まりにくうてな」
私は溜息をつきました。
「緑友会で、20年ぶりにクラスメートに会って……税理士になってやったけど。高校の時、接点が全然なかったのに、今は確定申告の話題で盛り上がったりして、気持ちのいい付き合いが続いてるわけや。……学年単位の同窓会開いたら、25年前に、すれちがってたけど、今はいい友達になれる人間が出てくるかもしれん。そう思ったんや」
「そりゃ、出てくる人は「勇者」やわ。自分が高校の時知ってた人間より、知らない人間の方が多いのは、わかってるわけや。そこへ、この不景気に1万円払って、わざわざ出てくるいうんは、ある程度のレベルのポジティブな人間だけやろ」
「私も、今後の人生、できればポジティブな人と関わりたいと思ってる。幹事代行会社との契約やと30人で同窓会できるから、30人集められたら、この勝負、私らの勝ちや」
その時、なぜか母は苦笑いしました。
初夏に入って、同窓会プロジェクトが始動。
まず、名簿を元に案内葉書を発送。
葉書が「転居先不明」で戻る消息不明者をピックアップ。
葉書が戻らない……連絡がつくと思われる人だけに、改めて同窓会専用サイトの個人ログインIDがついた正式な案内状を発送。
同窓会専用サイトには、参加者の出欠や近況が書き込みできて、出欠者数と名前がリアルタイムでわかる「参加メンバーリスト」。
お互いに連絡先を知らなくても交流できる「掲示板」。
行方不明者の消息を代行業者に知らせる「連絡フォーム」などがあります。
昭和59年卒の生徒と先生合わせて578名。
そのうち行方不明者が248名。
さて、どうなる……
「その後、同窓会の人集め、うまくいってるんか?」
母の質問は、私の胸にグサリと刺さりました。
「……苦戦してるよ。断られ倒してる。10年音信普通だった友達が「不明者リスト」に載ってたから、案内状送る手配したら、「なんてことすんのよ! 近所にプライベート隠してるのに、葉書誤配されたらどうしてくれるのよ!」って、電話で怒鳴り込まれた。「久しぶりに会いたかっただけやんか! 二度と電話してくんな!!」って怒鳴り返して電話切ってやった。……共通の友達が仲裁に入ってくれたから、一応和解したけど」
「あんたも大人げないなあ。そやけど、そんな人と付き合うのは、どうかと思うで」
「同窓会掲示板に「会費1万円は高すぎるから欠席する。次回のレベル落とした同窓会なら出席してやってもいい」と書いた子育て主婦がいて。あれも痛手やな。招待状発送費、一流ホテルでの食事、サイト運営費、名簿管理費、全部込みの値段が1万円なのに」
「25で子供生まれたら、子供から手離れる年齢やけど。30で子供産んでたら、教育費で家計がパンクする年齢や。自分がローンでヒーヒー言うてる時に、同窓会に1万円払える人を妬むんやろう。……ところで、あんたんとこやったら、野球部は動かんのか?」
「緑友会会長が野球部主将やから、「野球部の人は緑友会には来ないんですか」って聞いたら「ちょっとなあ」って言ってた。緑友会と野球部OB会の間で何かあったらしいわ」
「難儀なこっちゃなあ」
「その代わり、今、卒業以来25年会ってない図書委員の女の子と、元バレー部で居合3段の男の子ががんばってくれてる。バレー部の子とは面識ないから、同窓会で初めて会う」
「ほほう。それは面白い。居合3段と合気道初段の勝負か」
「居合3段相手に勝ち目なんかあるかいな……大体、これは同窓会やねん。決闘やないで」
「まあ、同窓会に楽しみができて、ええことやんか」と母は不敵に笑いました。
結局、最終締切日……出席者40名(恩師5名、男子16名、女子19名)。物故者7人。欠席者80人。
不明者213人で……未決者238人というのは、いったいなんなのかな?
「実家に届いた案内状をそのまま放置」なんでしょうか?
「当日の細かいこと決めなあかんのに、業者は最初と違うこと言うし、幹事同士も温度差みたいなもんがあって、意見まとまれへん。ぎすぎすして……しんどいわ」
私が愚痴を言うと、母は笑いました。
「まあ、幹事会ってそういうもんやねん。私らかて、幹事同士で喧嘩して、同窓会が二つに分かれたり、同窓会当日、会計に会費持ち逃げされて、親戚のおる道後温泉に隠れとったのを捕まえに行ったりしたわ。まあ、トラブルが起きん方が不思議やねん」
「そんなことまであるのに、なんで25年も同窓会やってるわけ?」
「同窓会より幹事会で集まるのが楽しかってん。同窓会そのもんでは裏方やし、気ばっかり使うてしんどいねんで。……あんたら、今回最初で最後言うけど。それでええんか?」
「ああ、私らは緑友会戻ってダラダラする。昭和59年卒用テーブルも確保してるし」
「そうか。あんたらは、帰る場所があるんや。……そんなら、気楽にいったらええやんか。失敗したかて「あの時は大変やったな」の笑い話で終わるもんや。同窓会なんて」
そんなものかなあ。
何が起こるかわからないけれど。
取材気分で気楽にいきましょう。
ラベル:幹事