合気道開祖植芝盛平翁の演武の映像を見ていて気づくこと。
相手を投げ飛ばす瞬間、「ィエイーッ!」という甲高い声を出されています。
開祖の高弟で、開祖の作られた剣と杖の型(合気剣・合気杖)を継承した故斉藤守弘9段の演武のビデオ。
剣を打ち下ろす時に「エイッ!」と、鋭い気合いを出されていました。
去年の大阪の合気道道場の門下生が集まって、合気会本部場長補佐、植芝充央先生をお招きした演武会。
短刀取り(短刀を持って切りかかってきた相手を素手で制する技)の演武をされた道場がありましたが、この時も受け(技をかけられる人)の有段者の男性が、取り(技をかける人)の師範に、短刀を振り下ろす時に「エイッ!」と叫んでいました。
……ということは、合気道も「気合いを出して叫ぶ武道」?
私は、合気道は「叫ばない武道」だと思っていました。(『呼吸の謎』参照)
毎年、道主の植芝守央先生の演武を、関西合同研鑽会で拝見していますが、道主先生が大声で気合いを出されて、受けの有段者を投げるところは、一度も見たことがない。
所属道場で「もっと声を出せ!気合いが足りない!」という指導もされていないですし。
……ようわからんなあ。
先日、出稽古でお世話になった先生と、稽古後に食事していた時に質問してみました。
「時々、他の道場の演武で、大声で気合いを出している人を見かけるんですが、「うぉりゃぁっ!」とか「とりゃー!」とか、叫んだ方が上達できるんでしょうか?」
私よりも若い先生は、笑いながら答えました。
「やっぱり、声を出すことは不可欠でしょう。特に剣を使う時は」
確かにそうかもしれない。
実は、この出稽古で、木剣の素振りの稽古をしたのですが。
剣を構えるまでは息を吐き、振り上げて打つまでは吸い、打つ瞬間は吐く……頭ではわかっているけれども。
所属道場では、剣の稽古はめったにやらないので、剣を打ち下ろす動作と、呼吸のタイミングが合わなくて苦戦。
そこで、先生のまねをして、剣を打ち下ろす瞬間「エイッ!」と声を出してみると、動作と呼吸とのタイミングが合ってきました。
不思議だなあ。
ところで、素手で相手を制する合気道で、なぜ剣や杖の稽古が必要なのか?
『佐々木合気道研究所』所長の佐々木貴7段は、こう書かれています。
『また、合気道の体をつくるだけではなく、技や動きの拍子(リズム)を身につけるのにも、剣の素振りが役に立つ。例えば、中段から相手の小手を打つ拍子は、体術で片手取り相半身二教の動きと同じである。拍子を取るには肩を陰陽に使うことが大事だが、木刀や鍛錬棒を使ってやる方が、素手よりも理を見つけやすいし、身に付けやすい』
……うーむ。『拍子をとるには肩を陰陽に使う』ってなんだろう?
とりあえず、もうちょっと木刀(木剣)を振ってみないと、体感できそうにないですね。
ついでに杖(合気道で使われる棒状の武器)を持つ効用もご紹介。
『杖の素振りから得られるものの典型的なものは、手と足が連動した動きである。武道の基本的な動きはナンバであるが、手と足が一緒に右、左と連動して動かなくてはならない。合気道でも手足が連動していないと技の効果は半減してしまうので、手足が連動して動くように稽古しなければならないのだが、体術ではなかなか難しい。杖での稽古は、これがわかりやすい』
……これは実感してます。
初心者の頃、突然杖の稽古が出てきて、全然できなかったのが悔しくて、「十三型」という杖の基礎の型稽古ばかりやっていましたが。
この型を全部覚えた頃、自分の動きが、右手が出れば右足が出て、左手を出せば左足が出る「ナンバ」と呼ばれる、昔の日本人の動きになっていたのでした。
先生は、コーヒーカップを持ち上げながら言いました。
「それに気合いを出す……息を吐かなければ、相手を投げることはできませんよ」
「そういえば、相手に技をかける時、私も息を吐いてますね」
人の体は息を吐くと硬くなり、息を吸うと力が抜けます。
相手の動きに合わせて息を吸って、相手の力に逆らわない。
技をかける時は、息を吐きながら体全体から力(呼吸力)を出して、相手を制するのが、合気道の基本とされていますが。
私は、喘息を軽くする丹田呼吸法を学ぶために、合気道をはじめました。
今、その丹田呼吸法の第1段階、「一技一呼吸」をやっていますが、これは、一つの技をかけている最中、技の最初から最後まで、緩やかに同じペースで息を吐き続けるもの。
投げる瞬間だけ、強く息を吐く鍛錬ではないので……よくわからんなあ。
先生に訊いてみました。
「強く息を吐く、つまり気合いを出せば出すほど、強い力が出せるんでしょうか? でも、道主先生が、大声で気合いを出されている演武を見たことがないです」
「確かに、道主先生は声を出されませんけど。いつも気合いを出した力強い演武をされていますよ」
にこにこしながら、先生は言われました。
「もうちょっと、道主先生の演武を、しっかり見ましょうね」
「……すみません」
「でも、なかなか面白い着眼点ですね。ご自分で考えてみられては」
……しまった! なんだか墓穴を掘ったような気がする。
ちなみに『広辞苑』で「気合」を調べてみると……。
1.気が合うこと、気の合う人。
2.心持ち、気分、気持ち。
3.息、呼吸。
4.精神を集中して事にあたる気勢または掛け声。
こう書かれているところをみると、「気合いを出す=大声を上げる」とは、単純に言えないようです。
困ったなあ。変なことになってしまった。
……次回に続く……
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2009年11月17日
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