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2010年01月16日

五倫五常(後編) 憧憬

さて、武道具店のサイトをいくつか見て回りました。

この前、『袴考』を書いた時には、気がつきませんでしたが、剣道袴も弓道袴も居合袴も合気道袴も……「筋」というのか、ヒダは前は5本、後ろは1本なんですね。

『たのもうや@武道具店』には、『剣道袴には前に五本の襞(ひだ)があります。これは、「五倫五常の道を諭したもの」とされています』とあります。

「五倫」とは儒教の『君臣の義、父子の親、夫婦の別、長幼の序、朋友の信』のこと。
「五常」とは、人間が常に守るべき5つの徳目『仁・義・礼・智・信』。

『また、後ろの一本の襞(ひだ)は男子として二心のない誠の道を示したもの』

……えーっと。困ったなあ。
「男子として二心のない誠の道」と書かれると……今、これを読んでいる私は「女子」なんだけど。
どうしていいかわかりません。困ったなあ。

『剣の五徳(けんのごとく)正義、廉恥、勇武、礼節、謙譲を剣の五徳といい、この徳目を身につけるために剣の修行をするものである』

……厳しいなあ。

『袴の襞にある五倫五常の教えを理解し、厳しい修行を重ねることにより、自然に礼儀作法が身につき、高い精神的境地にまで至るような、剣道。自ら、選手として、指導者としての、「礼儀正しきこそ美し」剣道を実践する方にお使いいただきたい』

……すみません。
なんだか、読んでいるうちに、廊下に正座させられて叱られてるような気分になってきました。
私は「武士」どころか「袴の人」失格みたいだ。
えらいことになったなあ。

しかし、まあ、とりあえず「袴の筋の意味」は簡単に判明。
問題は「なぜ合気道か?」の方だなあ。
ここは武道13段の夫に相談してみましょう。
私に合気道を勧めた張本人ですから。

私は、リビングで合気道のネット動画を見ている夫に声をかけました。

「あのなあ。こないだ同窓会で、居合3段の同級生に会うたんやけどな」
「居合? どこの流派や?」

興味津々で、私の方に向き直った夫。

「すみません。訊きそこなった」
「あほ。なんで、いつも肝心なとこが抜けとるんや。お前は」

呆れ顔の夫。私は話をそらしました。

「それで、「武士として袴の筋の意味を調べて書く」って、リクエストをもらった」
「ははははは。お前みたいな軟弱者が「武士」なわけないやろ。買いかぶりすぎやで」

ひとしきり大笑いした後、夫は言いました。

「袴の筋いうんは、五倫五常のことやろ」
「知ってるの?」
「当たり前やろが。俺が剣道3段やの忘れてるやろ」  

そうでした。夫は空手4段剣道3段少林寺拳法3段大東流合気柔術2段柔道初段。
「他武道の長所を空手に生かせ」という、師の故大山倍達の教えを忠実に守り、他の武道の修行を積んだ人。

「その居合3段に、「僕と一緒に居合をやりませんか。なんでしんどいめして、合気道の稽古せんといかんのですか?」とも言われた。武道系コラム読んでて心配になったそうや。居合の方が体に負担がないし、走らないし、丹田呼吸法もあるって」

私は溜息をつきました。

「……こないだの武道館の道主研鑽会の日の午前中、ちょうど居合の稽古会があって、研鑽会が始まる前、30分ほど稽古見せてもらったんや。確かに、居合は走らないし、合気道みたいに、投げたり投げ飛ばされたりしない分、「体に負担がない」いうのは、ほんまのようや」

夫は私の顔をまっすぐ見た後、ほんの少し目を伏せました。 

「……まあ、その同級生の気持ち、わからんでもないわ。稽古行っちゃ、夜中にゴホゴホいうとるお前見てたら、俺かて、お前に無理させとるんかって、思う時あるからな」

稽古した晩に喘息発作で苦しむ私を見かねて、夫が、私の背中の気道を開くツボを押してくれることが、最近多くなりました。
……周りに心配かけて、本当に申し訳ないなあ。

「「合気道の稽古がしんどい」やなくて、稽古のやり方があかんのとちがうか? 別に、「しんどいめして稽古」せんでもいいねんで。「しんどくない稽古」したらええやんか。稽古の回数やら、稽古の時間やら、なんか工夫できるやろが」

考えてみると、月1度、出稽古に行く日曜日の午前中や、研鑽会などの昼間のイベントの時は夜間発作が、ほとんどないわけです。
ひょっとしたら、仕事帰りの疲れた体で夜の稽古に出るのが、よくないのかもしれない。
体調のいい時だけ夜の稽古にして、道場の午前中の稽古に出ることも考えてみよう。

夫は、意地悪な笑顔を見せました。

「そやけど、お前、居合はじめたら、合気道以上に苦労するはめになるで」
「……うん。わかってる。左利きやからなあ」

居合……刀は右手で持つのが基本。
箸と鉛筆だけ右に矯正された左利きの私には、決定的に不利な条件。

それにしても、居合の稽古をしている時の同級生……

黒道着に黒袴姿。
白刃をひらめせて宙を切る。
張りつめた朝の空気の中、無心に型稽古を繰り返す彼の姿は、微塵の迷いもなくて。

……いつも迷ってばかりいる自分が、本当に情けなかった。

「あの時「なんで、そこまでしんどいめして合気道するのか」と訊かれて答えられなかった……。最初に出会った武道が合気道で、そのまま他の武道を知らずに、何十年も合気道だけを続ける方が幸せなのかもしれんね」
「そりゃ、なんとも言えん。そやけど「なんで自分は合気道か」考えながら、合気道続けるのも、一つの手やろ。ダラダラ稽古してるより、よっぽど身になるで」

夫は苦笑しました。

「大体、ただ「好きだから」で、軟弱なお前が、7年も合気道できるわけないやんか。お前自身が、気ぃついてない理由があるんやろう。まあ、今すぐ答え出さんでもええやんか」
そう言われると、ちょっと気が楽になりました。

「まあ、居合をするかせんかは、お前が決めることやが。友達の、お前の体を心配する気持ちは、くんでやらんといかんで。次に会うたら、ちゃんと、お礼言うときや」
「6月の緑友会(大阪府立渋谷高校の学校全体の同窓会)で、会うことになってるから、その時お礼いうことにするよ」

「なぜ合気道か?」
……たぶん、問いかけられなければ、そのまま漫然と稽古を続けていたでしょう。
25年ぶりに偶然再会した同級生、この出会いに感謝。
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