招き猫が印刷された白い葉書をながめて、私は溜息をつきました。
差出人は関西出版業界組合。
昨年初夏、関西出版業界祭りに出かけてはみたものの、いい印象がない。
しかも、わざわざ寒い夜の京都に出かけるのもなあ。
しかし……。
昨年出会った関西出版業界祭りの世話人だった方から、後で「すみません。島村さんのことを「創作系」と誤解してました」というお詫びがあり、朝日新聞の『デジタル版・知恵蔵』の仕事を紹介していただきました。
細かいアドバイスもいただいたりして。
今は、この方のことを、勝手に「師匠」と呼ばせてもらっているのですが。
『おかげさまで知恵蔵の仕事は順調です』と年賀状を送ったら、『島村さんのことを「よい方をご紹介してくださり感謝です」と言われました。私の株も上がりましたわ』との返事。
師匠が、この集まりに来られてたら、仕事が順調なことのお礼も言いたいし、今後のアドバイスももらいたい。
……でも、この前みたいな雰囲気だったら嫌だなあ。
そんな迷いを見透かすように、組合事務局の女性ライターから、ダメ押しのように案内メールが届きました。
しょうがないなあ。出かけるか。
東京ライターズバンク会員限定で発売された児玉進氏の著書『フリーライター成功術205の知恵』によると、名刺交換会の時に強烈に営業すると、編集者に嫌われるらしい。
「企画書を持ち込んでも、そのままパーティー会場に捨てられていることも多い。名刺交換と軽い雑談程度にして、後でフォローすることが重要」とのこと。
それにしても……『出版に関わる多くの皆様をお招きしています』とは案内状に書いてあるけれども。
「出版に関わる人」と一口に言っても、ライターや編集者の他、カメラマン、イラストレーター、デザイナー、校正、DTP、印刷所の人……いろんな人がいて、編集者と知り合えるとは限らないし。
「数打ちゃ当たる」で、うかつに名刺をばらまくのは考えものだな。
いつも通り「一撃必殺」。
主催者以外には自分から名刺を出さない。
最悪の場合は、事務局の女性と師匠にだけ挨拶して……料理の元とって、途中でこっそり抜け出そう。
電車に乗って1時間で会場へ。
受付にいた事務局の女性に、案内メールのお礼を言って名刺交換。
ライター歴15年のベテランだそうですが。
「ツテで自然と仕事がくるのですよ」と言われました。
うーむ。問題は、どうやって、その段階へ持っていくかだなあ。
私の場合、これまで遠距離介護をしていた義母を引き取り、数年かけて時間の融通の利く在宅の仕事……執筆専業の形に転換する予定ですが。
今の状況では「確実に収入になる小さな仕事を複数とって、生活スタイルを徐々に転換する」方が得策。
こうなると、仕事は選んではいられない。
「なんでもやります」と積極的に売り込まないといかんかなあ。
シティホテルの宴会場は、フリーランスとおぼしきカジュアルな格好の人々と背広姿の人々が交じり合う不思議な光景。
受付でもらった名簿によると、81名の参加者のうち、3分の1が関西出版業界組合員。
残り3分の2が外部参加者。
前回は、内輪の集まりの中に私一人、部外者として紛れ込んだ形になって、すごく居心地が悪かったんですが。
今回は、なんとかなりそうだ。
パーティー会場の中心に師匠がいました。
「島村さん、今日はよく来てくれたね」
「お久しぶりです。師匠。おかげさまで、知恵蔵の仕事、順調です」
師匠は上機嫌な表情。
「島村さんのおかげで、私の株も上がった。今日は、ライターを探しているプロダクションの人も来てるから、後で紹介するよ」
これはありがたい。
師匠の紹介なら、初対面の私も話がしやすいし。
ベテランライターになると、出版社やプロダクションから「ライターを紹介してほしい」と話があるそうです。
よい人が紹介できれば、出版社やプロダクションとのパイプが太くなり、さらに多くの仕事がもらえる。
人を紹介するのも仕事のうちなのです。
さて、新年会開宴時刻になり、関西出版業界組合……「出版ネッツ関西(関西の出版関係のフリーランスが加盟する労働団体)」代表の挨拶。
「昨今の出版業界の情勢は厳しいですが、それでも、明るくがんばっていきましょう」ということで、全員で乾杯。
私は同じテーブルの人たち……
女性起業家の商品「メッセージブック(オリジナルメッセージを書いた豆本)」の緻密さに感嘆したり。
独立したての京都の歴史ライターの女性と日本史の話をしたり。
PR会社の青年から「企業広報のアウトソーシング市場の将来性」について興味深い話を聞かせてもらったり。
そうしているうちに、師匠が近づいてきました。
「島村さんには、しっかりしたところばかり紹介するからね」
そう言って、次々に人を紹介してくださるので、名刺交換に忙しくなりました。
「サイトをお持ちですか。さっそく見させていただきます」と出版企画会社の社長。
「私のところは社史が専門だけど。なるほど。司書ですか。ということは調べ物が得意ですね」と目を細めるプロデューサー。
「ほんとに企画不足で困ってるんです。何かありませんかね」と嘆く名古屋の出版プロダクションの方。
プロダクション以外にも、すごい方を紹介していただきました。
著書多数、奈良在住の有名な数学者。
「僕も知恵蔵の仕事やってたけど。やたらに僕の文章に直しを入れられるんで、嫌になってやめちゃった」と笑います。
うーむ。すごいなあ。
私は「自分の文章は、依頼主の校正が入ってはじめて完成する」と思っています。
「俺の文章は完璧。一切修正不要だ」と断言できる自信がないですね。
料理の方はスモークサーモン、鶏の中華炒め、サンドイッチ、小籠包、サラダを一口ずつしか食べられなかったけど、充実した2時間でした。
結局、参加者81名中、名刺交換したのが8名。
うちライターは2人だけ。
でも、ライターでない人とも話していて楽しかった。
私は自分から名刺を出さないけれども、名刺をいただいた方には、後で必ずお礼のメールを送ることにしています。
今回は名刺交換した8人全員から「今後ともよろしくお願いいたします」の返信をいただきました。
今回のご縁が、これからどんな形に変化するか、わからないけれども、楽しみです。
ラベル:新年会