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2010年02月16日

受け身の謎(後編) 投げか受け身か?

「合気道では、うまく投げられると気分爽快になる」……らしい。

 

「気分爽快」になったことがない私の頭の中は疑念でいっぱい。

ここはひとつ武道13段の夫に訊いてみましょう。
夫は空手4段剣道3段少林寺拳法3段、そして「投げる武道」、大東流合気柔術2段で柔道初段です。

「合気道では、うまく投げられると、気分爽快になるらしいねん。ほんまやろか?」
「あほ。お前、初段のくせに、何言うとんねん。もう「気分爽快」になっとかなあかん段階やろ。稽古が足らんで」

夫は大笑い。

「そりゃ、稽古が足らんのは重々承知やけど。それでも、ものすごく低い位置から投げられて背中打ったり、頭打ったりすることがあるから。「投げられて気分爽快」ってのが、想像がつかないんや」

私が嘆くと、夫は声をひそめて言いました。

「普通、受け身に失敗する時、「受け身する方が下手やから」になりがちやけど。「投げる方が下手」いうこともあるねん。そやけど、それ言うてしまうと、受け身が下手な人間が、全部投げる方の責任にしてしまいよるから。大きい声で言うたらあかんねん」

「……ということは、受け身に失敗するのは、100%受け身の責任じゃない?」
「まあ、どっちかと言えば、受け身の責任が大きいけど、投げる方の責任もゼロじゃないわな」

「大東流の場合は、私も投げられて思ったけど、受け身のうまい下手は、あまり関係がなさそうやね」
「あれは、とにかく投げる方が、相手を傷つけんように投げんといかんのや」

夫は苦笑しました。
かつて玄関先で、私を「合気投げ」で投げた張本人です。

「そやけど、テレビで見てたら、柔道なんか、投げられた方、痛そうやで」
「ああ、あれは、見かけと違うて、投げられた方、痛くないんやで。ちゃんと受け身の稽古してたら、の話やけどな」
「そやけど、投げられた方、ちっとも、うれしそうじゃないけどなあ」
「そりゃあ、試合じゃ「投げられたら負け」やから、うれしくないわな。もちろん、受動はスポーツやから。投げる方も、「投げながら相手を痛めつけないこと」が、ちゃんとルールになってるんや」
「ふうん。そうなんや」

結局、うまい人に投げられると……

合気道の場合、投げられるのがうまい人は気分爽快?
柔道の場合、投げられるのがうまい人は痛くないが、試合に負けたので悔しい?
大東流合気柔術の場合、投げられた人は、痛くないが何が起こったのかがわからない?

……うーむ。謎だなあ。

そんなことを考えつつ、出稽古に行くと……。

「今日は有段者ばかりなので、総当たりで20本ずつ投げ合い。合計60回やりましょう」

先生は、にこにこしながら恐ろしいことを言います。
いつも20回投げられただけで、へとへとになってしまう私に、その3倍の数……無茶やで。

「まあ、とにかくやってみましょう」

問答無用で稽古がはじまりました。

「いーち、にぃー、さぁーん……」

先生は大声で数えながら、私を投げていきます。
受け身を取りやすい高さで投げてくださるので、投げられる私も、比較的体に負担がかかりません。

「じゅーうはーち、じゅうーくー、にぃーじゅう!」

なんとか20回、終わりました。
次は、私が先生を投げる番。

最小限の動きで、ゆっくりと、自分の呼吸を整えながら先生を投げます。
「あちゃぁ、失敗した」と思った技でも、先生は軽々と受け身を取られます。

「どんな投げられ方をしても、きちんと受け身を取れること」が、「指導者の必須条件」とされていますから、当然なのでしょうが。
先生との稽古が終わると、別の有段者と交代。

「しまった。位置が低い」「間合いが遠かったか」などと反省しながら20回投げられ、交代して、また呼吸を整えながら相手を投げる。
できるだけ相手が受け身をとりやすいように、心がけて投げるけれど。
それでも失敗して反省……その繰り返し。

全員と当たって、稽古は終了。

「ちゃんと60回、できたじゃないですか」

肩で息をしている私に、先生は、うれしそうに声をかけました。

考えてみると、全員……3人と20回ずつだから、60回。
ちゃんと受け身の稽古ができたんですね。私にも。
今まで自分の限界を、自分で決めつけすぎていたのかもしれません。

ひょっとしたら「投げられて気分爽快」は……投げるのがうまい人と、うまく投げられる人の組み合わせで、呼吸が合った時にだけ起こる、「一瞬の奇跡」なのかもしれません。

その領域に到達するまでは、まだまだ遠い道のりですが。
posted by ゆか at 13:07| Comment(2) | TrackBack(1) | 武道系コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは 合気道2級の くまちゃんです

興味深く読ませていただいてます

経験が少ないのにコメントする失礼をお許しくださいまし
m(_ _)m
僕は投げられる時の恐怖心が強くて受身が怖いのが悩みです
昨年の田辺市の道主の研鑽会のとき、
人が多くてすごくせまく感じたのですが、60代くらいの女性の方に投げられた入り身投げがとても爽快でまわりが気にならない落とされ方で、とても気持ちよかったのです
一回だけ、たまたまそう感じたのかな?と思いましたが、3〜4回 すべてが、とても気持ちよく技にかかって、笑顔が出てしまいました
お名前か、せめて道場名でも聞いておけばよかったと後で後悔したくらいです
コトバにはあらわせませんが、ああいう技をいつでも出せれるようになればステキだと思いました
Posted by くまちゃん at 2010年03月09日 20:26
稽古の成り行きで、100パーセント心身(魂氣と魄氣)が取りに任せられた瞬間を氣結びとすれば、受けをとっている自分はもはやそこに居ないので、その時何かを感じる自分が居ない。取りの強引さや受けの逃げなど、氣結びのないところに合気はなく、合気をなすために何度も互いに稽古を繰り返すわけでしょう。指導時の思いやりや形を見せる場合は意図的になりますが、互いに邪心がなければ理合の中で阿吽の呼吸の成就する瞬間は稀ではありません。合氣武術となれば邪心の激突を格闘ではなく合氣するわけですから、大変な稽古だったのでしょうね。
Posted by katsuhayahi at 2010年04月16日 17:32
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[Aikido]爽快な受身
Excerpt:  最近Tkは道場のスケジュールが変わったせいで、月曜日と日曜日に稽古をすることが多くなりました。日曜日はGeneralクラスで教える側になっていて、毎週メニューを考えるのを楽しんでいます。ただ、前に..
Weblog: upk515
Tracked: 2010-03-27 06:18