税務署から担当税理士が決まったとの通知。
数日して、その税理士から電話がかかってきました。
「よろしくお願いします」の挨拶の後、いきなり税理士は核心を突く質問。
「島村さんは、開業してから現在まで、いくら売上が出てます?」
ダイレクトやなあ。
驚きながら、まもなく朝日新聞出版の『デジタル版知恵蔵』の売上数か月分が、まとめて入金されることを伝えました。
「よかった。あなたはマシな方ですよ。今年は14人、指導担当をしてますけど。ほとんどの人が、青色申告申請しただけで、まともに営業してないありさまなんで」
そんなもんなのか。
……感心していたら、さらに税理士から予想外の提案。
「記帳についてですが、『やよいの青色申告』などの会計ソフトをインストールしたパソコンを用意してください。手で書くよりも、入力した方が楽ですよ。電子申告対応ですし」
うーむ。「やよい」かあ。
mixiのコミュニティ、『わかりやすい確定申告』『個人事業主さんの何でも相談所』『青色申告者です』『会計とか税金とか』でも、このソフトの悪評は結構聞きます。
「操作が難解」とか「サポート料が高い」とか……。
青色申告者の妹でさえ、「「やよい」はあかんよ。入力煩雑で、無駄な時間取られるし。エクセルの合計で充分やで」と言うのです。
私は税理士に言いました。
「今のところ、毎日入力しまくらなきゃならないほど、取引もないですし、簿記2級なんで、手書きで帳簿つけられますし」
「それは困ります。税務署は、e−Tax(電子申告)に対応している会計ソフトを推奨していますし。税理士によっては、手書き帳簿の決算書作成を断る人もいますよ」
うわあ。なんか恐ろしいことになってるぞ。
「ソフト代なんか知れてますし、経費で落としましょう。使い方は教えますんで」
うーん。大丈夫かな。
おそるおそる最新版の『やよいの青色申告』を購入。
ノートパソコンにインストールして、税理士事務所へ。
案内されたのは、テニスの賞状やトロフィーが所狭しと並ぶ応接室。
出てきたのは、がっちりした体格で、日焼けした顔。
いかにも「体育会系」の雰囲気の若い税理士。
私の大体の事業内容(?)を説明し、持ってきた請求書や、報酬が振り込まれた銀行の通帳のコピー、集めていたレシートを見せました。
「著述業なら、不動産と違って減価償却がないし、小売業と違って、仕入れや売上原価もいらないですからね。比較的記帳する項目も少ないし、かなり簡単ですよ」
なんか、気楽に言ってくれてますが。
税理士の指示に従って、『やよいの青色申告』を使い始めてみると、意外に簡単。
このソフトには、たくさん機能がついているのですが、実際に必要な部分は、ごくわずか。
マニュアルは全部の機能の解説だから、複雑怪奇な内容になっているんですね。
「自分の必要な部分だけ知ることができる」のが、記帳指導の最大のメリットでしょう。
わからないことが出てきても、無料の税務相談でフォローできますし。
「自宅の光熱費、家賃なんかは、適当に経費に落としてください」
「適当に?」
「そうです。半分でも3分の1でも、4分の1でも、島村さんの好きな割合で決めて、毎月、経費にしてください。ただし、記帳をはじめたら、それをやめないこと。1ヶ月おきや2ヶ月おきに、経費にあげるようなことはしないでくださいね」
当然でしょう。
家賃や光熱費が、毎月払ったり払わなかったりするのはおかしい。
でも「金額を適当に決めてくれ」と言われても……
「1円たりとも誤差は許さん!」という、金銭的に厳格な銀行の世界にいたので、どうしていいかわからんわ。
「税務署は、青色申告の個人事業者から、多額の税金を取れるとは思ってません。でも、ある程度のお金の動きは把握しておきたい。だから、きちんと帳簿をつけて保存することを条件に、65万の控除を認めているわけです。交際費も無制限ですが、あくまで、実際に取引のあった常識の範囲内で記帳してください。特に、島村さんの場合、本が当たると、ドカッとお金が入りますから、税務署に目をつけられやすいです」
うわ。監査がくるのかあ。
税務監査の怖さは、経理の人間なら誰でも知っています。
「しかし、きっちりやっていたら、監査なんか怖くないです。強気で押し切ってください」
「……大丈夫でしょうか」
「困りますねえ。そんな弱気なことじゃ。これだけ実績があるのに。島村さんに足りないのは、才能じゃなくて気合ですよ。もっと自信を持って、ガンガン営業しましょうよ」
無茶言われてるなあ。
それにしても、「気合が足りない」と叱られるのは予想外だった。
そして、記帳指導3回目、最終日になりました。
「さすがに、島村さんは経理の実務経験があるから、覚えが早いですね。今年担当した人の中では一番出来がいい。……他の人は、取引の仕訳から教えないといけないですから」
税理士は溜息をつきました。
確かに、簿記の知識がゼロでは、青色申告をするのは難しい。
「あとは、島村さんが、どれだけ真剣に営業するかですね。これだけ経費がかかってるんですから、がんばって儲けてください。いつでも相談に乗りますから」
これは税理士の言う通り。
青色申告方式で執筆経費を計算すると、今までの申告額の3倍、経費がかかっていることが判明。
もっと真剣に営業しなきゃ。
そして、無料記帳指導の特典「e−Tax体験申告」。
これも申し込み。
税務署が面倒をみてくれている間に、覚えられることは全部、体験しておかないと。
一週間後、e−Tax体験指導会場へ。
指導するのは、税務署じゃなくて納税協会。
パーティーションで二つに仕切られた部屋。
向かって左側は、ノートパソコンが並ぶe−Tax申告会場。
右側には机と椅子。
これは確定申告書類に記入する場所。
まず、机に向かい、黄色の『自力作成カード』、青色の『申込書』に名前や住所などを記入。
指導員が親切なので気が楽です。
書き終わったら、パソコンコーナーに移動。
パソコン画面は、インターネット『国税庁・確定申告書作成コーナー』。
利用者識別番号と、好きなパスワードを決めて入力。
番号とパスワードは後で印刷してもらえるので、その場で覚えておかなくても大丈夫。
持ってきた源泉徴収票や、取引先からの支払調書、印刷してきた決算書の数値を、画面の指示に従って入力。
なるほど。私は「給与所得もある青色申告者」なのか。
意外に入力は簡単だけど、家でやっている医療費の確定申告と、あまり変わらない気がする。
入力が終わるとデータ送信。
なるほど。この部分が電子申告ですね。
帳票を印刷し、源泉徴収票、支払調書、決算書を提出。
指導員は受付印を押した控えを返してくれました。
「今の番号とパスワードがあれば、確定申告会場の端末でe−Taxができますが、自宅でするには住基カードとリーダが必要です。導入すると5000円控除が出ますよ」
でも、今まで通りネットで計算して、申告書を印刷して、確定申告会場に放り込んだ方が手っ取り早いや。
それにしても、得るものが多かった青色申告無料記帳指導。
おすすめです。
ラベル:確定申告