この道場の先生のご出身は、横浜が本拠地の合気道団体。
代表師範から直々に、関西で初めて道場開設許可をいただいただけあって、技がうまい。
特に間合いが絶妙。
私は人嫌いなので、他人が自分の間合いへ入ってくるのが、とても嫌なのですが。
先生は気配を感じさせず、すぅっと、軽やかに近づいてこられる。
喘息持ちの私は、呼吸量が普通の人の7割しかありません。
相手が移動している間に、さりげなく自分が技をかけやすい位置に間合いを調整して、ムダに動かず、技をかけるのがスタイル。
ところが先生は、私が適当な間合いを取るよりも一瞬早く、すいっと、こちらの間合いに入ってこられる。
あまり近づかれると技をかけにくいので、間合いを微調整。
ところが、間合いを調整している最中に、また先生は、すぅっと、つかず離れずの距離に。
……なかなか思うように技をかけさせてもらえません。
もちろん、頃合をはかって受け身はとってくださるのですが。
私より若いのに……末恐ろしい方です。
開設して2年の出稽古の道場は、まだ有段者がほとんどで。
初段の私が一番若輩者の時が多いので、「技を覚える稽古」に専念していますが。
所属道場では初心者、白帯、茶帯(上級者)が、たくさんいるので、「一緒に技を学ぶ稽古」になります。
先日の所属道場は、若い4段の指導員の代稽古。
合気会本部道場仕込みの複雑な技が多く、「え? 今の技なんだっけ?」と首を傾げる自分が情けない。
黒帯(有段者)と稽古する時は、相手が間合いを合わせてくれるけれど。
間合いが調整できない茶帯や白帯の人と稽古する時は、もうちょっと近づいて、自分から間合いを合わさんといかんなあ……
反省しながら稽古を続ける私。
茶帯の若い男性と組んで、ある投げ技の稽古をしていた時。
私が受け(技をかけられる方)で左腕を差し出すと、取り(技をかける方)の若者は、首を傾げながら、私の腕をつかみました。
「今の技、よくわかんないです。こうでしたっけ?」
突然聞こえた鈍い音。
左腕を走る激痛。
気がついた時、私は若者より2メートル前方で、左肘を押さえてうずくまっていました。
「大丈夫ですかっ!」
血相を変えて走り寄る指導員。
「すみません。すみません」
茶帯の若者は、真っ青な顔で繰り返し謝り続けます。
「すぐに冷やさないと」
指導員は、すぐさま道場の冷蔵庫に走り、アイスノンを持ってきました。
「これで冷やしなさい。肘は動かせますか? 指は?」
私は、ゆっくりと肘を曲げ伸ばししてみました。
肘を曲げる時には、肘の付け根に居座る鈍い痛みの塊。
肘を伸ばす時には、肘の内側から手首にかけて、電流のように流れる痛み。
指は動かせるようです。
「痛みますが。おそらく折れてはいないでしょう」
そう答えると、指導員は、ほっとしたようでした。
「今日の稽古は、このへんにしときましょう。そのまま冷やしておいてください」
私は左肘を冷やしながら、稽古を見学。
それにしても、久しぶりに不覚を取ったなあ。
道場に来て間もない頃、「正面打ち一教」の稽古中、相手に左目を手刀で打たれた時以来か。
最近、慢心していたのかもしれないな。
しばらく肘を冷やしているうちに、痛みはだんだん取れてきました。
「だいぶ痛みが消えたので、大丈夫そうです」と、指導員に報告すると、「それはよかった。あまり無理をしないようにしてくださいね」と、安心した表情。
しかし、肘を曲げた時の痛みが消えたとはいえ、まだ残っているのは、肘を伸ばすと時々走る鋭い痛み。
もし骨折だったら、痛くて動かせないはずだから、大したことないんだろうけど。
更衣室で着替えました。
左腕を見ると、白い肌の相手につかまれた部分、指の跡が赤黒く腕輪のようについている。
ひどい内出血。
一月ぐらい跡が残るかもしれないな。
それにしても、利き手の左をやられるとは不覚だった。
しばらく苦労しそうだな。
夫が帰ったら、ちゃんと診てもらわないと。
そう考えながら、降りしきる雨の中、私は道場を後にしました。
……次回に続く……
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