私が丹田呼吸法を学んでいる『佐々木合気道研究所』の文献を探ってみました。
「どの程度「一技一呼吸」ができるようになると「一技一呼吸」から卒業できるのか」
……このサイトは、合気道の精神や技法についての論文が200近くあるので、いつも文献を探すのが大変なんですけど。
……ありました。
『初心者は先輩や高段者にどんどん投げてもらい、受けでこの呼吸法を学ぶのがよい。投げる方が疲れて参ったと言うようになったら卒業である。本来、投げる方が受けるより大変なのである』
「うわぁ。こりゃ、卒業でけへんかもしれん」
パソコン前で、私は天を仰いで嘆息しました。
所属道場の後稽古で、高段者が茶帯や有段者を投げて、飛び受け身をさせる稽古をすることがあります。
一人当たり20回、多い時には、投げる相手が10人以上いても、投げている高段者は息一つ切らさない。
「投げる方が参ったと言うまで」投げられ続けるのは、相当難しいと思います。
特に出稽古先の先生は、私より若いし、投げ合いが大好きだから、500回ほど私を投げても、「まだまだですねえ」なんて、涼しい顔で笑っていそうな気がする。
……うーん。困ったなあ。左肺の一部が欠けている私は、永久に「一技一呼吸」から卒業できなさそうですね。
今の「総呼吸量8割」の数字を維持するためには、もちろん「一技一呼吸」の稽古も続けていくけれども。
他の呼吸の技法も、平行して学ぶ方がいいかもしれない。
そこで、『佐々木合気道研究所』の文献を見ていくと、最新の研究文献から、予想外のキーワードが出てきました。
『胸式呼吸』
……最近では「健康に悪い」とさえ言われている呼吸法です。
でも、私の経験だと「胸式呼吸は悪」とも言えないんですね。
私は子供の頃の喘息発作の最中、咳が止まらずに、腹筋が緊張しすぎて、よく嘔吐していました。
そういう時に「お腹を出したり引っ込めたりして腹式呼吸しろ。咳が止まるはずだから」と言われても、無理なんですよ。
眠らずに壁にもたれて肩で息をする……胸式呼吸で対応していました。
それに、なぜ人間の体は、「健康に悪い」とされる、胸郭を開く胸式呼吸が基本になっているんでしょうか?
「健康によい」腹式呼吸が基本でいいはずなのに。
同じ疑問を持った人は結構いたらしく、『OKweb』『msn相談箱』『教えてgoo』などで、『腹式呼吸と胸式呼吸のメリットについて教えてください』の質問を見かけました。
その中で、一番解説が詳しかったのが『msn質問箱』です。
人間は立っている時は肋骨筋を働かせる胸式呼吸、寝ている時は横隔膜の伸縮で行う腹式呼吸をしています。
特に女性は、子宮や卵巣などの女性特有の臓器を保護するために、胸式呼吸が基本らしい。
胸式呼吸のメリットは、胸郭を開くと一気に酸素が大量に供給できるので、交感神経が緊張し、体を活動的にできる。
瞬発力の必要なゴルフやテニスなどのスポーツは、胸式呼吸の方がいいそうです。
一方、腹式呼吸は副交感神経を緊張させる呼吸法で、体がリラックスして、血圧が下がる効果がある。
武道で腹式呼吸が重視されるのは、「敵を前に冷静になる」ということも大きいと思います。
合気道は、準備運動と整理体操の時に、「腕を上げ、胸を開いて大きく深呼吸」をやりますから、胸式呼吸そのものを否定しているわけじゃないんです。
でも、準備運動と整理体操以外に「胸式呼吸を使え」という話は、ほとんど聞いたことがありませんね。
『佐々木合気道研究所』所長の佐々木貴7段は、胸式呼吸の方が有利な動きとして、「肩を貫く」「鳩尾(みぞおち)をゆるめる」「胸を開く」「肩甲骨を柔軟につかう」を挙げておられます。
実際にやってみると、腕を上げたり、肩や肩甲骨や背中を使ったりする動きの場合、私も無意識に胸式呼吸をしているようです。
『腹式呼吸は上下の縦の呼吸であり、胸式呼吸は左右・前後の横の呼吸のようである。従って、横に力を働かせるような、つまり胸や肩甲骨を開いたり閉じたりする動き、例えば、入り身投げで相手の顔面(喉)に肘をぶつけたり、一教で打ち込んでくる相手の手を横に導いたり、四方投げで持たせた手を横に捌くとき、二教で相手の手首をきめるときなどには、胸式呼吸を遣うと腹式呼吸でやるより早く、力強く動けるようである』
……なるほど。胸式呼吸は瞬発力を引き出せるから、うまく使いこなせれば、これらの技が効果的になるんですね。
丹田呼吸……立ったままの腹式呼吸は、意識しないとできないから、そちらに気をとられがちでしたが。
胸式呼吸も意識的に使いこなせるようなると、さらに総呼吸量が増えるかもしれない。
新しい呼吸法のテーマをいただき、『佐々木合気道研究所』には、本当に感謝しています。
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