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2010年08月14日

奉納演武(前編) 最も危険な演武

「出稽古先の助っ人で、奉納演武に出ることになった。めったにない機会やねん」




私は夫に得意そうに言いました。

「ほう。神社で演武か。まさか、地べたでやるんとちゃうやろな。受け身したら痛いで」
「いや、神社に能舞台みたいなものがあって、そこに畳を敷いてやるらしいよ」
「いつもと勝手違う場所やけど。大丈夫か?」

夫に、そう言われて、私も不安になってきました。

「そう言えば、先生が言ってた。去年、奉納演武した時は、舞台が四畳半ほどの面積しかなかったって……」
「あほっ! 四畳半で何ができんねん! 入り身投げにしても、小手返しにしても、投げられて、下手に飛び受け身したら、舞台から落っこちるやないか!」

激怒する夫は、空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段。
大東流合気柔術は合気道の源流の古武道で、共通する技が多いのです。

「うーん。確かに飛び受け身(宙返りのような受け身)したら、危ないかもしれん」
「……もう、見栄えのええ飛び受け身とか、そういうことは、どうでもええから。とにかく、ケガせんように。気ぃつけや」
「うん。気をつける」

当日、仕事した後、夕方に大阪市内へ。

演武を奉納する神社は『浪速・高津宮』。
平安時代に清和天皇の勅命で建てられた仁徳天皇を祭る神社。
上方落語の『高津の富』の舞台になった由緒ある神社です。

高層ビルの谷間に、身をひそめるように建つ神社。
参道には屋台が立ち並び、大勢の人でにぎわっています。
その人混みをかき分け、急な石段を上がると、そこが神社の本殿。

風格を感じさせる本殿に見入っていると、突然後ろから「まいど!」と声がしました。
驚いて振り返ると、立っていたのは、出稽古先に稽古に来ている有段者の若者。

「仕事帰りお疲れさんです。先生、横浜の助っ人を新大阪に迎えに行ってるから、先に着替えててほしいって」

今回は、先生の所属する合気道団体の本部・横浜から二人、女性有段者が演武に参加すると聞いていましたが。

とりあえず演武する場所、奉納舞台へ案内してもらいました。

4メートル四方の舞台の真ん中で、学生がギターを弾きながら歌っています。

舞台の高さは1メートルか。舞台の下は固い土だから、落ちると間違いなく大ケガだな。
それにしても狭い。
四畳半とまではいかないけれど、正味6畳あるかないか。

舞台から屋根までが約3メートル。
この高さでは、杖(合気道で使う棒状の武器)や木刀を振り回すのは無理だ。

それよりも問題なのは、舞台の四隅についている、橋の欄干のような形の赤い木製の飾り。
演武中に囲いに激突するリスクもあるのか。

……えらいことになったなあ。

「ほらほら、辛気くさい顔しとらんと。先に着替えときや。社務所の宮司さんに案内してもらい。僕は、先生ら来たら案内せんとあかんから、鳥居のとこで待っとく」

彼にうながされて、にぎやかな祭囃子が鳴り響く中、社務所に向かいました。

「今日はよろしくお願いいたします」と、年配の宮司さんに丁寧に挨拶され、恐縮しながら、一緒に奉納演武参加者の控え室へ。

純和風の建物の中に入ると、空手着を着た若者たちが畳で車座になっていました。

「こちらは、奉納演武される合気道の方です。皆さん、よろしくお願いします」

宮司さんに紹介され、若者たちやと挨拶を交わしました。

その後、指定された部屋で着替えていると、「失礼します」と襖の向こうから女性の声。
「どうぞ」と答えると、入ってきたのは若い女性二人。

私は彼女たちに声をかけました。

「失礼ですが、もしかして、横浜から来られた方ですか?」
「そうです。ひょっとして、地元の道場の方ですか?」

黒髪をショートカットにしている女性が答えました。

とりあえず、お互いに改めて挨拶と自己紹介。

もう一人の長い髪を染めた女性は、うれしそうに言いました。

「大阪は、思ったほど暑くないですね。うどんとか、お好み焼きとか、たこ焼きとか、串カツとか、いろいろ……楽しみにしてるんですよ」

「『海の日の三連休、大阪観光はいかがですか。案内しますよ』ってメールが来て、「行きます」って返事したら……ちゃっかり稽古のスケジュール組んでるんですよ。先生ったら」

苦笑する黒髪の女性。

「とりあえず、今日の演武が終わったら、ゆっくりと大阪観光を楽しまれるといいですよ」

私が「今日の演武」と言った途端、長髪の女性の表情が強ばりました。

「さっき、会場を見ましたけど。……危ないですねえ。あれは」
「狭いですからねえ」
「いえ。むしろ危ないのは、あの囲いですよ。狭いだけなら、多少足がはみ出たって大丈夫だけど。あの囲いに当たったら、痛そうですよ」

不安そうな顔の黒髪の女性。

「しかも、あの、つるっとした床に、畳を敷いて演武するわけですよね。演武やってるうちに畳がずれて、その隙間に足が入ったら、捻挫するかもしれませんよ」

溜息をつく長髪の女性。

合気道はすり足で移動するので、技の最中、畳がずれる恐れがあるのです。

確かに合気道演武の場所としては、最悪かもしれない……。

着替えを終えて、三人で控え室に戻ると、道着袴姿の若者と先生、年配の有段者が待っていました。

「今日は、めったにない機会ですから。がんばりましょう」

先生は楽しそうに言うけれども。
よく考えたら、リハーサルなしのぶっつけ本番。

「技は、僕の方で技は決めてますから、普段どおり、指定した技をやってください」

夏休み最初の三連休で旅行する人が多く、少年部の子供たちは不参加。
参加したのは大人の有段者ばかりだから、ぶっつけ本番でもなんとかなるけど。

「合気道の方、そろそろ準備を」

宮司さんが呼びに来ました。
時計を見ると、予定演武時間よりも20分早い。

「とりあえず、行きましょうか」

先生の後に続いて、私たちは舞台へ向かいました。

……次回に続く…… 
タグ:合気道 空手
posted by ゆか at 10:19| Comment(1) | TrackBack(0) | 武道系コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
映画AIKIでもやってたのは、奉納演武だったかと思います。
その広さで演武をするのに、あまり打ち合せもないのですね。

この前の稽古で先生にお尻を向けたり、投げ技で周りを注意するように言われました。
日頃から周囲に目を向けて注意を怠らないようにと。

六畳程度、しかも高さがあり。
どうなるのか続きが気になります。

引っ越お疲れさまです。
Posted by たくし at 2010年08月14日 14:19
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