「合気道は和合の武道だから、受けと取りは調和するべき」。
そして、制御しきれず、時々相手を驚かせる私の自己防御本能……。
困ったなあ。
しかも自己防御本能は、一瞬でも早く相手にダメージを与えるために、空手に近い動きをするのです。
「なんだ、今の動きは! 合気道の動きじゃないな!」と叱られて、気まずい思いをすることもある。
……どうしたものだろう……
私の自己防御本能に驚きつつも、叱らなかった先生に相談してみました。
「私としては、うまく相手に合わせて稽古したいわけですが、時々、私を試そうとする人がいるのです。さっきのようなことが、まれに起こってしまうので、とても困っています。私は争いたくないし、自己防御本能の方も、争いたいとは思ってないわけで」
先生は、微笑みながら言いました。
「それは、島村さんが悪い」
「えっ?」
予想外の答えに私はとまどいました。
「まあ、まだ初段ということもあるんでしょうけど。技をかけてる最中、不用意に間合いが近すぎたり、重心がずれたりすることが多いんですよ。初心者や茶帯ならまだしも、島村さんは黒帯だから、人によっては「隙がある」ということで、途中で攻撃してくるわけです。しかも、島村さんには、なんとなく、そういう相手の気持ちを誘うような雰囲気がある。相手に技をかけることに、とらわれすぎてるんですよ」
「……困りましたねえ」
私が溜息をつくと、先生は不思議そうな顔をしました。
「稽古の途中で受けから、蹴りや足払いとか当て身とかされたことが、ないわけですか?」
「たまに、返し技(受けの人間が逆に技をかけること)で投げられてましたけど。蹴りや当て身の直撃を食らったことはないし。足払いをかけられたことはないですね」
「ふうん。所属道場の有段者の皆さん、優しい方ばっかりだったんですね。……でも、僕は違いますよ」
先生は笑顔を見せました。
「まず、不用意に相手の間合いに入らないこと。例えば片手取り四方投げで……」
先生は、左手で私の右手首をつかみにきました。
その時、先生の右手が一瞬、妙な動きをしたような気が……。
次の瞬間、私の左手は、勝手に先生の右手をなぎ払い、顔面に貫手(空手の手の型)を突きつけていました。
……あああ。またやってしまった。
「危ないじゃないですか! あやうく目を突いてしまうとこですよ」
「大丈夫ですよ。扱うコツはつかめましたから……それにしても、面白いなあ」
貫手を顔に突きつけられているのに、にこにこしている先生。
私が制御できない私の自己防御本能を、他人の先生が扱えるというのも、なんだか理不尽な気がしますが。
先生を怪我させなくてすんでよかった。
「今のは、内側に入りすぎたから、当て身を入れてみましたけど。これから、時々、こんなふうに牽制を入れていきながら、相手に合わせすぎて無防備になる、その癖を直していきましょう。島村さんが、隙をなくして、しっかりすれば、自己防御本能も反撃しなくてすむし。あ、でも、とっさの時の受け身に必要かな。その能力。……それにしても、課題の多い人ですね。島村さんって」
先生は楽しそうに言いました。
うーむ。なんだか大変なことになりそうだなあ。
「お前の戦う才能を生かせて、なおかつ戦わなくてすむのが合気道」……夫の言葉は、長い間謎でしたが。
ようやく、その謎を解く糸口が見えたような気がします。
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本来、型の申し合わせ練習では想定外のことはあまりしないのですが・・・・。
少林寺では後の先ということで相手の攻撃に対して守り反撃するというふうに型が作られているのですが、より実践的にやればどの段階でも反撃可能になりますね。
でも技をかけるほうは反撃されないようにかけるべきだと思います。