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2006年05月02日

主治医が変わること

「私は来月で退職しますので、次回から、担当の先生が変わります」「えっ!」

突然の主治医の言葉に、私は驚きました。
今まで5年間、この呼吸器専門病院の院長先生の指導で、喘息の管理をしていたのですが……。

「大丈夫です。新しい先生は呼吸器が専門ですし、きちんと引継ぎますよ。あなたはピークフロー(呼吸量)も安定しているし、喘息をコントロールできる人だから、大丈夫」
「不安」の二文字が私の顔に貼りついていたらしく、院長は諭すように言いました。

一般的に病院選びは、病院の設備や医師の技術などが重視されていますが、「医者との相性」も重要。
相性がよくて意思疎通できていれば、いざという時、設備のいい大病院を紹介してもらえます。

新しい主治医と相性が合わなかったらどうしよう……

半月後に会った新しい主治医は、私より若く、いかにも「女医さん」といった感じの快活な女性。
私のカルテに視線を落として言いました。

「ステロイドと抗コリン剤(気管支収縮予防剤)の処方って、変わってますね。5年前から来られているのに、過敏性の呼吸機能検査の記録がないのはなぜですか?」
「過敏性検査というのは、何でしょうか?」
「気管支拡張剤の濃度を濃くしながら吸入し、反応をみる検査です。来月やりましょう」
「気管支拡張剤!」

私は思わず、彼女をにらみました。
私は10年前、喘息の発作止め薬、気管支拡張剤を使っていて、副作用事故を起こし、その後4年間、後遺症の発作性頻脈(心臓の動きが突然早くなる不整脈の一種)に悩まされたのです。

「お断りします! 10年前、気管支拡張剤で副作用事故を起こし、心臓がおかしくなって死にかけたんですから! もう一度、同じ目にあえというんですか!」
「落ち着いてください!」

彼女は声を荒げました。

「10年経っているのでしょう。同じことが起きるとは、限らないじゃないですか。それに、私が自ら検査します。仮に何か起きたとしても、救命設備も揃っています」

理屈ではそうなのですが。

「ピークフローが、健康体の8割で安定しているのに、時々息苦しいということは、別の病気の疑いもあります。検査して、ご自分の今の病状を、正確に把握する必要があります」

不本意でしたが、検査の同意書を受け取り、私は言いました。

「この病院の図書室に『アレルギーと生きる』という本があります。私が書きました。主治医になられるんでしたら、カルテ代わりに目を通しておいてください。はっきり言って、今の医学の世界での、アレルギーや喘息の「常識」は、私には通用しませんので」

険悪な空気の中、私は診察室を出ました。

10年前、喘息薬の副作用事故で、患者がたくさん死にました。
当時の医者は「規定量内なら安全。死んだ患者は規定量以上の薬を使った」と説明していましたが、本当は違う。
私の場合、規定量で事故が起きたのです。

当時の喘息予防治療ガイドライン(治療規定)では、規定量で副作用事故が起こることも、事故を起こした患者が、自力で生き延びることも想定外。
さらに、薬の処方は「ステロイドと気管支拡張剤」と決められているのに、気管支拡張剤を服用すると、頻脈の拒絶反応が起こる私。
幸い、気管支収縮予防剤は拒絶反応が出ないので、「ステロイドと気管支収縮予防剤」で対応することになりました。
もちろんガイドライン違反。

普通の内科医は「気管支拡張剤に拒絶反応」と聞いただけで青くなって、きちんと診察してくれない。
内科の主治医をガンで亡くしてからは、風邪薬をもらうのにも一苦労。
見かねたアレルギーの主治医が、この病院に紹介状を書いてくれたのでした。
新しい主治医が気に入らないからといって、他の病院に行くこともできないのです。

「来月、呼吸器の検査をすることになった。呼吸器の過敏性をみる検査で、10年ぶりに気管支拡張剤を吸うことになるんやけど、生きて帰ってこられるかどうか、わからんよ」

帰宅して夫にそう言うと、夫は大笑いしました。

「おおげさやな。病院で検査するんやろ。医者もおるんやし」
「でも、病院が大丈夫やったら、日本人のほとんどが、病院で死ぬわけないやんか」

夫は私の方に向き直り、穏やかな声で言いました。

「まあ、不安なのもわかるわ。あの時、俺かて「どうしようかと」思うたもんな」

副作用事故が起きた時、たまたま夫がそばにいて、気功で気道を広げるツボを刺激して、喘息を和らげてくれなければ、私は助からなかったでしょう。

「そやけど、あれから10年経ってるわけやろ。今、お前は、仕事も合気道もできるぐらい元気やんか。10年前の、寝込んでばっかりしてた時とは、体力が違うやろ」

副作用事故の後、2年ほど、私は寝たり起きたりの毎日を過ごしていました。

「この際、ちゃんと調べてもらえ。ガンとか、別の病気やったら、困るやんか」

確かに喘息も難儀ですが、ガンも困る。
それに、もし拒絶反応が起きても、前より体力があるので、軽症ですむかもしれない。

1ヵ月後、不安でしたが、検査を受けました。
呼吸機能は健康体の人の8割。
気道の弾力性も正常(喘息患者は、気道の細胞が繊維状になってしまい、弾力がなくなっていることが多い)。

そして、問題の過敏性検査。
10段階に分かれた気管支拡張剤を、濃度を序所に濃くしながら吸入し、反応をみるもの。
主治医と一緒にモニター画面を見ながら、マウスピースを口にくわえ、レベル1から順に、薬を吸入していきます。

レベル8になった時、突然背中に鋭い痛みが走り、思わず背中をおさえて悲鳴を上げました。

「すみません。ここでやめましょう。喘息の予兆が出ました」
「えっ? モニターには、何の反応も出てないですよ」

確かに、画面には何の変化もないけれど、私の経験では、この痛みは身体からの警告です。

「続けましょう。今、どこが限界なのか見極めないと、次の段階に進めないですから」

検査続行。
最後のレベル10で、猛烈な咳と、頭がくらくるするほどの頻脈。

「すみません。大丈夫ですか?」
「い、いや、ぜ全然だ、大丈夫…じゃ、ないで、す…もう、に二度と、嫌で、すから、ね」

機械の上に突っ伏して、咳き込んで涙ぐむ私に、主治医は水を入れたコップをくれました。

「そうですね。もう二度とこの検査はやりません。あなたはかなり敏感な人ですね。でも、過敏性そのものは、レベル10での反応ですから、健康体並みです。IgE(炎症反応)値も、標準より低いですし。次回から、今より薬を減らしましょう」

薬を減らせる……それを聞いて、ちょっとうれしかった。

「確かに、あなたは、普通の患者さんとは違うけれど、これから、信頼関係を作っていきましょう」

主治医は、笑顔を見せました。

結局、喘息はすぐに止められて、残った頻脈も3日で治まりました。
なんとか、この主治医と、うまくやっていけそうです。
やれやれ。

posted by ゆか at 11:26| Comment(2) | TrackBack(0) | 日常コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちわ
僕も10年前に喘息で死にかけたことがあります。一月間続いていた咳が夜中に突然悪化し、直感で救急車では間に合わないとと思い徒歩5分ほどの総合病院に意識が切れそうになりながら駆け込みました。仕度をして少し遅れてきた妻が「よく自力でこれたもんだ しかし今夜がヤマですと」と言われたと、後日に聞きかされました。後にも先にもその一度だけですが今思い出しても怖かったです  由花さん先生とうまくやって下さい 
Posted by at 2006年05月07日 17:34
信頼できる主治医になってくれそうで良かったですね。
私の娘もアレルギーで年に何度か嘔吐を繰り返します。
救急病院の先生が主治医なのですが、深夜は不在のことが多くほかの先生に診てもらうことになります。
カルテをよく読んで主治医の処置を確認してくれる先生もいますが、独断で処置して入院する羽目になったこともあります。
自信がなければ医者なんて商売はできないのでしょうが、もうすこし謙虚な先生が増えてくれるとコミュニケーションしやすくなると思いませんか。
Posted by 町田おやじ at 2006年05月17日 12:38
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