では、『武産合氣』の開祖の言葉の部分を読んでみましょう。
『今日はお尋ねにより、合気道とは何か、ということについて申上げてみましょう。合気道とは、宇宙の万世一系の理であります。合気道とは天授の真理にして、武産の合気の妙用であります。合気道とは、天地人、和合の道とこうなるのであります。 また合気道とは、万有の処理の道であります。合気道とは、言霊の妙用であり、宇宙みそぎの大道であります』(『武産合氣』P.28)
……ううう。全然わからん。
しかし、わからないのに、なぜか納得させられてしまう。
開祖の言葉の力は、すごいと思います。
『この道を思惟する人々は、宇宙建国完成の経綸に奉仕しなければならないことになっております』(『武産合氣』P.28)
……すみません。喘息に効く丹田呼吸法を身につけたくて、合気道をはじめてしまって。
それにしても、難解な神道用語を解読しようと思って、せっかく神道の入門書を手に入れたのに、ちっとも役に立たないとは。
確かに神道用語は数多く出てくるのですが。一般的に「神道」と呼ばれている、神社で行われている神事や言葉とは違うようです。
私の専攻は古事記や万葉集などの上代文学でしたが、古事記の言葉ともニュアンスが違う。
どうやら、開祖の語られている神道の言葉は、大本(教)のものらしい。
ここで、開祖、そして合気道にも大きな影響を与えた大本(教)の考え方を参照するために、『大本(教)』公式サイトをのぞいてみました。
その教えは、
『神は万物普遍の霊にして人は天地経綸の主体なり、神人合一して茲(ここ)に無限の権力を発揮す』。
最高神は大宇宙の創造主神(そうぞうすしん)、大本皇大神(おおもとすめおおみかみ 古事記に登場する天之御中主大神(あめのみなかぬしのおおかみ)のこと)。
清潔、楽天、進展(社会改善)、統一の四大主義を宇宙の法則とし、人間の意識が四大主義からはずれると、災いが起きるとしています。
そして、この四大主義の実践で、世の中をよくしていこうというのが大本(教)の思想。
一方、編著者の高橋氏がおられる『白光真宏会』公式サイトによると、白光真宏会の考え方は
『人間は本来、神の分霊であって、業生ではなく、つねに守護霊、守護神によって守られているものである。この世のなかのすべての苦悩は、人間の過去世から現在にいたる誤てる想念が、その運命と現われて消えてゆく時に起る姿である』。
そして、『どんな困難のなかにあっても、自分を赦し人を赦し、自分を愛し人を愛す、愛と真と赦しの言行をなしつづけてゆくとともに、守護霊、守護神への感謝の心をつねに想い、世界平和の祈りを祈りつづけてゆけば、個人も人類も真の救いを体得出来るものである』
同じ神道系の宗教ですが、微妙にニュアンスが違いますね。
この点を踏まえておく方が、『武産合氣』を読む時に混乱が少なくなると思います。
そして、『武産合氣』解読の鍵になるのは、開祖に影響を与えた大本(教)の文献、出口王仁三郎(おにさぶろう)聖師の著書、例えば『霊界物語』のようなものだと思います。
しまったなあ。手に入れておけばよかった。
これを正確に読み解くにはどうしたらいいんだろう……
悩んだ私は、ふと近世文学の教授の言葉を思い出しました。
「古典文学は、大勢の人が筆で写して、何百年も伝わってきたんです。その時々で、写す人が字を間違えたり、写し忘れたり、勝手に自分の考えを書き足したりして、オリジナル、原本とは違う形で、現在まで引き継がれてきました。たとえ、オリジナルが失われていても、オリジナルに一番近いものを探し出すのが、私たち研究者の仕事です。普通に古典文学を読む分には、フィーリングでいいんですよ。それよりも、「読んで自分が何を感じたか」の方が大切ですよ」
……ああ、そうだった。私は、ちょっと傲慢になっていたかもしれない。
それにしても、現代の日本語で書かれている『武産合氣』に、古文解釈の手法でアプローチするはめになるとは思いませんでしたね。
再び『武産合氣』を読んでみましょう。
『合気道は天之叢雲クキサムハラ竜王の働きであります』
『合気道とは宇内を悉くみそぎ、森羅万象の罪障、邪気邪念を祓い清め処理するところの大道なのであります』
『合気の道は愛を守るの道であります。愛なくばこの世の一切は成り立たないのです』
『合気とは、宇宙の中心に立って、ただよえる世を立て直す役目を持っておる処の一つの道であります』(『武産合氣』P.32〜33)
……うわぁ。合気道って、そんなにすごいものだったのか。
申し訳ありません。安易にはじめてしまって。
開祖は、論理ではなく、直感で発言される方だったようですね。
「合気道とは」が何度も出てきますが、ひょっとしたら、表現を変えて同じことを言われているのかもしれない。
編著者の高橋英雄氏は、開祖の言葉の聞き書きに、さぞ苦労されたでしょう。
大本(教)になぞらえた開祖の直感的な表現を、なんとかわかりやすくまとめようと努力したけれども。
高橋氏は開祖の言葉を、自分の持つ白光真宏会的理解で解釈して補完することしかできなかったため、『武産合氣』の中に大本(教)と白光真宏会の感覚が入り混じった。
これが難解な「『武産合氣』を、ますますわかりにくくしているわけです。
でも、この事実を踏まえて、じっくり『武産合氣』を読むと、どこが開祖の言葉で、どこが補完部分かが大体わかりますから大丈夫。
本来、直感で書かれた詩や和歌のようなものは、「解読」などという無粋なことをせず、そのまま読み味わうのが正しい態度なんですが。
「『武産合氣』はわからん」と、困っておられる方も多いようですから、なんとか解読の手がかりをつかみたかったのです。
『武産合氣』は開祖の思想、「なぜ合気道を創始したか」が書かれたエッセンスのような本。
私も5回読んでみましたが、その時々で気になる言葉が違います。
何度も読み返して深く味わう本です。
開祖が亡くなられた後、合気道は世界各地に広がり、今では、さまざまな人種、さまざまな宗教の人が稽古しています。
そのためか、今の合気道には、創始された当時の宗教的な色彩はありません。
時代とともに合気道も変わっていくのです。
最初の合気道の形、晩年の開祖の言葉を、苦労しながらまとめてくださった高橋英雄氏と、五井昌久氏の尽力のおかげで、私たちは『武産合氣』として、わずかながらでも、初期の合気道の姿を知ることができる。
本当にありがたいことです。
「開祖の本だから買ったけど、意味わからん」と、『武産合氣』を本棚に放り込んだままにしている合気道家の方も多いと思いますが、ぜひ、もう一度読まれるといいでしょう。
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2011年01月15日
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開祖の言葉、わけがわかりませんけど説得力ありますよね。宇宙なんて言葉を使われると、何を想像すればいいのかさっぱりですけど。でも私もフィーリングでいいと思うんですよね。
宇宙という言葉は、大地に立っているけど、宇宙から吊られてる状態をイメージするとか。愛という言葉は、ぶつからないし、相手と添う動き方とか。合気道で使うイメージでいいんじゃないのと思ってます。
ただ日記を読ませていただいて、もう一回読んどかないと、ダメかって思いましたよ(笑)
しかし、霊界物語まで出てくるとは。昔、書店で手に取って立ち読みしてみましたけど、さっぱりもさっぱり過ぎて、何のこっちゃと(笑)
開祖の言葉、大本教の思想、著者の宗教。この辺りに気をつけて再度チャレンジして読んでみたいと思いました。
読書百編すれば、おのずとその意通ず。といいますが、この難解な本を五回も読まれたのですね。