意外にも、それは鉛筆。
あらゆる文具を知り抜いた文房具コンサルタントが推す筆記具が、万年筆でもボールペンでもシャープペンでもないのが興味深いです。
土橋さんによると、鉛筆のよいところは、「安価で気軽」「ボールペンのようにインクがかたまることもなく、いつでも書ける」「書いたものの保存性は墨に匹敵」「1本の鉛筆で50kmの線が描ける(ボールペンは1.5km)」「削り方によって文字の太さをかえられる」「削る楽しみ」「消しゴムで消せる」
……言われてみれば、「最強の筆記具って鉛筆かも」という気もしてきたりして。
ただ、鉛筆には、「削る手間」「消しゴムで消える」「細かい字を書くのに不利」という弱点があるので、ボールペンやシャープペン、万年筆との使い分けが必要になるんですね。
この本で紹介されている「月光荘画材店オリジナル8B鉛筆」。
土橋さんは企画を考える時に愛用されているとか。
私も企画立案鉛筆派です。
5ミリ罫線のレポート用紙に、罫線を無視して、鉛筆で好き放題に思いついたことを書きなぐるのは、私の楽しみの一つ。
そういえば、私は普段「三菱鉛筆uni硬筆書写用」を愛用していますが。
これは4Bと6Bしかありません。
「8Bの鉛筆」の書き心地を知りたくなって、近所の東急ハンズで探してきました。
「uni」には6Bしかないですが、ワンランク上の「Hi−uni」には8Bがありました。
「硬筆書写用」6Bと書き比べてみたんですが。
芯の色は、ほぼ同じ。
でも、6Bの方が8Bに比べて、書いた字の色が少し濃い……変だなあ。
『三菱鉛筆博物館』によると、鉛筆の芯は粘土と黒鉛でできています。
例えば、HBの場合、黒鉛7に粘土3。
粘土の割合が多ければ多いほど芯は硬く色は薄い。
HはHARD(硬い)、BはBLACK(黒い)。
Hの数字が大きいほど薄く硬く、Bの数字が大きいほど黒く軟らかい芯。
FはFIRM(ファーム:しっかりした)で、HとHBの中間の濃さと硬さ。
不思議だなあ。
それだったら、8Bの方が6Bより濃くて軟らかいはずなのに。
書き味も、「Hi−uni」は滑らかではあるけれども、若干「硬筆書写用」より硬い。……???
調べてみると、二つの「uni」は違う目的で開発された鉛筆でした。
「Hi−uni」が「滑らかで磨耗しにくい芯」を追求したのに対して、「硬筆書写用」は、漢字のトメ、ハネ、ハライが、くっきり書けるように、芯に特殊な油を染み込ませています。
なるほど、書き味と線の濃さの違いは、用途の違いだったんだ。芸が細かいですね。
「uni」は9Hから6Bまでですが、高級鉛筆の「Hi−uni」は「HB」「F」を含み10Hから10Bまで22種類。
これは2008年現在では世界一の硬度幅。
……うわっ。まだ出た「世界一」。
実は「世界初」「世界一」の大安売り状態なんです。
文具の世界って。
その点を、もっと世界にアピールした方がいいと思います。もったいないなあ。
ちなみに「uni」の発売は1958年。
工業デザイナーの故・秋岡芳夫氏のデザイン。
軸の色は、日本の伝統色・海老茶色と、西洋のワインレッドを合わせたオリジナルの「uni色」。
……すみません。
子供の頃から「小豆色」と思ってました。
『2009年グッドデザイン ロングライフデザイン賞』と『新日本様式100選』をダブル受賞した名品です。
私は企画のほかに、セミナーやテープ起こし(対談やインタビューのテープを聴いて文章にまとめる作業)でも鉛筆を愛用しています。
人の話と自分の心、鉛筆が一体になって疾走する爽快感が私は好きですね。
万年筆やボールペンやシャープペンとは、また違った魅力のある実力派の筆記具……鉛筆。
もう少し見直した方がいいかもしれません。
ラベル:鉛筆
硬筆書写用鉛筆のお話も興味深いです。なんと。芯に油を加えているのですか。紙によって合う合わないがあるかもしれませんね。