今、出稽古先で苦労しているのが、「手」です。
合気道の手刀は、大きく手を開いて5本の指を伸ばし、指先から気を発して打ち下ろすのですが。
私の手刀は、指は軽く開くものの指先は少し内側に曲がる。
空手の手刀です。
そして、「気」が出ているのは、指の第一関節。
「あ、また手が開いてないですね。やりなおし」
出稽古先の先生に叱られつつ、指を伸ばして、大きく手を開いて手刀を打ち下ろすわけですが……
しばらくすると、また元の空手の手刀に戻る。
指の腹から掌にかけての筋肉が引きつってきて、手を開くのが辛くなるのです。
……困ったなあ。なんとかならんもんやろか……
さらに、私が苦手なのは「目」の使い方。
「お前は目の使い方が下手や」と、よく夫に言われます。
「観の目に頼りすぎ。もっと見の目、目でよく物を見んとあかん」
「でも、私の敵、ハウスダストとか、ダニとかカビの胞子は、小さすぎて見えないわけで。動体視力や観察力は、全然役に立たんよ」
父方は先祖代々アレルギーの家系。
私は喘息、花粉症、アトピー、アレルギー性の鼻炎と結膜炎、接触性ジンマシン、化学物質過敏症、食物・薬物アレルギーが持病。
長年の治療のおかげで、数値的に並みのアレルギー患者になりましたが。
この病気は治る見込みがない。
でも、アレルギー反応を最小限に抑える技術は発達しました。
花粉の季節には、ほんの少しだけ窓を開けて、手を外へ出し、湯加減をみるように空気をかき回して、空気中の花粉の濃度を読み取る。
うっかり埃の多い部屋に足を踏み入れてしまった場合、息を吸い込む前に、眉間で直感的に埃の濃度を読み取り、部屋から出て行く……。
「粘膜にアレルギー物質がつくから苦しむ。それなら、先手を打って粘膜につくのを阻止してしまえばよい」……と、自己防御本能(私の体の意思)は考えたようです。
さらに最近では、マスクと花粉ゴーグルをつけて、外へ出る前に「閉じる」と意識しただけで、鼻呼吸は止まり、口の呼吸は小さくなり、目は薄目を開けた状態になります。
可能な限り花粉や黄砂、ハウスダストとの接触を避けるためですが。
この時、「地獄耳」と検査技師が呆れる聴覚と、こめかみを使って周囲の状況を把握します。
「そっちの方は、今まで通りやったらええやんか。特に空手なんかは、拳の打ち合うのが早すぎて、目で見てたら遅い。……俺は、お前が目の使い方下手で体に負担かけてるんが、あかん、言うてるんや。左が利き目やからいうて、左目ばっかり使うから、左肩ばっかりこるんやんか」
夫は、空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段。
時々少林寺拳法の技術で私のツボを押して、肩こりを和らげてくれています。
「お前の目は、いつも一点見てて上下左右に動かん。そやから、目に負担がかかる。もっと目玉動かして物見んとあかん。特に目玉だけ動かして、目の端で物を見るのも大事なことや。……ちょっと、自分の左手を前に出してみ」
夫に言われるまま、私は自分の左手を目の前に出してみました。
「左手を伸ばして、指を一本立てて、それを左目だけで見る。それから腕を曲げんと、ずっと後ろに下げていけ。……それを左目だけで追っていくんや」
夫の指示通りに、右目を閉じて、私は左人差し指を見つめたまま、左目を左へ……
突然、左目に激痛を感じた私は、大あわてで洗面所に走りました。
「どないした!」
顔色を変えた夫に、私は謝りました。
「すんません……コンタクトがずれた」
「あほやなあ」
夫は呆れ顔。
「とりあえず、まずは指を見ながら、目玉を意識して、目を上下左右に動かす。その時、顔は動かすなよ。それができたら、また目の使い方教えたるわ。そやけど、今度からレンズはずしとけ。あほ」
叱られてしまいました。
……それにしても、えらい宿題出されたなあ。
私が恐れているのは、「目がうまく使えて、観察力や動体視力が向上するのとひきかえに、直感が鈍くなったり、触覚で花粉やハウスダストの濃度を読み取る能力を失ったり、聴力が衰えたりするかもしれない」こと。
もしかしたら、目に見えない危険物に対応するために、視覚以外の感覚器に鋭敏さが優先的に配分されたのが、今の私の状態かもしれない。
下手に視覚を向上させたために、他の感覚、特に触覚や直感が衰えた場合、取り返しのつかないことが起きる。
鋭敏すぎる体は私を苦しめるけれども、同時に私は、その鋭敏な感覚に助けられている。
私にとって、「鋭敏であること」は、「諸刃の剣」なのです。
……どうしたものかなあ……
そんなことを考えながら、私のフォロワー(twitterの友人)で、初心者のための武道総合情報サイトの主催者、ichigeki.co.jpさんのサイトを見ていると、興味深いタイトルの本が紹介されていました。
『身体論者 藤本靖の身体のホームポジション(藤本靖著 BABジャパン)』。
「ホームポジション」って、いわゆる「体軸」や「丹田」のことかな?
この本について詳しく調べてみると、
『「身体の外側にある情報を、身体の内側で柔軟に受けとり、自然な動きとして反応できる身体の状態」 それが、ホームポジションです』
……どうやら、これまでの身体エクササイズとは、少し違う系統の本らしい。
ということで、さっそく、この本を手に入れました。
「身体の外側にある情報に対し、身体の内側が過敏に反応する」、アレルギー体質の私にとって、この「ホームポジション」、そして副題の『カラダの“正解”は、全部自分の“なか”もある』というのは、とても魅力的な響きです。
著者の藤本靖さんは、東京大学大学院で身体教育学を学んだロルファー。
アメリカのボディーワーク「ロルフィング」の施術者です。
ロルフィングは身体を頭、手、足のような認識でなく、一塊のつながったものとしてとらえて、自分で身体の状態を整えていく技術。
私は、わくわくしながら、この本を読みはじめました。
……次回に続く……
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全部自然体でできるようになりたいものです。