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2011年02月15日

表と裏(後編) 「開く」と「閉じる」

「身体のホームポジション」とは、「目、耳、鼻、口などの外部感覚器から受け取る情報と、筋肉や内臓などの内部感覚器が出す情報とをバランスさせた状態」ということらしい。



感覚器を意識的に使うことで、精神を安定させ、筋肉の不要な緊張を取り、運動能力を向上させる具体的な方法が書かれています。

感覚器の中で一番私の課題になっているのは「目の使い方」。

例えば、この本の「目」の項目は『まずは目を休める』からはじまります。

……よかった。
私は片方の肺は変形しているし、生まれつき背骨に欠陥があるので、長時間の正座や屈む動作、背中を反らす動作などに、ドクターストップがかかっています。
「鍛える」系統の話だったら、即お断りですが。

これならなんとかなるかもしれない。

興味深かったのは、前に夫が私に出した宿題、「指先を後ろに移動させながら、頭を動かさずに目だけで指先を追う」が出てきたこと。

『まず自分の視野を知ろう!』という項目。

コンタクトレンズをはずして、やってみました。

腕を真横に持っていって……
180度を超えて、目で指先が追えなくなる限界が200度ぐらい。

ふうん。左右差は、ほとんどなし。
意外に視界が広いのか。私は。

本には載っていませんが、面白いので、さらに指を後ろへ……
真後ろまで移動させてみると……

指先が視界から消える200度から320度。
それより後ろに指先が移動すると、今度は、こめかみから耳の上までの、野球ボールぐらいの大きさの範囲に私の意識が移って、指先の位置の捕捉をはじめます。

さらに真後ろに当たる40度の範囲を、後頭部の頭の一番出っ張った部分、その少し上のピンポン玉の範囲で、指先の位置を捕捉。

……うーむ。
「対象の位置と大きさと移動速度が正確に把握できれば、視覚(映像処理)は不要」と考えてるんでしょうか。私の体は。

私が物を捉えるのに使っている「こめかみ」および「後頭部」。
この本に、その正体が出てきます。
しかも、その部分に意識をおくことで感覚が研ぎ澄まされる。

「こめかみ」……脳の聴覚野。
「後頭部」……脳の視覚野。

……えっ? そんな高度なことやってるのか。
私の体は。

聴覚野に意識を置くと人の話を理解しやすくなる。

……なるほど。
私は目で見たものの動きを記憶できない代わりに、相手の話を正確に記憶してしまうのは、そのせいなのか。

視覚野から前方を見るようなイメージで物を見ると、眼球の筋肉の緊張が解け、眼球とつながっている首の筋肉への負担も減る。

……視覚野で後方を見ていたけれども、前方を見ることは、ちょっと思いつかなかったな。

さらに「水の入った洞窟(眼窩)に、ゼリーが入った水風船(眼球)が浮いている状態」をイメージすると、眼球の周りの筋肉の緊張が緩んで、眼球を自由に動かせる。

……よし。いいことを聞いた。
これでパソコン作業が楽になるかもしれない。

「目」をリラックスさせた後は、「目の動きと体の動きを連動させる」トレーニングになります。

例えば「振り向く」トレーニング。

一般的に「振り向く」とは、「首を動かして後ろを見る」動作ですが。
ここでは、「振り返ろうとする空間側に視線を移し、両目の動きに引っ張られるイメージで、頭を回転させる」こと。

……ふうむ。首を動かして頭だけ「振り向く」時より、まず目を後方に動かし、目の動きに導かれるように振り向くと、首だけじゃなくて、自分の体ごと一緒に後ろへ向くのか。

しかも、単に「首を動かして後ろを見る」よりも、スムーズな動きです。

ひょっとしたら、先日の合気道の稽古の時に先生に言われたこと。

……あれのヒントが、この動きかもしれない。

「島村さんは技をかけてる時、「開いてない」ことが多いんです」
「開いてない? どういうことでしょうか」

私の質問に、先生は真面目な顔で答えました。

「相手を自分の方へ引き込む間合いの技は苦手みたいですね。相手と力のぶつかり合う一瞬前に、ひょいとはずすことが時々あるし。他の武道なら、それでもいいかもしれないけど。合気道は、相手との練り合いでもあるんですから、それでは困るんですよ。もっと自分の中心を相手に向けて、相手に向き合って技をかけないと」

うーむ。これは困った。

「島村さんは「相手を見ない」ことが多い。技を極めれても、相手を受け入れてない「閉じた」印象があるんですよね」

……ああ、そうか。

なまじ眉間や後頭部や頭頂部や、こめかみや掌や指先で「見る」ことができるから。
相手の方に視線を向けなくても、自分の中心を相手に向けなくても「見える」ので、相手の動きに対応できる。

難しいなあ。

意外に合気道は「目で見ること」のウェイトが高い武道なのかもしれない。
……どうしよう。

「まあ、そのへんは、これから直していけばいいことですから……。それにしても、課題の多い人ですね。島村さんは」

先生は苦笑していましたが。

「眼球で対象を追い、視線に導かれて体全体を動かす訓練をする」

……うーん。これで、この課題はなんとかなるかもしれない。

「身体のホームポジション」を作るには、まず、身体の中で起こっていることを、すべてあるがままの状態で観察すること。
さらに自分の身体を助ける動きをすれば、身体は本来の生命力や自己治癒力を発揮し、自分で身体をよい状態に調整できる。

……なるほど。

私は、物心ついた時からアレルギーをはじめ「他人と違う反応をする体」、そして「他の人と同じことができないために頻発する人間関係の崩壊」に悩まされて、ひたすら自分の体を憎み続けてきました。

喘息の気管支拡張剤の副作用事故に遭った30歳の頃、ついに、自分の体をコントロールすることを放棄。
皮肉にも、その頃からアレルギー症状が軽くなり、ほんの少し体も丈夫になりました。

もっと、自分の体のことを勉強しなければならないようです。

『身体論者・藤本靖の身体のホームポジション(藤本靖著 BABジャパン)』。
この本は、フォロワー(twitterの友人)のシモムラアツオさんが編集された本。
武道家だけでなく、一般の人の動きを楽にするのにも役に立つ本なので、お勧めです。
ラベル:合気道 視力
posted by ゆか at 15:04| Comment(1) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
毎回武道記事を楽しみに読ませていただいています。
記事を読んで早速「身体のホームポジション」買ってきました。
私が所属する道場では、技の稽古と気の錬磨の両面から合気道を稽古しています。後者では感じる力「感覚力」が大事なようですが、どうも私は感覚力がゼロらしい。これではいけないと、あれこれ試行錯誤の日々です。ロルフィングのワークも受けました。ホームポジションを身につけることは、ひょっとしたら、身体のセンサーを敏感にして、感覚力を高めることに繋がるのではないかと期待しています。
Posted by sho at 2011年04月05日 01:27
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