感覚器を意識的に使うことで、精神を安定させ、筋肉の不要な緊張を取り、運動能力を向上させる具体的な方法が書かれています。
感覚器の中で一番私の課題になっているのは「目の使い方」。
例えば、この本の「目」の項目は『まずは目を休める』からはじまります。
……よかった。
私は片方の肺は変形しているし、生まれつき背骨に欠陥があるので、長時間の正座や屈む動作、背中を反らす動作などに、ドクターストップがかかっています。
「鍛える」系統の話だったら、即お断りですが。
これならなんとかなるかもしれない。
興味深かったのは、前に夫が私に出した宿題、「指先を後ろに移動させながら、頭を動かさずに目だけで指先を追う」が出てきたこと。
『まず自分の視野を知ろう!』という項目。
コンタクトレンズをはずして、やってみました。
腕を真横に持っていって……
180度を超えて、目で指先が追えなくなる限界が200度ぐらい。
ふうん。左右差は、ほとんどなし。
意外に視界が広いのか。私は。
本には載っていませんが、面白いので、さらに指を後ろへ……
真後ろまで移動させてみると……
指先が視界から消える200度から320度。
それより後ろに指先が移動すると、今度は、こめかみから耳の上までの、野球ボールぐらいの大きさの範囲に私の意識が移って、指先の位置の捕捉をはじめます。
さらに真後ろに当たる40度の範囲を、後頭部の頭の一番出っ張った部分、その少し上のピンポン玉の範囲で、指先の位置を捕捉。
……うーむ。
「対象の位置と大きさと移動速度が正確に把握できれば、視覚(映像処理)は不要」と考えてるんでしょうか。私の体は。
私が物を捉えるのに使っている「こめかみ」および「後頭部」。
この本に、その正体が出てきます。
しかも、その部分に意識をおくことで感覚が研ぎ澄まされる。
「こめかみ」……脳の聴覚野。
「後頭部」……脳の視覚野。
……えっ? そんな高度なことやってるのか。
私の体は。
聴覚野に意識を置くと人の話を理解しやすくなる。
……なるほど。
私は目で見たものの動きを記憶できない代わりに、相手の話を正確に記憶してしまうのは、そのせいなのか。
視覚野から前方を見るようなイメージで物を見ると、眼球の筋肉の緊張が解け、眼球とつながっている首の筋肉への負担も減る。
……視覚野で後方を見ていたけれども、前方を見ることは、ちょっと思いつかなかったな。
さらに「水の入った洞窟(眼窩)に、ゼリーが入った水風船(眼球)が浮いている状態」をイメージすると、眼球の周りの筋肉の緊張が緩んで、眼球を自由に動かせる。
……よし。いいことを聞いた。
これでパソコン作業が楽になるかもしれない。
「目」をリラックスさせた後は、「目の動きと体の動きを連動させる」トレーニングになります。
例えば「振り向く」トレーニング。
一般的に「振り向く」とは、「首を動かして後ろを見る」動作ですが。
ここでは、「振り返ろうとする空間側に視線を移し、両目の動きに引っ張られるイメージで、頭を回転させる」こと。
……ふうむ。首を動かして頭だけ「振り向く」時より、まず目を後方に動かし、目の動きに導かれるように振り向くと、首だけじゃなくて、自分の体ごと一緒に後ろへ向くのか。
しかも、単に「首を動かして後ろを見る」よりも、スムーズな動きです。
ひょっとしたら、先日の合気道の稽古の時に先生に言われたこと。
……あれのヒントが、この動きかもしれない。
「島村さんは技をかけてる時、「開いてない」ことが多いんです」
「開いてない? どういうことでしょうか」
私の質問に、先生は真面目な顔で答えました。
「相手を自分の方へ引き込む間合いの技は苦手みたいですね。相手と力のぶつかり合う一瞬前に、ひょいとはずすことが時々あるし。他の武道なら、それでもいいかもしれないけど。合気道は、相手との練り合いでもあるんですから、それでは困るんですよ。もっと自分の中心を相手に向けて、相手に向き合って技をかけないと」
うーむ。これは困った。
「島村さんは「相手を見ない」ことが多い。技を極めれても、相手を受け入れてない「閉じた」印象があるんですよね」
……ああ、そうか。
なまじ眉間や後頭部や頭頂部や、こめかみや掌や指先で「見る」ことができるから。
相手の方に視線を向けなくても、自分の中心を相手に向けなくても「見える」ので、相手の動きに対応できる。
難しいなあ。
意外に合気道は「目で見ること」のウェイトが高い武道なのかもしれない。
……どうしよう。
「まあ、そのへんは、これから直していけばいいことですから……。それにしても、課題の多い人ですね。島村さんは」
先生は苦笑していましたが。
「眼球で対象を追い、視線に導かれて体全体を動かす訓練をする」
……うーん。これで、この課題はなんとかなるかもしれない。
「身体のホームポジション」を作るには、まず、身体の中で起こっていることを、すべてあるがままの状態で観察すること。
さらに自分の身体を助ける動きをすれば、身体は本来の生命力や自己治癒力を発揮し、自分で身体をよい状態に調整できる。
……なるほど。
私は、物心ついた時からアレルギーをはじめ「他人と違う反応をする体」、そして「他の人と同じことができないために頻発する人間関係の崩壊」に悩まされて、ひたすら自分の体を憎み続けてきました。
喘息の気管支拡張剤の副作用事故に遭った30歳の頃、ついに、自分の体をコントロールすることを放棄。
皮肉にも、その頃からアレルギー症状が軽くなり、ほんの少し体も丈夫になりました。
もっと、自分の体のことを勉強しなければならないようです。
『身体論者・藤本靖の身体のホームポジション(藤本靖著 BABジャパン)』。
この本は、フォロワー(twitterの友人)のシモムラアツオさんが編集された本。
武道家だけでなく、一般の人の動きを楽にするのにも役に立つ本なので、お勧めです。
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毎回武道記事を楽しみに読ませていただいています。
記事を読んで早速「身体のホームポジション」買ってきました。
私が所属する道場では、技の稽古と気の錬磨の両面から合気道を稽古しています。後者では感じる力「感覚力」が大事なようですが、どうも私は感覚力がゼロらしい。これではいけないと、あれこれ試行錯誤の日々です。ロルフィングのワークも受けました。ホームポジションを身につけることは、ひょっとしたら、身体のセンサーを敏感にして、感覚力を高めることに繋がるのではないかと期待しています。