「私たちの体には、長年稽古してきた「型」がメモリーされていて、それが抜けきらず「入り身投げはこうじゃなきゃいけない」とか「一教はこう」だとか、そこにとらわれてしまいがちです。確かに「型」も大事ですが、「「型」の先にあるもの」も、合気道の世界にはあるのではないでしょうか。私もまだ研究中ですが。今日の稽古が、参加された皆さんの何かの参考になれば、と思っています」
代表師範は、そうおっしゃった後、先生のほか、数人の名前を呼びました。
先生をはじめ、男性有段者が5人出てきて、代表師範の前に先生を先頭に縦一列に並びます。
「動かないように、みんなでがんばってみてください」
立っている先生の腰の部分を後ろにいる人が、がっちりと抱え、そのまた後ろの人がその人の腰を抱え……
5人がムカデのように連なった状態になりました。
「普通こうなると、動かせないように思えるでしょうが……人が5人いる、と考えずに一つのエネルギーの塊と考える」
代表師範が先頭の先生を押す動作をすると、5人が一塊になって吹き飛びました。
「1人でも5人でも、10人でも関係がありません」
……うーむ。不思議だ。
昨年の講習会では、「手を取りに来なさい」と言われて、代表師範の腕をつかみにいったのに、なぜか私の手は代表師範に届かなかった……
あれも不思議だったけれども。
今度の稽古も不思議だ。
合気道には、まだまだ私にわからない世界がありますね。
正面打ち入り身投げ(自分の眉間を狙ってきた相手の手刀をさばき、相手の側面に入って投げる技)の稽古では……。
「力でおさえようとすれば、相手も力で反発します。結局、力と力のぶつかり合いになって力の強い方が勝ちます。……相手の手や足を意識せず、一つのエネルギー体としてとらえる。エネルギーは一箇所にとどまることはできません。必ずどこかへ動こうとする。だから、相手を包み込んで、相手の動きたい方向にエネルギーを逃がす。この時、ちょっと位置をずらすと、相手は崩れるわけです」
代表師範は、猛烈な勢いで突進してきた男性有段者を、ひょいとさばいて、そのまま投げました。
合気道の「技」というよりは、「風になびく柳」のような自然な動きでした。
「こんな感じでもかまわないわけです。合気道は「型」の武道ですから、受け(技をかけられる方)も取り(技をかける方)も、どうしても「こうきたら、こうしなければ」という思い込みがありますが。「型」を徹底的に学んだ後、今度は「型」にとらわれずに稽古してみる。……何か新しい発見があるかもしれませんよ」
……うーむ。すごく高レベルな話になってきたなあ。
「型にこだわらずに、力のぶつかり合いにならない稽古」
……やってみようとするけれども。
どうしても普段の稽古の癖が出て、型にこだわってしまいがちです。
……難しいなあ。
それにしても、新道着『科戸の風』……。
時々、稽古相手に「そのネームは何と読むのですか?」と聞かれて、そのたびに「しなとのかぜ、と読みます。大祓詞に出てくる風の神の名前からとりました」と答えなければならないので、結構面倒だな。
ふりがなをつけるとか『@sinatonokaze(Twitterのハンドルネーム)』も一緒につけるとか、もうちょっと工夫しておけばよかった。
片手取り呼吸投げ(片手を取りにきた相手の側面に入り「呼吸力」を使って投げる技)では、黄帯の小学生が稽古相手になりました。
相手は小学4年生ぐらいの男の子。
危なくないように力を加減して、ゆっくりふんわり投げてやると、男の子は自分から前に飛んで転がり、きれいな前受身をとりました。
……やるなあ。
普段から、しっかり稽古しているのでしょう。
しばらく男の子を投げた後、私が受けになりました。
ちょっと抵抗した後、「やられたぁ」と言いながら、大げさに受身をとって投げられてやると、男の子は大喜びで飛び跳ねてる。
やっぱり子供だ。
かわいいなあ。
先生のところの少年部の子供も、いずれ、こんなふうに成長するのかなあ……
そんなことを頭の片隅で考えながら、小学生と楽しく稽古しました。
しばらくして同じ技で相手が変わり、吹田の女性高段者。
「うちの少年部の子の相手をしてくださって、ありがとうございます」
「基礎がしっかりした子供さんですね。将来が楽しみでしょう」
「いえいえ。まだまだですよ」
そんな話をしながら、稽古をはじめました。
女性が自分より体格の大きな男性と稽古する時、技をかけようとあせって、どうしても力を込めて相手をおさえてしまいがちで。
私も「しまった!また力ずくになった!」と反省することが多く、「相手を力で制さない、柔らかい合気道」を模索しているところですが。
この女性高段者の技は、さすがに柔らかい。
ゴムまりのように相手の力を柔らかく受け止め、ぽんっ、と弾き返す。
……なるほど「柔らかい合気道」にも、いろいろなスタイルがあるんだなあ。
私は、どんな「柔らかい合気道」がしたいんだろう……。
さすがに年配の有段者が「ぜひ稽古しなさい」と勧めただけのことはある方。
よい勉強になりました。
その後、何人かの有段者と稽古しているうちに講習会の終了時刻に。
「いつもとは違う稽古だったとは思いますが、今日の稽古が、皆さんの参考になれば幸いです。ご縁があったら、また一緒に稽古しましょう」
そう言って代表師範は講習会を締めくくられました。
講習会の後、体育館横の公園で、飲み物だけの簡素な懇親会が開かれました。
よく晴れた青空の下、まぶしい新緑の木々をながめながら、思い思いに合気道について語り合う楽しいひとときが過ぎ……透析を受けている義母が病院から戻る時刻になりました。
一緒に稽古した皆さんにお別れのご挨拶をすると、「がんばって稽古続けてくださいね」「来年も一緒に稽古しましょう」と、口々に励ましてくださり、とてもうれしかったです。
代表師範はおっしゃいました。
「介護は長期間にわたることが多いですから。体に気をつけて。無理をせず、ご自分のペースで稽古を続けてください。また、一緒に稽古できるといいですね」
「ありがとうございます。これからも合気道を続けていきたいと思います。また来年、稽古に参加できるとうれしいのですが。……それでは失礼します」
今年も楽しかった特別講習会。
来年も参加できればいいんですが。
ラベル:合気道
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特に今回は私も稽古に参加しているような、その場にいるような感じで、読みました。
講習会の楽しさが伝わってきました。