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2011年06月14日

初心者指導(前編) 課題

「あのう。今日は体験稽古をしてみたいんですが」

私がふりむくと、柔道場の入口に眼鏡をかけた若い女性が立っていました。

先週、会員募集チラシを持って見学に来た女性です。

「どうぞ。まず、下の更衣室で動きやすい服装に着替えてから、ご参加ください」

うれしそうに先生は答えました。

彼女が着替えている間、先生と打ち合わせ。

先生の所属団体の本拠地は横浜で、私の所属道場は大阪。
道場によって初心者に合気道をさせるスタイルが違うので、体験稽古前に打ち合わせをしておかないと、とんでもないことになってしまいます。

「どんな形で体験稽古するんですか? 相手は受身を取れない初心者ですよ。下手に技をかけたら怪我してしまいます。まず、受身にしますか? 八方や四方斬りなんかの、足さばきからはじめますか?」

「僕のところでは、安全のために、最初に受身を習得させます。初心者ばかり集めて徹底して受身の稽古をさせますが。島村さんのところでは、どうやってたんですか?」

「本当は、初心者クラスからはじめてもらうのが妥当なんですが。時々普通の稽古時間に、受身のできない体験入会者が混ざってしまって、神経使ってましたね」
「初心者クラス?」

「前回り受身、後ろ回り受身、膝行(正座したまま前進する動き)、体の転換、片手取り四方投げ、立ち技正面打ち一教、立ち技正面打ち入り身投げ、座技呼吸法……合気道の基本の動きと技、これを毎回延々と繰り返す稽古時間があるんです」

「なるほど。基本を徹底するあたりは同じですね」

先生は大きくうなずきました。

「私が初心者の頃は、初心者クラスに有段者が誰もいなかったので、茶帯(上級者)になる頃から、指導している道場長代行のアシスタントをしてました。私の後に入った初心者が、茶帯や黒帯(有段者)になって、そのまま初心者クラスで稽古を続けているので、今は時々違う技もやりますが」

「いや、どんなに段が上がっても、基本の稽古は必要ですよ」 

先生は、にこにこしながら言いました。

「じゃあ、ここは一つ、初心者クラスで教えていた初段のお手並み拝見、ということで。30分程度で、彼女に後ろ受身、前回り受身と後ろ回り受身をマスターさせてください」
「えっ! たった30分で」

「僕も、他の道場では、どうやって初心者を教えるか、参考にしたいですから」

うーむ。難儀なことになった。

自分の所属道場と流儀が違う場所で、初心者を教えるなんて。
しかも所要時間30分。
初心者クラスでの受身や膝行と同じ時間で。

初心者によっては、一度の稽古では受身をマスターできずに、「私、合気道、向いてないみたいで」とやめてしまう人もいるんです。

基本的に、合気道の指導者は四段以上とされていて、初段の私は「先輩としてアドバイスする」程度がせいぜいなんですが。

それでも、武道を教えることは難しいと思います。

教わる側の素質……運動能力や反射神経や理解力などと、教える側の素質……技術、熱意、人の資質を見抜く力、相手に合わせて説明できる力、忍耐力など。
それらがかみ合わなかった時、悲劇が起こるケースを何度も見てきました。

「武道の技がうまいことと、技を教えるんがうまいんとは別問題や」

……空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段で、空手と剣道の指導員だった夫は、時々私にそう言います。

「お前は相手の動きの分析ができるし、それを相手に説明できるから、初心者育てるのに向いとる。段位が上がったからいうて、初心者見下す有段者が多いけどな。俺はお前には、そんな有段者になってほしくないんや。有段者になっても、初心者の時の気持ちを忘れるんやないで」

私は、不安でたまらなかった初心者の時の記憶が強烈に残っているので、いつも初心者に側に立ったアドバイスをしようと心がけています。
そのせいか、初心者クラスでは、私を慕う若者が多かったのですが……。

それにしても、どうやって彼女を教えようかな。
細身で小柄な彼女の動きには、日頃スポーツをする人に見受けられる敏捷さが感じとれなかったけど。

「僕のことは気にせず、いつも初心者を教えてる調子でいいですよ」

先生は私の不安を見透かすように言いました。

「もし、間違ったことを教えそうになったら、サポートをお願いします」
「大丈夫でしょう」

先生が笑いながら答えた時、ジャージに着替えた彼女が、柔道場に入ってきました。

……続く……
ラベル:合気道
posted by ゆか at 15:15| Comment(1) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とおりがかりの合気道稽古者です。
道場に何人かの初心者のかたが入ってきて、残るのは数名ですね。しかも、言葉は悪いのですが、残るのは大体不器用なかたが残ります(僕もそうです)。
合気道の不思議な技にほとんどのかたが魅了されますが、残るのはひとにぎり。それは実は不思議なことではなく、身体(からだ)と思考をフルに使わなくてはならないから。大変な作業です。
僕が初心者のかたに最初に教えるのは退屈な基本をたくさんと最後にひとつだけ「みんなが持っているけど普段使っていない力と考え」を駆使した技です。
ブログとても楽しそうです。時間があったらゆっくり拝見させていただきます。
突然お邪魔して申し訳ありませんでした。
Posted by 影山秀樹 at 2011年06月16日 16:18
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