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2011年07月19日

内観(後編) 折り合い

「お前と初めて会った時、殺気で結界作ってたから、「うわっ!えらいもん見た。とんでもない女や」と思たんや」


夫は結婚した後、初対面の私の印象をそう語りました。

「そやけど、殺気で結界作ってるくせに、仕掛けてくる気配が全然ない。ひょっとして、これまで攻撃されてばっかりで、自分から仕掛けたことないんちゃうかと思たんや。それで、思い切ってお前の間合いに飛び込んでみた」

「そうなんや。さりげなく、すっと入ってきたように思ったけど」
「いや、こっちが妙な気配を見せた瞬間、即座に迎撃に動くんはわかっとったから、すごい神経使うたんやで」
「すみません」

ふと、そんな会話を思い出しました。
よく考えると、相手の間合いにノーガードで入るのも危険ですが、警戒心や敵意を抱くのもいけないわけで……

難儀やなあ。

ということで、夫に、合気道の基本の動き「片手取り入り身」でスランプになっていることを相談してみました。

夫はしばらく考えた後、言いました。

「どうやら、相変わらず人が怖いようやな」
「たぶん、そうだと思う。前よりは少しマシになったんだけどね」

「突きや手刀と違って、片手取りは、相手に手を取られてる分、自分の間合いを作りにくい。そこを自分のペースで技に持っていくんが、稽古の勘所なんやけどな……ちょっと、そこへ立ってみ」

私と夫はリビングで向かい合って立ちました。
夫は大東流合気柔術二段。
大東流は合気道の源流になった古武道で、同じ型がたくさんあります。

「まず、片手取りで、俺の左手つかんでみ」

夫に言われた通り、私は右手で夫の手首をつかんだ次の瞬間……体勢を崩されていました。
大きな岩が覆いかぶさってきたような強い力で。

「……今の何?」
「もう一回、ゆっくりやったるわ。まず、相手に手を取られた瞬間に指を広げる。内側から掌を外に向けるようにしながら、相手の前に出る」

ゆっくり動いているのに、やっぱり体勢を崩されてしまいます。

「「相手を自分の中に収める」入り身よりも、お前は「前に出る」入り身をできるようにするのが先やろ。昔から、対人関係で、押しが弱いというか、一歩引く癖があるからなあ。相手が自分に敵意を持っていようが、好意を持っていようが、自信を持って前に出る。相手が何かしようと思とったって、お前の自己防御本能が勝手になんとかしよるやろ」

「それが困るんだけどなあ。自己防御本能が動いたら、私の方は記憶がないから、何が起こるかわからないもん」

「そやけど、それで相手が大怪我したり、死んだりしたことあるか?」
「ないね。相手が喧嘩する気がなくなったととこで、勝手に止まる」

「そんなら、もうちょっと、自己防御本能信頼してやったらどうやねん。お前は何も考えんと、まず、相手の中心からから30度ずれたところへ、一歩前へ出る」

「30度?」

「たぶん、お前が入り身に失敗するのは、45度で動いてるからやろな。力が180度や90度の角度でぶつかり合えば、力の強い方が勝つ。45度は相手を側面から攻撃できて、いざとなれば、相手をよけられる打撃系の間合いや。大東流や合気道みたいな柔術系の武道は、相手の死角に入って密着せんと技にならんから、30度やねん」

「うーん。30度がポイントか。それにしても、30度とか45度の話は初めて聞いたね」
「そりゃ、俺が自分で体得したことやからや。いろいろ自分で考えて体得するのと、体得したことを人に伝える能力は、また別やけどな」

夫はにやりと笑いました。

「人の心は動きに出るもんやけど。動きを変えることで心は変えられる。とりあえず、「30度前方に一歩出る」。今の手の動きを加えたら、相手は崩れるねんから、それから転換したっていいやんか。まあ、とりあえず、それをクリアしてみ」

次の週、合気道の稽古が始まる前に、私は「いざとなったら、そちらに任せる」とつぶやきました。
自己防御本能(体の意思)は、「島村由花」を構成する私とは別のパーツですが、それが信じられない今の状態は、やっぱりよくないと思うので。

片手取り入り身、転換」の稽古。
夫直伝の「前に出る入り身」を、先生相手にやってみると……

がっしりと手をつかまれていたのに、見事に先生の体勢を崩すことができました。

「面白い入り身ですね。また、何かご主人から習ってきたんですか」

先生は笑いました。

「すみません。大東流の入り身です」
「そうでしょうね。「手」が違ってたから。でも、前より、僕にしっかり向き合って、入り身してきてましたよ」

実は合気道と大東流は「手」が違います。
合気道の「手」は手の指を全部伸ばして広げるのに対して、大東流の「手」は親指と小指がやや内側に入ります。

「では、今度は合気道方式で、やってみましょう」

再び先生が、左手で私の右手首をつかみます。
私は肩の力を抜き「30度」と心の中でつぶやきながら、先生の左側面に一歩入り、そのまま体を転換すると、先生の体勢を崩すことができました。

「うむ。だいぶよくなりましたね。こちらの方が柔らかい。さっきの手刀を喉元に突きつけるような入り身、武術的には、あれもありだとは思うんですが。これは合気道の稽古ですからね。まあ、ちょっとコツはつかめたみたいですが。まだまだ先は長いですよ」

先生はにこにこしながら言いました。

『上手くなろうと思ったら、何が問題なのかを見つけ、その問題に挑戦することであろう。学校の問題とは違って、問題は自分でつくり、自分自身で解決しなければならない。稽古の面白さの一つは、自分自身で問題を自分に課し、自分自身でその問題を解決することであり、その問題を解決したときの喜びであろう。その喜びがあるので稽古が続くのかもしれない』

『佐々木合気道研究所』には、そう書かれています。

最近の稽古では、壁に突き当たってばかりですが。
合気道を通して、少しずつ自分が成長しているような気もしています。
posted by ゆか at 14:57| Comment(2) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大東流と合気道の違いに興味津々です。

自分で課題を見つけ、解決する。
壁にあたっている時は本人にとっては大変ですよね。
出来たとおもっていても、暫くすると、また同じ技で悩んだりします。
Posted by コハント at 2011年07月19日 20:48
後編、どうなるのかと見守っていましたが、ご主人の入身で突破口になったんですね。
その手の使い方、うちの合気道というか師範のおっしゃる使い方と同様で驚きました。

私は他の流派の合気道もやっていましたので、たぶん島村さんの先生の入身も理解出来てると思うのですが、ご主人の方法の方が、体格の勝る人を相手にした時には、有効だという気がします。
Posted by 不透明なチカラ at 2011年07月20日 18:51
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