ひょっとして、私は間違った選択をしているのかもしれない……
「こんなに時間がかかるのに、この程度の文章しか書けない」
「なぜメールやコメントを、あまりもらえないのだろう。私は交流するに値せぬ無価値な人間なのか?」
「htmlの勉強なんか嫌だなあ。そんなヒマあったら、もっと文章の研究したいんだよね」
「読者のニーズがわからん! 希望があるなら言ってくれりゃいいのに」
「アフィリエイトで儲けるのは自由だが、それを私に強要してくれるな」
「99年の失敗をまた繰り返すのか」
「来年のチャンスを逃すぐらいなら、いっそ『ventus』を切り捨てるか」
……この2ヶ月、『ventus〜風のごとく〜』の今後について悩んでいました。
眠っている時以外は、常に頭の中で様々な考えが渦巻き、ぐしゃぐしゃでしたが、文学賞受賞者の面子をかけて、なんとかコラムの水準は落とさずにやってきました。しかし限界目前。
たまりかねた私は、一つの呪文を唱えました。
『空(くう)の空、空の空なるかな。すべて空なり』……
『伝道の書』の一節です。
すべてにゆきづまった時、冷静になるために使う呪文。
深呼吸して、少し頭を冷やした後、私は企画に使うA4方眼レポート用紙を出して、ボールペンで『ventusに期待したこととその評価』と殴り書きしました。
『ネットで自由に書く……×。ネットで人々と交流する……△』
……「いけませんねえ。こんな採算割れ事業は、即撤退すべきです」と経営コンサルタントに叱られそうな状態。
文章を書く場としてのWebの世界は、活字の世界よりも不自由(Web上の文章の弱点について詳細は『ウケるブログ』にて)で、文章技術的にできることが限られていて、実力の70%程度の文章力しか発揮できないことが、一番の不満でした。
交流の方は、舘神龍彦さんをはじめ、Seesaa大好きケンジさん、グッドデザイン賞事務局、合気道ねっと事務局、レファレンスクラブ事務局、キタハラヒロユキさん、ni―gonさん、藤井堅三さん、venture70さん……
その他、たぶん私がサイトを開かなかったら、関わることがなかったはずの多くの方々と出会いました。
でも、せっかく知り合った皆様に不快感を与えないよう、どの程度の距離をとって交流すればいいのかわからず困っています。
「99年の失敗」を繰り返したくないし。
1999年、私はWeb上で人との交流に失敗し、インターネットから撤退しています。
この当時、まだブログは存在せず、htmlの知識を持った少数の人々がホームページを作っていただけで、Web上での交流方法は掲示板やチャットなどが主流でした。
この時の私の目的は「自分と同じ、ほとんどのアレルギー症状を持つ患者、そして、喘息薬の副作用事故に遭った仲間を探す」「自分と同じ作家志望者と交流する」こと。
まず、作家志望者が集まる大きな掲示板に参加。そこは……夢を語り合う作家志望者に、「自称プロ」たちが「お前らはダメだ」と冷や水を浴びせる……そんなところでした。
とりあえず、作家志望者たちと交流していたら、突然、「自称プロ」の男性が、私を名指しして『どうせお前の文章はくだらないに違いない』と書き込んだのです。
この時、すでに小説『玄象』で賞を獲っていた私は、PCの画面にむかって「ほほう。久しぶりに私に喧嘩売ったやつがいたか。この喧嘩、確かに買った」と呟き、相手がどんな態度に出ても、相手の「負け」になる台詞を発明し、「自称プロ」を黙らせました。
作家志望者は、この台詞を使えば「自称プロ」を屈服させられることに気づき、「自称プロ」も、この台詞を恐れて作家志望者に歩み寄り、争いはなくなりました。
しかし、作家志望者にとっても「自称プロ」にとっても、この台詞の発明者の私は脅威だったらしく、誰も近寄ってこなくなり、掲示板での交流は失敗。
一方、同じ仲間……「ほとんどのアレルギー症状を持つ病歴の長い患者」も「喘息薬の副作用事故に遭った患者」にも出会えませんでした。
自分でホームページを作ろうにも、PCは不調で壊れまくり……
ついにやけを起こした私は「受賞出版して、日本アレルギー学会に喧嘩売って、危ない薬をどんどん使わせる、あのでたらめな喘息予防治療ガイドラインを改訂させてやる!」と叫び、インターネットをやめて、執筆に着手しました。
「ホームページ作るのと、賞獲るのと、どっちが難しいかわかってんの? できるわけないやんか」と笑う人もいましたが。
結局、日本アレルギー学会に喧嘩を売るための作品、『雨…アレルギーが治らない時』は新風舎出版賞最優秀賞を受賞し、『アレルギーと生きる』として出版。
多くの医療関係者に読まれ、2001年改訂の喘息予防治療ガイドラインでは、薬の適正な使い方と、副作用事故に遭った患者の救済措置が盛り込まれました。
私はその実績を評価されて、地元自治体の審議会の仕事をさせていただく、うれしいおまけまでついてきました。
「99年の失敗」は結果的に「失敗」とは断言しかねる状態ですが……今度知り合った皆様とはうまく交流したいなあ。
どうしたら傷つけずにすむのかなあ……
ところで、ここ数日、古い読者の皆様から暑中見舞いの返信をいただいているのですが、『「風のごとく」が本になったら読みたいです』とか『我が家にはパソコンがないので、娘に毎週印刷してもらって読んでいます』などと書かれていて……心が痛みます。
PCが使えない年配者は多いのです。
老齢で目が疲れやすい、関節痛でキーボードを叩くのがつらいなどの身体的な問題もありますから、PCを使いこなせる人が「PCを使えない人間は怠慢」と一方的に断罪するのはひどいと思います。
「『ventus』の書籍化」……来訪者や支援者の皆様から、この要望は今までなかったので気がつきませんでした。
もちろん文学賞受賞者の面子にかけて、『ventus』の各コラムは、書籍化しても読むに耐えるレベルで作ってはいるのですが。
実は、文藝春秋の04年版ベストエッセイの文庫版が、来年出る予定。
これを機に、もう一勝負しかけて、さらに物書きとしての地歩を固める……つもりでした。
勝負するために、『ventus』とは別の作品を作るはずだったのですが、そのための時間やエネルギーを、全部『ventus』にとられてしまって、次の勝負時まであと1年もないのに、何もできていない……これも、あせりの要因でした。
しかし、今の状態では、この『ventus』で、2007年の勝負をするしかありません。
なにしろ、今までの賞獲りと違って、Web上の文学賞は、少しルールが違うようですし、今の段階では、決定的に情報が足りません。
もし、来訪者並びに支援者の皆様の中で、「『ventus』が本になって、インターネットができない人たちにも読まれるといいな」と思われる方がおられましたら、ブログの書籍化に関する情報をいただきたいのです。
どうかよろしくお願いいたします。
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2006年08月01日
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