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2012年02月14日

中心(後編) 体軸の不思議

武道や武術を極めると細くなるもの……「正中線」の謎を解かなければ。


しょうがない。
ここは安易だけど、武道13段の夫に頼ろう。
夫は空手4段剣道3段少林寺拳法3段大東流合気柔術2段柔道初段。
おそらく「正中線」についても何か知ってるはずです。

私はリビングでテレビを見ている夫に声をかけました。

「ちょっと訊きたいことあるねんけど」
「また、なんかややこしいこと訊きにきよったな。なんやねん」
「正中線についてやねんけど」
「正中線? 体軸がどうした?」
「体軸?」

うわっ。また別の言葉が出てきた。

「ネット上で、ある古武術家が別の流派の古武術家に出会って、その人のことを『異様に正中線が細い』ので只者じゃない、というようなこと書いてるんだけど。その「正中線が細い」がわからん。調べてみたけど。人間の頭のてっぺんから股間まで、縦に一本の線が通ってて、そこに急所が集中してるところまではわかったんや。でも、私の見た図では一本の線やった。それが太いとか細いとか、その意味がわからん」
「もしかして、こんなやつか?」

夫が見せたiPadには、私が見たのと同じもの……『西郷派大東流合気柔術』の『正中線・正安定』の図が。

「女の人が妊娠した時、下腹に出てくる線を「正中線」とも言うけど。お前の言うてるんは、これのことやろ。これは正中線と経絡の図やから、正中線を単純化して、正中線の前面にあたる経絡を書いてあるわけやけど。「正中線」は体の軸のことや」

夫は立ち上がって、私の方を向きました。

「これが人間の正面」

今度は体を真横に向けました。

「これが、人間の横から見た状態や。こんなふうに、人間は立体でできている。そして、その真ん中を縦に通ってる体の軸が、正中線や」
「なるほど。背骨とイコールじゃないわけやね」
「基本的に人間の体の軸、重心は、頭から股間にかけて垂直に通ってる。そやけど、普通の人は、重心が右足か左足に偏ったり、両足に重心がかかったりしとる」
「ひょっとして、その状態が「正中線が太い」状態?」 

再び夫は私の方に向きなおり、鋭い上段蹴りを見せました。

「もし、体の重心が右足や左足に偏る、もしくは両足と胴体にかかったら、こんなふうに早くは動けん」

両足と胴体に重心が分散していたら、まず重心を一つに集め、倒れないようにバランスをとり、それから蹴らなければいけない。
一瞬で蹴りを繰り出すことはできません。

「体の軸は常に1箇所。これはどの武道にもいえることや。歩く時も気つけなあかんで」
「そういえば、「足の運びが只者じゃない」というようなことも書いてはった。その人」
「体軸は足の運びで変えられるからな。……ちょうどええわ。今、テレビで柔道やっとる。たぶん、その話しよるで」

テレビに映っていた番組は、NHKの『テレビスポーツ教室 柔道〜立ち技〜』。
東海大学の黒帯の男子学生二人が技を実演し、それを監督の黒帯の男性が解説しています。

「……連絡技、つまり二つの技を続けざまに出すものを言います。ここでは立ち技の大内刈(おおうちがり)から小内刈(こうちがり)ですが、これは体の軸がぶれないことが大切です」

まさに私たちの話題そのもの。
ちなみに、大内刈は相手の懐に入って内側から足を刈り、後ろへ倒す技。
小内刈は相手の踵のあたりをすくうように刈って倒す技です。

大学生二人が向き合ってお互いの道着の襟や袖をつかみます。
左側の学生が一歩踏み出して、相手の右足へ内側から足払いをかけますが、相手はのけぞっただけ。
ところが、すかさず学生は相手の逆の足を払い、投げ飛ばしました。

「このような連絡技の場合、姿勢よく技をかけることが大切です。そうしないと、体の軸がぶれて、前屈みになり、自分の体勢が崩れてしまいます」

画像を見てみると、技をかけている学生の背筋はまっすぐなまま。
……うーむ。確かに軸がずれていない。なるほど。

では、合気道での正中線、つまり体軸はどうでしょうか。

『佐々木合気道研究所』に体軸の話が出てきます。

『両脚に体重が同時に掛れば、体重は二本の足に分かれる。それに両足の真ん中にも体重が落ちるので軸は三本になってしまい、力は3つに分散してしまうことになる。これでは、大きい力は出せないことになる。それに、軸を一軸でつかわなければ、すばやい入り身や転換はできないし、体重を相手との接点である手先や胸や肩などに集中させて遣うこともできず、技が効きにくいことになる』

……なるほど、「正中線が太い」とは、この状態のことですね。

正中線を細く、つまり体の軸がぶれないようにするには、いくつかステップがあります。

まず歩き方の矯正。
右足と左手、左足と右手を交互に出す「西洋歩き」を、日本人古来の歩き方、「ナンバ」に矯正。
右足と右手、左足と左手が出る動きにすると、体をひねらなくなって、無駄のない動きになります。

それから体軸を一つにする歩き方『撞木(しゅもく)』。
進めた足と残っている足のつま先の角度が約90度の十字になり、前足の踵の延長線が後ろ足の親指と踵を結んだ線上の真ん中に位置するように歩く。

……これはすごく難しいです。
私もまだできませんが。
この運足で動くと体の軸を「細く」、つまり、一軸にすることができるらしい。

……うーむ。「正中線を細く」するのは、なまじっかな努力じゃ無理だ。

『ほんの一言二言会話しただけだったが、おっかない人だった。いや見た目は朴訥な感じだが、異様に正中線が細い。下っ端ですとか言ってたが、歩き方がどう見ても違うので嘘つけ…と内心ツッコんでしまった。稽古風景覗いてみたい…。』

あらためて、武道フォロワーの古武術家のつぶやきを読み返してみると、彼が出会った古武術家の「怖さ」がよくわかります。

私も一緒に、その方の稽古風景をのぞいてみたいですね。
ラベル:合気道 柔道
posted by ゆか at 16:39| Comment(1) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
さすが武道の達人のご主人ですね。正中線の的確なご説明、お見事だと感心します。
僕は、正中線というものは体のどのパーツにも存在していると思います。極端にいうと細胞レベルまです。そこしSFですかね。
そのあちこちにある正中線を整えたり、崩したりすることによって出るプラスやマイナスのパワーを利用していろいろできるのではないか、ということが今の僕の考えです。
それはメンタル部分にも存在すると思います。
でも、まずはご主人のように正中線を正しく認識することが大切ですよね。
うらやましいご夫婦です。
Posted by 小山合気会管理人 at 2012年02月15日 22:52
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