「どこから落ちれば」言うてるとこみると、さては、お前、真上に飛び上がっとるな」
飛び受身は、相手に投げ飛ばされた時、自分から飛んで受身をとって身を守るもの。
宙返りのような体勢になることが多い。
TVの時代劇、斬られ役の浪人の動きを見ていただくとわかりやすいかと思います。
「大方、肩打ってアザ作ったり、潰れて、ぐえっとなったりしとるんやろ」
図星。
私は合気道のスポーツ教室に入って、まだ間もない頃のこと。
始まる時間の15分前に教室に来て、前回り受身と後ろ回り受身の自主練習をしていましたが……
「なんで、まっすぐに行かないんですかねえ。なんで、途中で横に曲がるんですかねえ」
いつも、教えてくださる有段者の首を傾げさせてしまい、悩んでいました。
低い位置から前に転がる前回り受身でさえ、肩にアザを作ってばかりなのに、これを空中でやるとなると、無理。
……ああ、有段者への道は遠い。
受身には、腕立て伏せのような体勢の「前受身」。
前転に似た「前回り受身」。
後ろにお尻をついて畳を叩く「後ろ受身」。
後転に似た「後ろ回り受身」。
横向けに回って畳を叩く「横受身」があります。
飛び受身は「前回り受身」か「横受身」が使われることが多い。
(『合氣道ねっと』では、イラストで受身の仕方を詳しく説明されているので、ご参考に)
「前回り受身でさえ、アザだらけで、ぐえっとなったりするもん。飛ぶなんて、無理」
私が不安そうに言うと、夫は笑いました。
「俺が見たるわ。うちのベッドは対角2485ミリあるから、ちょっと飛んでみ」
自宅のベッド使って練習することになりました。
ベッドにはスプリングも入っているので安全ですし、対角線の長さが2.5メートルもあれば、スペースとして十分。
私はベッドの左隅に体を右向けにして立ちました。
体を「くの字」に曲げて左手を前に差し伸べて、ベッドに飛び込みました。
左の手の先、左肘、左肩、背中、右の腰の順に着地して、受身が終わった時は、右膝をついた状態で、ベッドの右端にいて、ベッドの左端の方を向いている……はずなのに。
なぜか私は、地響きを立てて床に転がり落ちてしまいました。
「ははは。なんでベッドから落ちるねん」
床でしりもちをついている私に、夫は大爆笑。
「今の見て、大体わかったわ。地面についてる肩が上がるのが、0.3秒早い。たぶん、バランス崩して横に曲がるんやろな」
「……どうしよう……」
「たぶん、お前の自己防御本能が、そばに人が立っとるのを警戒して、早う立ち上がろうとあわてるんやろな」
「そうなんか……でも、有段者見てて「こんなゆっくり受身とってて大丈夫か」とも思う」
「まあ、合気道の組み手の相手は「仲間」やから、受身してる最中に、蹴り入れるようなやつはおらんわ……自己防御本能を、もうちょっと抑えんとあかんわなあ」
実は、私の意志と、私の体の自己防御本能は別々になっていて、時々「えっ、そんなことやるのか?」と、自分でも驚くような動きをすることがあります。
「でも、自己防御本能を抑えたら、実戦の時に困るよ」
「普段は、本能全開にしとったら、ええやんか。そやけど、合気道の道着着た時だけ、自己防御本能をセーブした「合気道モード」を早く作れ。半年かかるかもしれんけど」
その頃の私は、うっかり相手の突きを封じてしまったり、うっかり相手の関節技をすり抜けてしまったりして稽古にならず、有段者に迷惑をかけてばかり。……
自己防御本能をセーブした「合気道モード」を作るのに、結局半年かかりましたが……
夫は真剣な顔で言いました。
「そやけど、たぶん、実戦でお前を投げるのは難しいやろな」
「そんなことないよ。前に、玄関先で投げたやんか」
(詳細は「合気道へ(前編) 武道13段の男」にて)
「あれは、お前が後ろ手でドアを開けようとして、一瞬隙ができたからや。もし、まともに立ち会ったら、かなり投げにくい相手や。お前は」
「ほんまかなあ」
半信半疑な私の右腕を、夫はいきなりつかみました。
……次回に続く……
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