薄々は感じていたものの、それがはっきりと突きつけられたのは、2011年3月11日の東日本大震災と福島原発事故だ。
すでに世界2位の経済大国の座は失われ、人口は緩やかに減りはじめている。
この国の「もろさ」を思い知らされ、立ちつくしている私たち。
これから先、どこへ向かえばいいのか……。
この本の著者は直木賞作家の五木寛之さん。
今の日本の状況を、「第2の敗戦」にたとえ、そこから再生する道筋として、「下山」……山を下りる思想を提言している。
太平洋戦争で焦土と化した日本は、戦後六十数年かけて「世界の頂点」を目指してきた。
頂点を極めれば、後は下りるしかない。
そして、山を下りた後、新たな「登山」をする。
「下山」とは、そのプロセスにすぎないと五木さんは言う。
「下山の先進国」の英国やスペインやポルトガルを見習い、「成熟した国」になれと。
法然や親鸞、平安末期の今様などの話を織り込みながら、「煩悩を抱えたまま」、「実りを楽しみつつ」「優雅に」山を下りていくようにと。
……だが、なぜ、私は五木さんの言葉に違和感を抱くのだろうか。
本と私が硬質のすりガラスで隔てられているようだ。
確かに、これから日本は縮んでいく。
少ない人口、狭い国土に合わせた「身の丈に合った国の在り様」が必要なのはわかるが。
どこへ向かって「下山」するのか。
新たな山はどこにあるのか。
それはまったく示されていない。
それに、英国やスペインなどの「下山の先進国」は、決して「優雅に」今の状態になったわけではない。
本の後半では、「思い出は積極的に語る方がいい」と、戦後の思い出話が語られているが、日本が頂点から下り坂にさしかかった頃に生まれた若い世代にとっては、今ひとつ実感のない話だと思う。
五木さんは70代半ば。
黄昏と豊かな実りを楽しみつつ、山麓までは下山しない世代だ。
この本は、不惑を過ぎたばかりの若輩者が読んでいけないものだったのかもしれない。
『下山の思想』 五木寛之 著 幻冬舎新書
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