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2012年03月10日

分岐点(前編) 継続

以前、武道系コラム『逡巡』で、「私は女性有段者で還暦を過ぎた6段(師範位)の方にお目にかかったことがない」とを書いたことがあります。



その後「還暦を過ぎた女性師範はおられます」という反論をいただきましたが。
しかし、その域まで合気道を続けられる女性は、かなり幸運で、しかも希だと思います。

所属道場では、同門の女性が仕事や結婚、出産で次々と合気道をやめていくのを見ましたし、私も、いずれ介護が本格化して、在宅介護になれば、それが終わるのは何年先、いや何十年先になるのかわからない。

合気道をやめなければならないんだなあ……と思っていましたが。

「俺がお袋みとくから、休みの日ぐらい稽古行ってこいや」という武道13段の夫の理解と、「僕のところは、休日の昼間に稽古してますから、こちらで預かりましょう」という、出稽古先の先生のご好意で、奇跡的に合気道を続けられることになりました。

「ほらほら、また自分から受けを取ろうとして、不用意に相手に背中を向ける。そんなことじゃ、弐段になれないですよ」
「別に弐段になれなくても、いいですけど」

先生は表情がくもりました。
合気道の稽古は続けられているけれども、昇段に関しては、所属道場での稽古日数が基準なので、出稽古先で何年稽古していても、昇段審査の受験資格はないのです。

「しかし、無目的に稽古を続けるというのも……」
「技はうまくなりたいけど。昇段は興味がないです。元々、喘息に効く丹田呼吸法習得が目的で合気道をはじめたので、弐段になると、もれなく丹田呼吸法がついてくるなら、受験してもいいですけど」

溜息をついた後、先生は気を取り直したように言いました。

「そうだ。今度の『合気道探求』で、本部道場の師範が「合気道を続けていくコツ」のお話をされていますよ。何かヒントになるかもしれません」

先生は武道雑誌『合気道探求』43号を貸してくれました。

目次を見ると、内田樹先生の『合気道家私見』が最終回。
私がエッセイ『合気道を続けること』を寄稿した号からスタートした連載でしたが。

そうか。あれから3年も経つんだ。
寄稿した時点で「いずれ合気道ができなくなる」と覚悟していましたが。
こんな形で合気道を続けられているとは想像もしていませんでしたね。

「合気道を続けるコツ」について書かれているのは、『稽古覚え書』。
合気会本部道場指導部師範の小林幸光七段と菅原繁七段が、編集部のインタビューに答えています。

『初段、二段を取って稽古から離れていく人の壁とは、どのようなものでしょうか。人それぞれ離れてしまう理由はいろいろあるのでしょうが、ひとつには黒帯を取ってひと通りの技ができるようになり、そこで目標が途絶えて稽古から遠ざかるようになってしまった、という場合もあるかと思います。しかし、黒帯を取るというのはようやく入口に立ったところ、ここからが合気道の深さを知っていく本番です』

……うーん。小林師範は厳しいことをおっしゃる。
確かに、お叱りはごもっともなんですが……。
雲に隠れて見えない山頂から、お叱りを受けているようで。

実は、山頂にたどり着くには長い年月と努力と「運」が必要です。
意外と、この「運」の重要さが見過ごされているような気もしますが。

『財団法人合気会』の本部道場審査要綱によると、弐段以降は、技の実技審査のほかに、合気道に関する感想文の提出が必要になります。

弐段の受験資格が『初段允可後1年以上稽古した者(稽古日数200日以上)』。
参段が『弐段允可後2年以上稽古した者(稽古日数300日以上)』。
指導員資格が得られる四段が、『参段允可後3年以上稽古した者(稽古日数400日以上)』。

五段や六段になると、さらに長い年数の稽古と道場長の推薦が必要になります。

「そうか。初段から6年稽古したら、とりあえず指導員になれるんやな」というのは早合点です。
「稽古日数」、これが曲者で、正月休みや盆休み、祝日など稽古がない日も多く、昇段審査そのものが半年に一度しかない道場も多い。

弐段以降は、そう簡単に昇段できるものではありません。

最初の五級の受験資格が『入会後30日以上稽古した者』。
四級が『五級取得後50日以上稽古した者』。
参級が『四級取得後50日以上稽古した者』。
弐級が『参級取得後50日以上稽古した者』。
壱級が『弐級取得後60日以上稽古した者』。
初段が『壱級取得後70日以上稽古した者』。

……これに比べると、高段者への道のりは、なんと険しいことか。

もちろん技を磨く努力も必要ですが。
高段者になるまでの長い年月の間に、稽古ができない状態になる生活の劇的な変化は避けなければいけない。
自分はもちろん、家族も大病してはいけないし、結婚生活や妊娠、出産、育児に煩わされてはならないし、勤め先が倒産したり、転勤辞令が出てもいけない。

長年稽古を続けていくためには、「運」の要素は大きいと思います。

私の場合「喘息に効く丹田呼吸法の習得」という明確な目的があって、合気道をはじめたので、昇段をあまり意識せず稽古できるけど。

ほかの人はどうなんでしょう。
どうやって、稽古を続ける意思を保ってるんでしょうか。

「うまくなりたい。昇段したい」という動機だけで、数十年、合気道の稽古を続けるのは難しいだろうなあ。

……次回に続く……

ラベル:合気道 有段者
posted by ゆか at 10:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 武道系コラム | 更新情報をチェックする
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