当時は、今のように手帳売り場の目立つところにシステム手帳が置かれ、書店に「手帳術」の本が山積みになっていたわけではありませんでした。
色とりどりの綴じ手帳があふれかえる手帳売り場の片隅、ガラスケースの中で、ひっそりとたたずむ黒や茶色の地味なシステム手帳。
システム手帳ブームが去った後で、一部のビジネスマンだけが、根強いユーザーとしてシステム手帳を使っていたのです。
その頃の私は迷っていました。
喘息薬の副作用事故の後遺症から、ようやく立ち直ったところ。
長く同人誌で執筆していて、時々、私の書いたものが雑誌の同人誌紹介欄で取り上げられていました。
「本当の自分の実力」が知りたくて、短編小説『玄象』を公募に出してみたところ、この作品、小さいながらも賞を獲ってしまったのです。
しかし、文学賞一つとったところでプロ作家になれるわけでもないし、なりたかった図書館司書にもなれなかった。
今までやっていた経理に戻るか……
たまたま道を歩いていて気になった『占い・四柱推命』の看板。
私は店に入って、占い師に名前と生年月日だけ告げ、「仕事を探していますが、何が向いていますか?」と尋ねました。
占い師は、四柱推命表を書く途中で、突然、手を止めて大声で言いました。
「あんた、子供の頃から作文ほめられてないか? 恐ろしい人やな」
確かに、私は、子供の頃から「将来文学賞を獲って作家になる」と言われていましたが……
私にとって、周囲の期待は、いつも肩の上に乗った鉛の重石のようで辛かった。
でも、どんなに書くことが嫌になっても、気がつけば、いつも何か書いている。
「あんた、物書きが天命だよ。天職なんて甘いもんじゃない。あんたがどんなに嫌がろうと、天はあんたに書かせるし、あんたが賞を獲ろうとすれば、無理矢理賞獲らせるよ」
……嫌だなあ。これじゃ、私には選択の自由がないみたいじゃないか……
占い師によると、読者は、私の文章を読んで励まされたり、問題を解決するヒントを得たりする。
読む人には喜ばれるけれど、今まで存在しなかった新しいものを作るため、「大御所の作家に引き上げてもらう」のではなく「大勢の読者から支持されて下から盛り上がる」形になる……
つまり、夢が実現するのに時間がかかるわけです。
でも、賞獲りなら、50になってでも、作家としてデビューできるわけですから、あせる必要がない。
占い師は、運のピークを逆算して計画的に動き、勝ちを重ねる方法を教えてくれました。
ところで、私は、それまで手帳を持っていませんでした。
過去を振り向くことはなかったし、未来を信じてもいなかったから。
占い師と出会って、ちょっとだけ、自分の未来を信じてみる気になった私は、初めてシステム手帳を買いました。
6つ穴の小型。白いビニールカバーの安物でしたが。
数年単位の計画で賞を獲るとなると、1年単位の綴じ手帳では、年が変わるごとに、アイデアや資料などの内容を転記しなければならず、面倒だったからです。
システム手帳なら、カレンダーとダイアリーのリフィルを差し替えるだけ。手間がかからない。
ちなみに、クオヴァディス(フランスの綴じ手帳)ユーザー、やまかつさん(文具ブログ「さんてんり〜だ」主宰)は、古い手帳から新しい手帳に切り替える時、今年の手帳に書いたプロジェクトの内容をコピーして、来年の新しい手帳に貼るそうです。
まめですね。
やっぱり、綴じ手帳ユーザー失格だな。私は。
占い師の「最初のチャンスは1999年秋」の言葉通り、私は計画的に作品を書き……
『雨…アレルギーが治らない時』が新風舎出版賞最優秀賞を受賞。
翌年、これが『アレルギーと生きる』として出版されるのを機に、新しいシステム手帳「LACEE」を購入。
そして、2004年、文藝春秋04年版ベストエッセイに作品が選ばれて、手帳はファイロファックスに……
「姉ちゃん。ファイロファックス買ったの? ほほう。作家先生みたいで、かっこいいよね」と、妹にひやかされましたが。
この頃になると、システム手帳復権のきっかけとなった熊谷氏の著書をはじめ、さまざまな人の手帳術本が書店に並ぶようになりました。
「夢を実現し、勝ち組になるために、目標と夢の期日を具体的に設定。それを逆算したスケジュールやTODOを決め、それを着実に達成する」
……細かい方法は人それぞれに違うけれど、今の「手帳術」の大筋は同じ。
年々内容はストイックになるので、そのうち「手帳術」は「手帳道」になるかもしれない。
ところで、最初に買ったシステム手帳付属のリフィルは、カレンダーとメモと見開き2週間ダイアリー。
私は、それをそのまま踏襲して使っていました。
アイデアや資料類はメモリフィルに。
見開き1ヶ月のカレンダーに予定。
見開き2週間リフィルに、その日の出来事や思いを簡単に走り書きし……
見開き2週間ダイアリーを日記帳と勘違いしていたのです。
(実は「ダイアリー」には「予定表」の意味もあり、本来見開き2週間ダイアリーリフィルは、週間単位の「予定」を書き込むためのもの)
このままじゃダメだ……あせった私が手に取ったのが『システム手帳新入門!』。
舘神龍彦さんの著書。
これが縁で舘神龍彦さんと知り合い、システム手帳の使い方を研究する『館神Blog』で、勉強させていただきました。
おかげさまで、他のリフィルの使い方も分かり、時間を効率的に使えるようになり、やりたいことも整理できるようになりました。
館神Blogに参加される方々も、みんな自分の夢に向かってがんばっていらっしゃる
……私も夢に向かって努力はしているけれど
……「計画通り」「ひた走る」ができなかった。
例えば、私は時間単位のスケジュールリフィルを使いません。
時間ごとに厳密にスケジュールを決めてしまうと、喘息発作などのアクシデントで、スケジュール通りに行動できなかった時、自分を責めてしまいそうだから。
「ひた走る」……これも難しい。
私は時々立ち止まって、「自分は夢に向かって走っている。だから、今の私は充実しているし、間違いなく夢にたどりつける」というのは、単なる思い込みじゃないかと不安になったり、
地図を開いて、自分が断崖絶壁に向かっていないか確認したり、
チャンスの女神を捕まえるための落とし穴を掘ったり(時々女神は罠にかかるけれど、不機嫌になるらしく、バチが当たる)、
目的地に瞬間移動するための飛び道具を作ったり……
よけいなことばかりしています。
最近、無計画な自分には、システム手帳を使う資格がないかもしれないと悩んでいました(詳細は『夢と現実とシステム手帳』にて)が、舘神龍彦さん、やまかつさん、あやみさんに、励ましのコメントをいただき、元気が出ました。
現在の目標は『ventus〜風のごとく〜』の書籍化。
今のところ、書籍化に関する情報はまったくありませんが、2007年は一応強運期ですし、できる限りのことはやってみようと思います。
ラベル:システム手帳