いつかはそうなると覚悟していたけれども。
こんな形で合気道をやめなきゃならないとは思いもよらなかった。
子どものころから喘息で「二十歳までもたない」と、医者はさじを投げていたし、30歳の時、規定量内での喘息薬の副作用事故で、あやうく命を落とすところだった。
ちなみに、この事故から私を救ったのは武道13段の夫でした。
空手四段剣道三段少林寺拳法三段大東流合気柔術二段柔道初段。
少林寺拳法の「活法」で、気道を開くツボを押して、私を助けたのでした。
その夫の勧めで、喘息に効く丹田呼吸法習得のために、合気道をはじめたわけですが……
まさか、こんなところで挫折するとは……
ところが、夫は言いました。
「お前の検査やけどな。俺も年休取ってつきあうから、大丈夫や」
……何がどう「大丈夫」なのかはわからないけど。
なぜか自信満々な夫。
悪い結果が出て、私がショックで倒れたら、柔術の技で「活」を入れて正気に戻す気かなあ。
……確かに、ある意味「大丈夫」かもしれない。
でも、「俺がなんとかするから大船に乗った気分で」というより、「切腹の介錯は俺がやったる」に近いニュアンスの「大丈夫」で、なんだか嫌だなあ。
大病院を紹介されて、いくつかの精密検査の結果、医者の診断が出ました。
「良性のポリープです。画像もきれいですし、血液検査の数字は全部正常範囲。腫瘍マーカー反応も全然出てません。今のところガンはありませんね。ポリープは、このサイズなら局部麻酔の内視鏡手術。ちょんと切るだけですよ」
薬物アレルギーがあることを考慮して、入院は通常より一日多い3泊4日。
退院して自宅で2日静養した後は、普通に仕事や家事をできるとのこと。
「入院手術」という悲壮な感じのものじゃなくて、「ちょっとした小旅行」のノリで過ごせるものらしい。
……よかった。
「ほうら見てみぃ。俺の言うた通りやんか。だから言うたやろ。ポリープやて」
なぜか勝ち誇る夫。
「40半ば以降の女性は、ホルモンのバランスの乱れで体調をくずしやすいんです。ガンもできやすい。この年代は仕事や子育てで忙しいから、ぎりぎりまで無理をして、どうしようもない状態になってから、病院に来る人が多いんですが。……このタイミングで病院に来たあなたは運がよかった。これからは病院でこまめに検査して、体を労わりながら生活することをお勧めします」
医者の言う通りです。
もし、あのまま……若い時のままの気分で突っ走っていたら、とんでもないことになっていた。
重要な岐路に立っていた私を、私の体の意思は強引に軌道修正させたらしい。
……ありがたいことです。
それにしても、手術後のリハビリの稽古はどうしようかな。
『佐々木合気道研究所』の佐々木貴七段は、「高齢者の合気道」の項目で、こんなことを書かれています。
『一番変わったのは、以前は他人を意識した稽古をしていたことである。稽古相手に負けないよう、相手をなんとか投げよう抑えようとすることに一生懸命になっていた。それが、稽古相手は倒す対象ではなく、自分の稽古を手伝ってくれる、いわゆる分身であると考えるようになった。だから、稽古を相手してくれることに感謝し、相手のためにもなるよう、また怪我をさせないよう、不愉快な気持ちにさせないようにと、相手を大事にするようになる』
……なるほど。私は「柔らかい合気道」をめざしてるので、方向性は合っているのか。
私は「高齢者」というわけではないですが、ここに書かれている「体を労わる稽古の仕方」は参考になります。
「少しでもいいから毎日稽古すること」
「必ず準備運動をすること」
「準備運動や息を吸って伸ばし、それを吐ききって、さらに伸ばす」
「指先から手首、肘、肩、肩甲骨、胸鎖関節、首、股関節、膝、足首、足指などを入念に柔らかくすること」
「ケガをしないこと」
「稽古後の整理運動は必ず行なう。呼吸に合わせてゆっくりと伸ばしてクールダウンすること」
稽古の後で足がつったり、夜眠れない時は、スポーツドリンクを飲むと解消されるそうです。
「手術後のリハビリですが。当面のところ、飛び受身をやるような技は避けて、木刀の素振りや、ゆっくり後ろ受身を取れる立ち技主体で組みましょうかね」
手術する前から、もうリハビリの稽古メニューを考えはじめてる。
先生も気が早い。
でも、そのおかげで合気道をやめずにすみそうです。
ラベル:合気道
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