現代人にはなじみのない正座したままの状態で前進する動き。
膝が痛くなって、合気道をやめてしまう原因にもなっているもの。
膝行の稽古をすると、足指の付け根や膝が痛くなるのを防ぐ方法は、『yahoo知恵袋』に載っています。
『膝行の基本姿勢は、正座の状態から爪先を立てて両踵の上に尻、胴体、頭部が載るイメージです。両手は腿の上に軽く置きます。これが前傾姿勢になったり仰け反ったりすると、膝や足指の一ヶ所に全体重がかかるのでご注意ください。移動する時もなるべく膝を地面から離さずに動く事がポイントです。また、手は腿の上に置いたままで、腕を振って反動をつけたりしない事。正座のまま畳の上をスーッと滑っているように見えるのが理想です。また、それが足に負担のかかりにくい方法だと思います』
ちなみに、私は初心者の頃、家でも膝行・膝退の稽古をしていました。
最初に膝行の稽古をした時、つんのめって畳で顔面を打ちそうになって悔しかったからです。
稽古といっても、「部屋の端から端まで10往復」じゃなくて、自分が思いついた時に、ほんの3、4歩、膝行で前進して、そのまま後退する程度。
背筋を伸ばし、自分で自分の重心の位置を意識しながら、ゆっくりと前進、後退する。
この稽古の目的は、「膝行が早くなること」ではなくて、「膝行しやすい自分の体勢を確認する」ことです。
道場の稽古だと、周りの人に遅れまいと、あせって前傾姿勢になって進んで膝を痛めたりしがちですが。
家で稽古すれば、その危険は減ります。
自分で「痛い」と思った時点で、誰にもはばかることなく稽古をやめられるのが、家の稽古の一番の利点。
正座したまま後退する膝退は、膝行と正反対の順番で動くのですが、こちらの方が難しい。
使う筋肉が全然違うのです。
膝行では痛くならなかった箇所が筋肉痛を起こします。
でも、下半身全体の筋肉トレーニングにはいいかもしれない。
合気道をはじめる時に、「道場だけで稽古してても、絶対うまくならへんで。家でもできることはせんとあかん」と、武道十三段の夫から、そうアドバイスがありました。
私は家でも稽古しましたが、同じ頃に入った初心者には「稽古は道場だけでする」と言う人もいました。
でも、道場だけで稽古する人の上達は遅かったですね。
ところで、先日開催された所属道場の創立50周年記念演武大会で、合気道道主の植芝守央先生の特別講習会がありました。
その時に道主先生の「座技呼吸投げ」を拝見したのですが、一歩一歩の歩幅が大きいのに重心は安定していて、畳の上をすべるように膝行をされていました。
一般的には、進む歩幅が大きいと重心がぶれがちなのですが、上達すると、歩幅が大きくても重心が安定するんですね。
あれを目標にがんばらなくては。
「立ち技では、どうしても体の中心が意識しづらいし、高さがあるから、技にごまかしが利くんですよね」
先生はそう言いながら、座技の稽古を欠かしません。
確かに、正座したままかける関節技「座技正面打ち一教」を稽古して、その直後に「立ち技正面打ち一教」の稽古をすると、自分の体軸の動きを意識しやすいです。
立ち技の稽古だけだと、膝を微妙に曲げて重心の位置を調整できるので、「技にごまかしが利く」。
下半身の鍛錬や重心や体軸をしっかり意識するためにも膝行、その延長戦にある座技は必要だと思います。
……「膝を痛める危険があるから」と、膝行と座技を全面的に禁止するのはダメだと思うなあ。
昔だったら「みんなで一斉に膝行やって、それについてこれない者は合気道する資格がない」でよかったんでしょうが。
今の武道は、中学でも必修化されて「日本人誰もが気軽に武道に親しめるように」という方向に進んでますから。
合気道をやりたい人全員が合気道を楽しめるような、それぞれの個性に合わせた、きめの細かい稽古方法を考える時期にきているのかもしれません。
ラベル:合気道
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膝行は家で稽古するのがいいですよ。おっしゃるとおりです。そして、座り技の大切さも本当に書かれているとおりです。
僕の道場の姉妹道場の先生は、本部で植芝盛平翁先生の稽古に出られていて、翁先生は座技を弟子たちがやっていると機嫌がよかったそうです。さんざんやったので、その頃の仲間はみんな座技が嫌いだと笑いながら話してくれました。