「所属道場の開設50周年記念演武大会やねん」
「ほう。お前も出るんか」
夫は少しまぶしげな顔で私を見ました。
「……いや、出られない」
「なんでや。40周年は出てたんとちゃうんか」
「……今、所属道場で稽古できてないからね……」
夫はさびしげな顔をしました。
在宅介護生活に入って2年。
所属道場の平日夜間の稽古には行けなくなりました。
出稽古先で休日に合気道の稽古をしているけれども……。
50周年記念演武大会用の稽古は、半年前からはじまると聞いて「こりゃ、参加は無理だ」と思いました。
昨年のように、義母が唐突に入院するリスクもあるので、道場に迷惑をかけるわけにはいきません。
道場開設50周年記念演武大会当日、豊中市立武道館ひびきへ。
道場に移る前に合気道を稽古していたスポーツ教室「合気道」でお世話になった、僧侶の有段者が受付に座っていました。
「お久しぶりです。先生、最近は結構なご活躍で」
「何をおっしゃいますやら」
「たまには教室に顔出してくださいよ」
そんなやりとりをしながら、プログラムを受け取って2階の柔道場へ。
観覧席には若い合気道家がひしめいています。
いずれも有段者ばかりですが、所属道場の人々ではありません。
プログラムによると、演武会の前に、合気道道主の植芝守央先生の特別講習会が開かれることになっていました。
なるほど。講習会目当てに関西一円から合気道家が集まってるわけですね。
開始時間だけ聞いていたので、これは知らなかったな。
その時「久しぶりやね」と声をかけてきた男性がいました。
眼鏡をかけた五十過ぎの男性。
私がスポーツ教室「合気道」でお世話になった有段者で、大阪府立渋谷高校の先輩でもある方。
「演武会、出ないんですか?」
「いやいや。仕事残業ばっかりで、スポーツ教室の稽古できてないから……。40周年も出られんかったし、俺が最後に出たのは30周年か。島村さんは40周年は出てたよね」
そうそう、あの時、先輩も含めて、40周年記念演武大会に参加できない同門の方がたくさんいて、みんな観覧席で見学していました。
「そやけど、○○さんも△△さんも□□君も姿が見えへんな……」
観覧席を見回して、先輩はそうつぶやきました。
そうなんです。
今回は観覧席に見知った人がいない……
私が2年間、所属道場を離れている間に代替わりしたのか。少しさびしい気がしました。
「あ、あそこに集まってる」
先輩が指差した柔道場の片隅に、演武大会に参加する袴姿の同門の有段者の皆さんが集まっていました。
しかし、40周年の時と比べて数が多くない。
「うーん。やっぱり、40周年の時より参加者少ないよなあ」
プログラムの参加者名簿をにらみながら先輩は言いました。
「50周年やから少数精鋭なんじゃないですか。40周年記念は、道場内々のお祭りだったから」
確かに、40周年は所属道場の傘下の道場、海外からの道場からも参加者がいて、今回の倍近くの人数でしたが。
さて、演武大会が始まると、合気道家たちは観覧席から柔道場へ。
広い柔道場の畳を正座した合気道家が埋めつくしています。
開会の辞、道場長の主宰者挨拶、植芝守央先生の来賓ご挨拶が終わると、記念講習会がスタート。
道主先生は東京の合気会本部道場におられるので、関西の合気道家が直接稽古をつけていただける機会はめったにありません。
あまりにも参加者が多くて十分な面積がなく、危険を避けるために投げ合いができない稽古ですが、それでも得るところは多い講習会。
ああ、講習会があると知ってたら、出たのになあ。
久しぶりに拝見した道主先生の演武は、昔の「折り紙細工の鶴のような、どこから見ても端正な動き」とは少し変わっていました。
動画で見た開祖の動きに近いです。
例えるなら「動きが楷書から行書に変化した」という感じでしょうか。
やはり、合気道の形は年齢とともに変わっていくものなのかなあ……
そんなことを考えているうちに講習会は終わり。
いよいよ所属道場門下生による演武大会のスタートです。
……次回に続く……
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