観覧席は先程の道主特別講習会に参加した有段者の若者たちで満員。
所属道場だけでなく、関西の各道場の師範演武も見られるとあって、みんな真剣な表情で柔道場を見つめています。
「お久しぶりですやん。あれ? なんで二人とも袴履いてませんねん?」
声をかけてきたのは、スポーツ教室「合気道」で一緒に稽古していた男性有段者。
「せっかくの50周年記念演武なんで、せめて見学だけでもと思ってな」
苦笑する先輩に、有段者は汗をタオルで拭きながら、ぼやきました。
「朝から準備にリハーサル、俺、もうくたくたですわ」
「これから本番の演武があるじゃないですか。がんばってくださいよ」
「まあ、がんばってきますわ。二人とも、またスポーツ教室へ来てくださいよ」
有段者は笑顔で手を振って、会場の柔道場へ降りていきました。
合図の太鼓の音が響くと、いよいよ演武会です。
最初が道場長代行の演武。
私の直接の指導者で次の道場長になられる方。
以前より演武に力強さが増したような感じ。
少年演武は道場と傘下道場の子どもたちですが、40周年の時よりも数が少なく年長の子どもばかり。
前は幼稚園に上がるか上がらないかの年齢の子どももいて、演武の最中に畳の上に座り込んだりするような、ちょっとご愛嬌な場面もあったのですが。
「50周年記念大会に粗相があってはならない」というような気迫すら感じられる演武。
「うひゃあ、レベル高いわ。俺、出んでよかった」
「何を言うんですか。先輩だって上手じゃないですか」
確かに先輩の言う通り演武のレベルは高い。
一般演武に参加している傘下道場の門下生も、道場の門下生も有段者ばかり。
茶帯や白帯はほとんどいませんでした。
この日のために入念に演武のための稽古を積んでいるようで、洗練された「隙のない」演武。
道場の威信をかけて失敗は許されない……かなりの重圧の中での演武。
私が参加していたら、プレッシャーで何かミスをしてしまいそうな気がする。
40周年は「40周年おめでとう! みんなで集まって楽しく合気道やろう!」という空気で、当時は茶帯(上級者)だった私も、初心者クラスの白帯の若者たちも大勢参加して、完全にお祭り気分でしたが。
50周年は節目の年だから、そうはいかないようです。
道場演武が終わると海外参加者演武。
オーストラリア、ベルギー、カナダ、ドイツ、イスラエル、オランダ、ポーランド、シンガポール、アメリカ、グアムなどの傘下道場や交流のある道場から参加した外国人有段者の演武です。
以前、道場に来ていた外国人留学生もたくさん参加されていて、みんな当時より上達しています。
故国に帰っても熱心に稽古しているのだなあ。
中でも印象に残ったのが、グアム合気会の演武。
還暦を過ぎた白髪の女性師範が華麗な投げ技を披露しました。
以前『逡巡』で、「還暦を過ぎた師範位(6段)の女性はいない」と書いて、後で「合気会には還暦を過ぎた女性師範がおられます」というメールをくださった方がおられましたが。
どうやら、それはこの方のことらしい。
うらやましいなあ。
経済的にも時間的にも余裕があって、自分も家族も健康で……
仕事や家事や出産や子育てや病気や介護で、武道を続けられなくなっていく女性武道家が多い中、運のいい方だ。
私も在宅介護になった時点で、本来は合気道をやめることになるはずでした。
「お袋は俺がみとったるから稽古行ってこいや」という夫。
「よかったら介護の間、僕のところで預かりますよ」という出稽古先の先生のご好意で、合気道を続けられているのですが……
所属道場に、いつ戻れるのかはわからない。
在宅介護がなければ、所属道場のみんなと演武場の方に立っていたんだろうけど……
演武プログラムは御招待者演武になりました。
大阪や兵庫や奈良などの連盟理事長クラスの師範の皆様と、選りすぐりの受けの有段者の演武を見るのは、いい勉強になります。
それにしても、合気道というのは「受け(技をかけられる方)と取り(技をかける方)の両方が動きや気を合わせなければいけない」ものなのかなあ……。
最近、「合わせる」「向き合う」ということをテーマに稽古してますが、その中で、「相手が合わせてこなくても、こちらから合わせる」ということもやっています。
ちょっと「合わせる」が過剰かなあ……
そんなことを考えている間に御招待者演武は終わり。
道場長演武は道場長の流麗な演武。
最後の道主演武は、道主の堂々たる演武を拝見することができて……
せめて見学だけでも、と思ってやってきたのは正解でした。
盛況のうちに終了した道場開設50周年記念大会。
同門の皆様、準備や後片付け、お疲れ様でした。
10年先の60周年には参加できたらいいんですが。
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