師範に招かれた有段者が2人。
師範を挟んで左右に立ちます。
「それっ!」
かけ声とともに、有段者たちは左右から師範めがけて鋭い突きを繰り出す。
師範は、右からきた有段者の横をすり抜けると、目にもとまらぬ早業で、その手をつかみ、小手返し(相手の手首をつかんで関節技をかけつつ投げる技)をかけて、左の有段者に向かって放り投げる。
左の有段者は、投げ飛ばされた有段者をよけるのに精一杯。
師範を攻撃する余裕がない。
「もう1人の敵に向かって、盾にする形で放り投げるのがコツです。では、二人掛け小手返し。はじめっ!」
私は有段者と上級者、3人で稽古したのですが、この「同時に仕掛ける」は、かなり難しい。
突きを繰り出すタイミングを誤ると同士討ちになってしまうし、突くタイミングを計るために、「えいっ!」と声を出すと、取り(技をかける人)に、いつ突いてくるか悟られてしまう。
自分が取りになる場合は、両方のこめかみで左右の受け(突いてくる人)の位置を捕捉しながら、うまく突きをよけられるので、とても面白かったのですが。
普通、人間は2つの目で物を見ています。
しかし、修練を積んで自分の勘を研ぎ澄ますと、背中に目ができて相手の動きを読み取ったり、手に目ができて数ミクロン単位の精密な細工ができるようになったり……
人間の潜在能力には計り知れないところがあります。
師範は「眉間に目を作るように」と、よくおっしゃいます。
これが武道で重要とされる「心眼」。
私の場合、なぜか眉間の他に、こめかみにも目があるのですが……
心眼を養い、目に頼らず、全身で相手の気配を察知するための修練として、1人を複数の人間で囲んで攻撃を仕掛ける「掛かり稽古(多人数掛け)」が、大抵の武道にはあります。
今年秋、師範が、オランダやポーランドの道場や学校を回って、合気道セミナーを開かれました。
その時、この「多人数掛け」の稽古は、どこの会場でも大好評だったそうです。
海外の人にもわかりやすい「最も武道らしい稽古」の一つでしょう。
ところで先日、「自由技(空手や柔道の乱取りにあたる)で四人掛け。うち2人は杖(棒状の武器)」という難しい稽古に出くわしました。
しかも、私以外の4人は全員有段者。
私が4人に囲まれるやいなや、眉間とこめかみが勝手に相手との間合いを計り、自己防御本能始動。
正面から拳で突いてきた女性有段者を呼吸投げで、左の杖を持った有段者の方に投げ飛ばし、右から杖で突いてきた外国人有段者から杖を奪い取り、真後ろの外国人指導員に対し、杖を構えて威嚇……
「ナイス! シカシ左手ハヨクナイ」
高校の英語教師で5段、指導員の外国人有段者の指摘。
気がつくと、私は杖を左で構えていました。
杖は右構えが基本。
私は無意識に利き手の左を使ってしまったらしい。
この後、私は囲む側。
杖で相手を突きましたが、タイミングを誤って、味方を突きそうになったり、杖を奪われて「ポカリ」とやられたり……
かなり苦労しました。
確かに、1人を囲んで同時に攻撃を仕掛けるのは、とても難しい。
まだまだ修行が足りませんね。
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