ここでぜひとも見ておかなければならないのは、「糸東流空手」「神道夢想流杖術・一心流鎖鎌術」「本體楊心流柔術」。
「糸東流空手」は「高原派糸東流 拳法空手道修交会 誠拳館」と「全日本空手道連盟糸東会 拳心館」の二つの道場が出てきましたが、空手の試合を見慣れていない合気道家の私には、正直どちらがどのように違うのか、よくわかりません。
でも、子どもたちが元気よく空手の演武をする姿は、ほほえましいものです。
ただ、この糸東流、テレビで見るK−1や大学の空手の試合に比べると明らかに違う。
型のバリエーションが多いような気がする。
糸東流空手に比べると、現代の空手はキックボクシングに近い。
……これが古流空手と現代空手道の違いなのかもしれない。
「神道夢想流杖術(杖道)・一心流鎖鎌術」、両方とも神道夢想流杖術の方が演武されます。
『図説武器術(小佐野淳著 新紀元社)』によると、鎖鎌術は江戸時代初期に武芸十八般の一つとして成立し、多くの流派で併習されていて、特に一心流鎖鎌術は、神道夢想流杖術とともに習うものとして知られていたようです。
まず杖について。
合気道にも「合気杖」という杖を使った型があるので、杖術を習う合気道家も多いですが、型は違います。
合気道は「杖取り」と呼ばれる「杖対徒手」の型と、「杖対杖」の「杖合わせ」の型がありますが、杖術は「剣対杖」の型。
『日本古武道連盟』サイトによると
『杖術は突き、払い、打ちの攻撃を技とするが、左右両技を等しく使うのが大きな特徴である。これらの左右両技を連続的に使い、自分の手足の如く操作し、相手の動きに応じて体を捌き、武器を打ち落とすことができる』
「合気杖」は、故斎藤守弘師範が、合気道開祖・植芝盛平翁の杖の技法をまとめた「十三型」「三十一型」が有名ですが、実は、この二つの型は左右対称ではないのです。
その理由はよくわかっていません。
舞台では杖術の演武がはじまりました。
向かって左手に剣を持った男性が並び、左手には杖を持った男性が並んで、それぞれ二人一組で演武します。
杖術は合気杖に比べて動きが直線的で早い。
巧みな杖さばきで、杖の先や杖尻を自在に切り替えて相手の剣の動きを封じ、杖を使って剣をからめ取る。
こういう動きは合気道の杖には見られない。
……それにしても、しばらく杖の稽古をしていなかったなあ。
次の稽古で、久しぶりに杖やってみたいなあ。
「一心流鎖鎌術」。
演武で使われるのは刃のついた鎌と鉄鎖ではなく、稽古用の木製の鎌と分銅を白い紐でつないだもの。
しかし……この紐がまた長いんだ。
5メートル近くあるので、地面に置いた紐を手繰り寄せるまで暇がかかる。
途中でからまったりしたら、大変そうだ。
「そんなに長い紐が必要なんか?」と思われる方もおられるでしょうが、3メートル離れて木刀を構えている相手の顔面や小手や足の甲を分銅で狙ったり、相手の木刀にまきつけて、その動きを封じたりするのには、やはり、そのくらいの長さが必要なのかもしれません。
「木製の分銅を相手の眉間に当てる」という危ない技も演武されました。
分銅が受け(技をかけられる側)の頭に当るたびに「ボコッ」という音が響くので、見ている方がひやひやしますが、受けの男性はひるまず演武を続ける。
さすがに古流の方は気骨があるなあ。
分銅による攻撃だけでなく、時代劇で見るような「分銅鎖を相手の刀に巻きつけて動きを封じ、鎌で相手の手首を刺す」という技も披露されました。
鎖鎌は使いこなせたら、かなり面白い武器だと思います。
ちなみに、「姫路城古武道大会」は、1つの団体の演武時間が15分。
もうちょっと、それぞれの演武をじっくり見たいのですが、参加団体が多いので仕方がないかもしれない。
BGMをかけながら居合いをする「剣詩武道」の珍しい演武が終った後、いよいよ「本體楊心流」。
姫路古武道連盟の中心になっている団体です。
最初に、茶色の藁を巻いた二本の棒と、真剣を持った道着袴姿の若い男性と白髪の男性が登場。
鋭い気合とともに繰り出した鮮やかな袈裟斬りで、見事に棒を一刀両断。
会場からは大きな溜息がもれます。
この「藁斬り」は非常に難しい技。
「剣に気迫をこめる」「刃筋を通す(斬りはじめから斬り終わりまで刃の向きに合わせて刀を動かすこと)」、この二つの条件が整わなければ、いくら真剣を振り回しても、巻き藁を斬ることができません。
「なんで柔術で藁斬りやねん」と思われる方もおられるでしょうが、剣は剣道、弓は弓道というふうに、武術ごとに細分化されている現代武道とは違い、古武道は、いくつかの武術を同時に学ぶのが普通なのです。
パンフレット『姫路城古武道大会』によると、
『本體楊心流は、柔術・棒術・小太刀術を三本柱とし、居合術を含んだ総合武道である。当流の特徴は、おおむね技が簡素で虚飾がなく、直接的・効果的な技術である点にある。徒手でも、あるいは得物を持っても同様の体捌きで敵の攻撃に対応することができ、柔術六法(逆・投・締・当身・捕付・活)により、いわゆる「活殺自在」の境地を目指すものである』
つまり「柔術なのに居合の演武」も十分にありうるわけです。
小太刀や居合術の演武は二人一組で行われましたが、すべて刃を合わせない寸止めの演武。
真剣も居合いで使われる模造刀も大変デリケートなもので、やたらに刃を合わせると、それだけで刃こぼれがおき、下手をすれば刀そのものが折れることすらある。
しかし、この居合術は……
テレビのスポーツ番組や、高津宮奉納演武で見たような、優美な居合道の型(全日本剣道連盟制定型)とは明らかに違う。
殺気を持って斬りかかってくる相手を想定した、どちらかといえば一つ一つの動きが重く、直線的で剛直な剣。
納刀前に行う「血振り」も小さく早い。
……うーむ。これはすごい。
柔術の演武では、合気道のように両手を前に出して構えないところが特徴。
舞台が地面だということもあるのか、固め技が主体。
合気道の「一教」と似た技も披露されましたが、動きは固く、力で相手を制している感じ。
ただ、今回の演武は、居合術に力を入れているようで、柔術の演武はほんの少しだけだったので残念。
棒術の演武では、短めの「半棒」が使われました。
棒の先を揺らして相手を誘うような独特の動きをしますが、杖のように棒を振り回さず、棒そのもので相手を押さえ込む動きが特徴のようです。
そして、作務衣姿の姫路古武道連盟会長が舞台に登場し、本體楊心流の居合術を披露。
87歳とは思えぬ軽やかな動きには目を奪われます。
最後に、この古武道連盟会長から閉会の挨拶があり、姫路城古武道大会は無事終了。
予想以上に収穫が多く、電車で片道2時間かけて姫路へ来た甲斐がありました。
やっぱり、出かけるチャンスがあれば、それを逃さずに、いろんなところに出かけて行かないといけませんね。
また、そのうち「出張武道系コラム」をやりたいものです。
ラベル:合気道
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