招待状に社名や部署名、担当者名欄があるということは、たぶん、来訪者はビジネスマンばかりだな。
カジュアルな風体で出かけて変に目立ち、営業担当者に取り囲まれて、気がついたらパソコン30台納入契約をさせられていた……という展開は避けたい。
よし。「潜入」しよう。
雪が舞う寒い日なのに、スーツとトレンチコートの薄着で尼崎の展示会場に出かけてみると……
スーツの来訪者も多いけれども、ダウンコートの暖かそうな格好の来訪者が2割ほど混じっている。
……ちぇ。私もダウンコートで来ればよかった。
この「NIKKOフェア」では、展示会のほかに、日本サッカー協会顧問の釜本邦茂さんや、時事通信社解説委員の田崎史郎さんの講演会も行なわれています。
講演会も気になるけれども、まずは文具メーカーの展示ブースを回らなければ。
特別展示『文具の歴史コーナー』とゼブラの「SYU−KATU」と、今流行の「ノートに書いて、スマホで写真に撮ってデータ共有」タイプのデジタル文具、ナカバヤシの「スマレコ」、キングジム「ショットドックス」も見ておかなきゃ。
到着が遅れたから回りきれるかどうか心配だ。
あわただしく受付を済ませると、黄色のネックストラップと日興商会の「ぶんぐ倶楽部」のパンフレットが入った紙袋を渡されました。
ネックストラップの先についたケースに、抽選用の招待状の半券と名刺を入れ、名札代わりに使います。
メーカーの人は赤いストラップなので、色によって来訪者か展示会関係者か見分けることができる仕組み。
展示会場は尼崎中小企業センター、あましんニューアルカイック・オクト、都ホテルニューアルカイック。いくつかに分かれていますが、必要なところだけ急いで回ろうと思ったら、予想外の伏兵が……。
会場入口のコクヨのブース「キャミアップ」のデモンストレーション。
展示会案内には、デジタル文具「キャミアップ」が出てくると書いていなかったから、油断してたなあ。
もっと早く会場にくればよかった。
iPadを使った男性デモンストレーターの熱心な説明と実演に、ついつい見入ってしまい、「キャミアップ」を試すだけで1時間近くかかってしまいました。
こりゃいかん。
編集者と待ち合わせの後、軽い打ち合わせがあるかもしれないのに。
人混みをかき分けてコクヨの商品を見ているうちに、待ち合わせの時間が近づいてきました。
待ち合わせ場所のホテルのロビーと展示会場は別の建物だったりするので、移動時間が結構かかります。
思うほど見学できなかったなあ……。
反省しながら待ち合わせ場所へ行くと、招待状を送ってくれた編集者の他にスーツ姿の男性が二人。
名刺交換したところ、日興商会営業本部の課長と、編集者のプロダクションの文具の納品を担当している大阪中央支店の営業担当者でした。
なぜか「ようこそNIKKOフェアへ」と歓迎の表情。
主催者側の方と名刺交換するとは思ってなかったけど、失礼のないスーツ姿で来てよかった。
営業担当者の案内で編集者と一緒に展示会場を回ります。
『文具の歴史コーナー』では、コクヨ、三菱鉛筆、パイロット、シードなどが創業時の商品や懐かしいCM、ポスターなどを展示。
日本の文具メーカーは100年以上の歴史を持つ企業が多いのですが、ライオン事務機の創業220年という歴史の長さには驚きます。
「島村さんが文具に興味をお持ちになったきっかけは?」
「元々システム手帳が好きで。ちょっと気になって文具のことを調べてみたら、日本の文具メーカーは「世界初」の技術を持った会社がザラにあって、しかも歴史も古い。日本人の文具に対する執着は、江戸時代の人の根付に対する執着に似たところがありますね。ユーザーの要求も高いし、メーカーにも技術革新への情熱がある。だから日本の文具は世界一の水準になのでしょう。文具の魅力にとりつかれて、とうとう文具検定も取りました」
「ほう。文検ですか。あれを取った人は、弊社の社員でもいないかもしれません」
文具知識能力検定……文具の仕事についているわけでもないのに、文具販売専門職向けの資格を持ってる私も、物好きといえば物好きなんですが。
担当者の案内のおかげで、ナカバヤシとキングジムのブースでも、じっくりと商品説明を聞くことができました。
ナカバヤシ「スマレコ」とキングジム「ショットドックス」。
そしてコクヨ「キャミアップ」。
「スマホで撮ってデータ共有」のデジタル文具御三家については、また改めて書くことにします。
展示ブースと販売ブースは別なのですが、展示ブースで商品を売るメーカーもあります。
ニチバンのセロテープ「直線美」の小巻タイプ、504円也を買おうとすると、「500円で結構ですよ」と言われ、セロテープにテープ糊「テノリ」の試供品とマスキングテープ、絆創膏をセットにして包装されたものをもらいました。
お買い得だなあ。
会場には、会社員には見えないカジュアルな服装の人がたくさんいました。
担当者によると、今年はFMで宣伝して一般の人も参加できるようにしたとのこと。
文具メーカーとしても自社商品を試してもらって、その後の購入につなげたいわけです。
出展した文具メーカーの人たちは、来訪者を楽しませようと一生懸命。
おしつけがましい営業がないので、じっくりと気になる文具を試すことができました。
気になっていたセーラー万年筆ブース。
「リロマ」は、ペン上部のオイルパッドにアロマオイルを入れると、ペン軸側面の穴から柔らかなハーブの香りが漂う上品なボールペン。
「SHU−KATSU」は、3種類の太さの違う黒芯と赤芯、4本の芯と予備の芯がついているので、実質は5色ボールペンと同じ軸の太さ。
3種類の黒芯の太さを見分けるために、ボディーにドットやクローバーの目印も入っているのですが、ノック部分の色も違っていました。
極細字が白、細字がグレー、太字が黒。
これならわかりやすい。
やっぱり実物を見ないとわからないこともあるなあ。
私が「SHU−KATSU」を試し書きしていると、突然「どうぞ。お持ちください」とメーカーの人に言われました。
「もらっていいんですか?」
「お気になさらずに。ぜひ使ってください」
……ああ、なんだか申し訳ないなあ。
展示会場のあちらこちらで試供品の文具が配られています。
トンボ鉛筆「粘着グミ ペタッツ」の新商品のディスペンサータイプ。
ゼブラの蛍光ペン「オプテックス1.2イージー」。
住友3Mの粘着付箋の見本つきの立派な商品カタログ。
ぺんてるのボールペン「ビクーニャX」
……たちまち紙袋は文具でいっぱい。
これじゃ「潜入」どころか「接待」だ。
「こんなにたくさん文具をもらってしまって、申し訳ない気分になってきました」
「いえいえ、使ってみて、そのよさを知ってくださることが大事なんですよ」
三菱鉛筆販売ブースでは、どんなに書き続けても、いつでも芯が尖っている「クルトガ」が、替え芯つきで650円が500円也。
「おまけです」と、「ジェットストリーム」のボールペンまでつけてくれて、ありがたいやらうれしいやら。
謎の「メイドイン尼崎」と「鳥取県」ブースは観光PRと物産の販売。
編集者によると毎年出展しているらしい。
「尼崎」は地元だからわかるけど、やっぱり「鳥取県」は謎だな。
「面白いでしょう。私も文具好きで毎年来るけど、やっぱり文具は使ってみなきゃわからんことが多いですからね」と編集者は笑っていました。
招待券の半券を使った抽選会は参加賞。
どこにでもマグネットをつけられる文具、かわいい車のイラストがついたNIKKOフェアオリジナルデザイン「ペタフィー(ライオン事務機製)」。
399円也をもらってしまいました。
この展示会、文具好きにとっては、本当にお祭りのようなところです。
「来年も展示会の招待状をお送りしますので、ぜひお越しくださいね」
担当者は別れ際にそう言っていました。
来年はもっと余裕を持って見たいですね。
ラベル:ボールペン