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2013年02月23日

初講演『武道と健康』

所属している勁版会事務局から講演を依頼された時には、本当に驚きました。


しかも「武道と丹田呼吸法の話で。簡単な実演も」という無理難題。

……うーむ。困った。実演といっても、会議室で受講者を合気道の技で投げ飛ばすわけにもいかない。
そもそも人に何かを教えた経験はないしなあ……。

しょうがない。ここは身内に頼ろう。

「まず、レジュメに自分の言いたいことを全部書く。受講生にはダイジェストしたもん配る。ノートとらせんと覚えよらへんからな」とCAD講師の夫。
「時々立ち上がって板書したり、適当に目の合った人をあてたりして、中だるみさせへんように工夫せんと。生徒って、油断したら、すぐに寝よるから」と元簿記講師の妹。

……うぬ。私の初講演で受講者に居眠りされてなるものか。実演盛り込んだる。

受講者に配る資料は「プロフィール」、武道系コラムを加筆した「武道医療史と4種類の呼吸法」の解説、「1分でストレスがとれる丹田呼吸法」のハウツーの3枚。
私が使うレジュメは10枚。

レジュメ作成中、私の講演の紹介が載った『勁版会月報』が届きました。

国文卒で事務職勤務のかたわら受賞出版。
喘息薬の副作用事故から自力生還。
喘息を軽くするため合気道をはじめて現在は初段。
2009年、義母の在宅介護を機に執筆業をはじめる。

……うーむ。怪しい講師だなあ。
講演内容は『1分でストレスがとれる丹田呼吸法』だし。

前月の講演が『ビジネス書を手がけて22年』なのに、今月は『武道と健康』。
「講師も内容も怪しすぎる」と誰も来なかったらどうしよう……。

講演当日、すでに受講者が会議室前に集まりはじめていますが、事務局の人が来ません。
しょうがないなあ。
ビルの事務所へ鍵を取りに行って、会議室を開けてホワイトボードを設置していると、「講師本人がセッティングする講演は初めてですよ」と受講者に呆れられました。

レジュメには「ここで立ち上がり「武道医療の3つの流れ」と板書する」など、ト書きを入れてますが、最初からこの調子じゃ、シナリオ通りの展開は絶望的。
「受講者に楽しんでもらう」に徹するか。

参加者は10人。実演にはちょうどいい人数。

まずは自己紹介。
私が武道医療に出会ったのは、規定量内で起きた喘息薬の副作用事故の最中。
夫が少林寺拳法の技術で気道を開くツボを押して強烈な喘息発作を止めてしまったこと。

その体験を書いて受賞出版した『アレルギーと生きる』は、『毎日ライフ』『暮らしと健康』『讀賣ファミリー』『NHK 生活ほっとモーニング』などで紹介され、日本アレルギー学会の喘息予防治療ガイドライン改定に影響を与えました。

副作用事故の後遺症で、気管支拡張剤を使うと心臓がおかしくなる私をみかねた夫が、「喘息を軽くする丹田呼吸法がある。基礎の足さばきは家で俺が見たる」と合気道を勧め、極真空手4段剣道3段少林寺拳法3段大東流合気柔術2段柔道初段の知識を生かして、私をサポートしていることを話しました。

ここで、私の命を救った日本独自の医術……侍が戦いで傷ついた時の応急処置「武道医療」の話。

経絡(ツボ)を利用する「正胎術」、整形外科にあたる「整骨術(ほねつぎ)」、刃物でつけられた傷を治す「金創術」について解説。
この3つを室町時代の竹内流柔術が集大成し、武道医療は柔術家の医術として発達していきます。

ここで実演。合気道で行う「小手返し」の柔軟体操。
自分で手の甲側の小指と薬指の間にあるツボ「中渚(自律神経)」を押して「ツボは急所」を体感してもらいました。 

続いて、健康によい丹田呼吸法の歴史と4つの呼吸法……胸式呼吸、腹式呼吸(空手や剣道)、逆腹式呼吸(合気道)、密息(弓道)の特徴について解説し、基本の丹田呼吸法(腹式呼吸)の実演。

「普段呼吸って意識してないからなあ」と言いつつ、皆さん、結構真剣に丹田呼吸法に挑戦していました。

『1分でストレスがとれる丹田呼吸法』は、白隠の「内観法」に、椅子に座ったままできるストレッチを加えたもの。
「難しいですね」と言いながら、皆さん楽しそう。
「やりかたを印刷したので、持ち帰ってご自宅や職場でやってください」と言うと喜ばれました。

「こんな感じで武道は健康によいものなんです。特に合気道はお勧めです」

一応、講演は終了。
しかし、持ち時間2時間なのに1時間で終わってしまうとは。質疑応答が1時間。
まずいなあ。セミナーでは質問を想定し、答えを準備するのが鉄則ですが、質問が講演内容に集中するのか、怪しげな講師本人に集中するのか見当がつかない。

最初に年配の男性が手を挙げました。

「なぜ、柔道や剣道では体罰が多いんでしょう?」
 
そうくるか。
講演にも講師にも関係ない質問ですが、一般的には気になる話題でしょう。

私は明治期の武道界の危機……
廃刀令のために、多くの剣術家や柔術家が失業したことを説明しました。
柔術家への救済措置として「柔道整復師」制度が作られて現在まで続いています。
一方、剣術家の集団「抜刀隊」が西南の役で活躍したことから、警察に剣術が導入され、それが「剣道」として学校教育に浸透します。

「柔道は、「柔術を教育に使えないか」と考えた嘉納治五郎先生が、柔術から目潰しなどの危険な技を取り除いて、柔道の型を編み出されました」

……よく考えたら合気道家が答えられる質問じゃないなあ。

「柔道も剣道も、「教育のための武道」として発展したため、ルール変更が頻繁で、「勝つこと」が目的の「競技武道」になっていきました。この2つは他の武道と違って、学校に浸透した歴史が古い分、武道人口が多い。ほとんどの学校に剣道部、柔道部があって試合の機会も多く、「勝つこと」に熱中するあまり、つい手をあげてしまう指導者が出ることが確率的に多いんじゃないでしょうか。同じ武道家として非常に残念です」

質問者は感心したようでした。
別の男性が手を挙げます。

武道13段のご主人の職業は?」
「CAD講師です」
「あなたを家で教えているのは趣味?」
「そうです。お小遣い渡してるのに、月謝まで取られたら困ります」

大爆笑が起こりました。

「柔術道場には接骨院が併設されていたということですが、今も武道では食えませんか?」
「ほとんどの武道家は、武道とは別に生業を持っています。例えば、内田樹先生は合気道の道場をお持ちですが、昔は大学教授、今は評論家としてご活躍されています」
「内田先生の本は、よく売れますからなあ」

なぜか、しばらく内田樹先生の話になりました。

「私は、この丹田呼吸法と似たものを理学療法士から勧められました。丹田呼吸法は西洋医学を取り入れてるのですか?」
「最近の西洋医学は、鍼灸や漢方などの代替医療を認めています。東洋医学も西洋医学も「人の体を治す」目的は同じなので、同じ結論にいきつくこともあるでしょう」

……ああ、医療用語解説の仕事やっててよかった。

「僕は座禅やっているんですけど、丹田呼吸法を続けているうちに、体が硬くなってしまって。合気道の丹田呼吸法では、体が硬くならないのでしょうか?」
「同じ丹田呼吸法でも、禅は座ったままですが、合気道は動きながら丹田呼吸法をしています。柔軟体操で体を思い切り伸ばした状態で、さらに息を吐きながら体を伸ばすと、もう少し体が伸びるんです。……例えばこんなふうに」 

私は立ったまま前屈して指先を床につけて見せました。

「ここで、もう一度息を吐いて伸ばします」

前屈の状態で掌を床につける。

「すごい!掌が床につくなんて!」

……しまった。感動されてるポイントが違う。
でも、「丹田呼吸法で体が柔らかくなる」ことは証明できたようです。

「合気道のおかげで総呼吸量が同世代の成人女性の7割から8割になり、呼吸器弾力は32歳。実年齢より15歳若いです。これからも武道と健康について研究していきたいと思います」

しめくくりの言葉で無事に『武道と健康』は終わり。
「楽しかった」と好評でした。
また機会があればやりたいですね。
ラベル:呼吸法 健康
posted by ゆか at 10:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常コラム | 更新情報をチェックする
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