以前、このコラムで『美術館商売』をとりあげた時、「美術品は展示しただけで劣化する」というくだりがあって、それが妙に頭に引っかかっていた。
この本は、美術品を所蔵する一般人向けに書かれたもの。
考えてみると、絵画や工芸品をコレクションしている個人は多いのだから、「美術品は美術館にある」とは限らないのだ。
日本画、油絵、陶芸、工芸、彫刻……
美術品は、わずかな温度や湿度の変化、光、虫、カビ、手でふれた程度の衝撃などでダメージを受け、歳月とともに破損がひどくなる。
この本では、
美術品の保存方法から素材の知識。
作品にダメージを与えない飾り方。
地震などの災害対策。
修復家の高い技術と苦労。
学芸員(美術館職員)の仕事の紹介。
収集品充実のための情報収集術まで至れり尽くせりの内容。
図解や写真も豊富で、初心者に親切だ。
現在、全国の自治体は、図書館や美術館の民間委託や非常勤職員採用などで、経費削減に励む。
節約のために空調装置を切る美術館もあるらしい。恐ろしいことだ。
実は、現代最高の修復技術でも、破損した美術品の「完全復元」は不可能。
作品が作られた当時の材料と、同じ素材がないためだ。
「修復は保存の一環としてしか存在しえないのですから」。
絵画保存修復家の真鍋千恵氏は語る。
自治体は、人類共通の財産「美術品」を守るため、もっと美術品を守るソフト(設備管理費・経験豊富な学芸員など)を大事にしてほしい。
ちなみに、この本は、1996年出版。
私は図書館で借りてみたが、現在入手困難らしく、Amazonでは、定価の3倍近くの値段で取引されている。
「自分のコレクションを大切に保存したい」と思う人が多いのに、
「個人美術品収集家用保存方法指南書」……
この分野で、10年以上経った今も、この本を超える内容の書籍が、いまだに現われていないということなのかもしれない。
惜しいことだ。
『美術品を10倍長持ちさせる本』 日経アート編 日経BP社
ラベル:美術館
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